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父さん、桁が違う

2025/03/31 書き直しました

「センカ。いくらだ?」


 唐突に、静かな声が響いた。


 父さん――だ。


 その一言だけで、周囲の空気が変わる。姉さんがわずかに身じろぎし、低く答えた。


「……30億UCよ」


「ふむ。判った。出そう、30億UC」


 ……は?


 何を言ってるんだ、この人。


 え、今、30億って言ったよな?


「俺が出してやろう。買取だな。そして、開発資金も出そう」


 ぽん、と軽い調子で言いながら、父さんは俺の背を叩いた。


 待って、父さん? 冗談だよな? 冗談だと言って?


「父さん! 冗談言わないで! そう簡単に30億なんて無理でしょ!」


 姉さんが声を上げた。さすがに、あの姉さんが動揺している。


 けれど父さんは、全く動じなかった。むしろ――愉快そうに笑っている。


「いや、余裕だが?」


「……なに?」


 ぽつりと姉さんが呟いた。


 驚き、戸惑い――いや、ほとんど言葉になっていなかった。


 それも無理はない。


 父さんは腕を組み、どこか得意げに胸を張ると、あっさりと言い放った。


「俺、長年王様だったんだぞ? 報酬がないとでも思ってたのか? ふっふっふ、甘いなセンカ」


 その声には、いつものように妙な自信と、底知れぬ余裕が満ちていた。


「自慢じゃないが、俺はあまり無駄遣いはしない。貯蓄は俺の趣味だ。毎月の収入から定率で積立。……何年貯めてたと思う? 二千年以上だぞ? その蓄え、甘く見ないでもらおう」


 言い切るその声音には、一片の迷いもなかった。


「家族のためなら、俺は喜んで使う。痛くもかゆくもない。……ちなみに、お前が帰省して相談してくれてたら、そのとき出してやってたぞ」


 完全に詰み手だった。


 ぽかんと口を開いたまま、姉さんは微動だにしない。何か言いたいけれど、言葉が出てこない――そんな顔だった。


 たぶん、俺も似たような顔になってる。


 そりゃそうだ。二千年分の貯金? 個人のレベルを超えてる。いや、もう国だよそれ。


 さすが、うちの父さんだ。


 規格外すぎる。


「振り込んでやるから、クランの口座を教えなさい」


 まるで昼飯代を渡すかのように、父さんは当たり前の顔でそう言った。


「でも……」


 姉さんが、かすれた声で漏らす。


 それも無理はない。今の今まで「借金返済」に頭を悩ませていたのに、父さんがまるで茶代でも払うような勢いで30億出すなんて言うから。


 その戸惑いに、母さんがそっと声を添えた。


「センカちゃん、遠慮は無しよ。これは無償であげるわけじゃないわ。その代わり、私たち……追加で資金を出すから」


 その優しい声音は、まるで背中を押すように穏やかだった。


「だから、エクスちゃんとミケちゃんの機体を造って――っていう正式な依頼なの。それに、エクスちゃんにもちゃんと稼いでもらうから、心配しないで受け取って」


 ……え?


 なんか、今、母さんの言葉に“変な単語”が混ざっていた気がした。


 俺が、稼ぐ?


 どうやって?


「そうだな」


 横で頷く父さんの声が、さらに嫌な予感を裏付けてくる。


「俺の知り合いに頼んでやらせよう。仕事なら、山ほどある。報酬も、それなりに」


「ちょっと待て! 働くって、俺だけ!? ミケは!?」


 反射的に声を上げた。そうだよ、ミケだって機体を造ってもらうんだから――当然、働くよな!?


 だがミューケイは、至極当然の顔で、ぴくりと狐耳を動かしながら言った。


「何を言ってるの? 私はもう働いているわよ。エクス、アンタの専属メイドとしてね」


 ……あ、そうだった。


 すでに働いてたんだった。


 そういえば、家事も身の回りのことも、ほとんどミケがやってくれてる。なんなら食事の栄養バランスまで管理されてる。仕事量、普通にすごいな……


「わかったわ。父さん、母さん。その依頼、引き受けます。一応、正式にギルドに指名依頼を出してください。でないと、ギルドへの報告書に書けないので」


「わかった。手配しておこう」


 父さんが軽く頷いた直後――


「よぉ~し! これで正式に造れるよぉ~!」


 ジジさんと技術者たちが、まるで子供のように大声で喜びを爆発させた。


 しかしその瞬間、父さんの落ち着いた声が彼らを静かに制した。


「ジジ。出資はするが、その都度、精査する。計画書と予算案をまとめて提出しておきなさい」


 歓喜に包まれかけていたフォールの面々が、ぴたりと動きを止める。


「……え?」


「無駄遣いをしないように見張るだけだ」


 父さんはさらりと答える。


「しかし、それでは制作期間が延びてしまいますよぉ~!」


 ジジさんが半泣きになりながら訴えたが――


「問題ない」


 父さんは即答だった。


「七百年は訓練と仕事をしてもらう予定だからな。どのみち今の体格では、戦闘用の機体に乗せるわけにもいかん。最低でも成長を待つのに、それくらいはかかる」


 重すぎるその発言に、さすがのジジさんも最初は肩を落としていた。


 けれど、わずかな間を置いて――唐突に顔を上げ、メガネを光らせた。


「いや、七百年の時間がある……! ということは、より良いものを目指せるということだよぉ~! よし、フォールの諸君! 時間はたぁ~~~ぷりある! これはもう、素晴らしいものを造るチャンスだよぉ~!」


 勢いを取り戻したジジさんの声に、フォールの技術者たちがわっと湧く。


 その様子を見届けながら、父さんは淡々と告げる。


「では、そういうことだ。センカ、ゼン。正式な依頼は出しておく。頼んだぞ」


「わかりました」


「受け賜ります。クランとして最高の成果をお見せします。ありがとうございます――お義父さん」


 姉さんとゼン義兄さんが、そろって深く頭を下げた。


 しっかりとした所作。言葉の重み。いつもと違う二人の姿に、俺はただぼうっと見つめるしかなかった。


 ……置いてけぼり感、半端ない。


 思わず隣にいるミューケイに、小声で話しかけた。


「なあ……俺、完全に置いてけぼりなんだけど?」


 狐耳をぴくりと動かしながら、ミューケイはふっと笑う。


「仕方ないわ。大人の話し合いだもの。私たちには、まだ決定権がないってことよ。成長するしかないわ、心も体も全部ね」


「……そうだな」


 観念したように、少しだけ力を抜いて頷く。


「でだ。俺、いつまでこれ握ってればいいんだ?」


「気づいてもらえるまで、かしらね? でも……綺麗な光よね」


「そうだな」


 自然と目が、二人して目の前にあるそれ――


 青白い輝きを放ち続ける、二連魔力式縮退炉へと向かう。


 周囲がどれだけざわついていても、押し寄せる未来の重みに目が回りそうでも――


 この装置は、まっすぐに、力強く、ただ黙って唸りを上げていた。


 青く、青く、強く。


 目を覚ましたそれは、静かに確かに、動き続けていた。

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