規格外の魔力
2025/03/20 書き直しました
「もういいかい! では始めようぅ!」
ジジさんの声が、妙にワクワクした響きを帯びる。
いや、始めようって何を!?
俺が警戒していると、ジジはニッコリと笑い、指をスッと突き出した。
「エクス君、そこのポットに入ってもらえるかいぃ~?」
指の先には――医療用のポット。完全密閉型の、何かを測定するためのカプセル式装置。
俺は、全身に悪寒が走るのを感じた。
「……俺、健康ですよ?」
できるだけ冷静に、慎重に答えたつもりだった。が――
「そんな事はどうでもいいよぉ~!!」
ジジさんが全力で断言した。
どうでもいいの!?!?
「欲しいのはねぇ、君の魔力の流れとオーラの動き!」
「……」
「それに、二つの心臓の動きだけだよぉ~!!!」
「いや、だけって何!? 重要なの盛りすぎだろ!!」
ジジさんのテンションは最高潮だ。
俺は目を見開き、必死に理解しようとするが、脳が追いつかない。
「……つ、ついでに聞くけど、それだけ?」
「いやいやいや、もちろん他にもあるよぉ~!」
あるんかい!?
「背中の鱗の成分もチェックさせてねぇ~!」
「要ります?」
俺は、ジジさんのテンションに圧倒されながらも、最後の抵抗を試みた。本当にそんなもん、必要なのか?
すると、ジジさんはニヤリと笑い、まるで獲物を前にした猫のような目をした。
「要らないけど欲しいねぇ~」
「なら嫌です」
即答。俺は全力で拒否の意思を示した。ここで従ったら、確実に何かとんでもないことになる。
だが――
「そうかぁ~」
ジジさんはあっさりと頷いた。
え、意外とすんなり引き下がる……?
そう思った、その瞬間。
「まあいいか! じゃあ早くしてぇ~!!!」
結局強制かよ!!!
俺は叫びたくなる衝動を必死に抑えながら、仕方なくポットの中に入る。どのみち逃げられないなら、さっさと終わらせた方がいい。
嫌々ながらも、スキャンが開始される。
数秒後――
「終了ぉ~!!」
……早っ!?
俺は思わずポットの中で目を瞬かせる。何がどう測定されたのかすら分からないうちに、もう終わったらしい。
「よしよし、じゃあ次はねぇ~」
ジジさんが嬉しそうに手を叩き、俺の目の前に何かの装置を持ってきた。
「これに魔力を全力で注いでみてねぇ~!」
ジジさんが指さしたのは、魔力式バッテリー。見た目は円柱型のガラス容器で、中にはエネルギーを貯蓄するためのコアが入っている。どうやら、俺の魔力量を測るための実験らしい。
もうよくわかんねぇけど、素直に従った方が早く終わる。
俺はそう判断し、バッテリーに魔力を流し込んだ。その瞬間――
「ストップ!!!」
「えっ!?」
ジジさんがいきなり絶叫する。
俺は慌てて魔力の流れを止めた。
「もういいよ! まだ全然余裕はあるかいぃ~?」
「……はい。全然余裕ですけど?」
俺はバッテリーを見つめながら答えた。俺の感覚では、まだ少しも注いでいない。
けど――
ジジさんの顔は、めちゃくちゃ興奮した様子だった。
「ほぉぉぉぉ……!」
……嫌な予感しかしない。
「では、次はミューケイ君。同じことやってねぇ~!」
ジジさんは満面の笑みでミケをポットへと促した。
俺と同じ流れなら、まずスキャン。そして、魔力式バッテリーに魔力を注ぐ実験。
ミケも俺と同じように、ため息をつきながらポットに入る。
スキャン開始――数秒後。
「終了ぉ~!!」
……やっぱり早い。
次に、ジジさんは俺が使ったのと同じ魔力式バッテリーを取り出した。
「じゃあミューケイ君も、これに魔力を全力で注いでみようねぇ~!」
ミケは狐耳をピクリと動かしながら、バッテリーを見つめる。それから、俺と同じように素直に魔力を流し込んだ。
だが――明らかな違いが現れた。
ミケが玉のような汗を流しながら、必死に魔力を注いでいる。
その姿は、まるで限界ギリギリの魔力制御訓練をしているようだった。
でも――
ジジさんの「ストップ」の声が、かからない。
俺の時は、あんなに早く止められたのに?
ミケの尻尾がわずかに震え、狐耳もピンと立っている。そして、ついに――
「ジジ様……すいません……もう限界です……」
ミケが息も絶え絶えに、やっとのことで魔力供給を終えた。
その様子を見て、ジジさんは満足そうに頷いた。
「うん! それが普通だねぇ~!」
「……え?」
俺とミケが同時に困惑する。
「あと“様”はいらないよぉ~! もっとフランクに行こうじゃないかぁ~!」
いやいや、そこじゃない!!
俺の時と明らかに違う結果になった。
ミケは限界まで魔力を搾り取られたのに、俺は途中で止められた。
――なぜだ?
俺の疑問をよそに、ジジさんはニヤリと笑い、満足げに頷いた。
「まず一つ、結論が出たねぇ~!」
嫌な予感しかしない。
「エクス君は、魔力式バッテリー機には乗れないねぇ~!」
「……は?」
俺は思わず聞き返した。
「だってぇ~、魔力の供給量が規格外すぎるんだもぉ~ん!」
ジジさんは、ホログラム画面を操作しながら楽しそうに言う。俺が魔力を注いだバッテリーのデータが映し出される。
「普通の魔力供給なら、バッテリーはじわじわと充填されていくんだけどねぇ~……」
ジジさんが指を差した先には、俺が魔力を注いだ瞬間のデータログ。そこには、バッテリーの内部エネルギーが急激に上昇し、危険ゾーンに突入していた記録が映っていた。
「君の魔力はねぇ~、流し込んだ瞬間に限界値を突破しかけたんだよぉ~!」
「……」
俺は思わず言葉を失った。
「つまりぃ~! エクス君の魔力量では、現行の魔力式バッテリー機には対応できませぇ~ん!!」
「ちょっ、マジで?」
「マジマジ! だからぁ~! 新規で造るしかないねぇ~! もしくは、電気式バッテリー機しか使えないねぇ~!」
――俺の常識が崩れ去った瞬間だった。
「安心してねぇ~! 新規で造るのは今決めたよぉ~!」
はっ!?
俺は思わずジジさんを二度見した。
「ちょっ……今決めたって、どういうこと!?」
「そのまんまだよぉ~! さっき決めたのぉ~!!」
ジジさんは嬉々としてホログラムを操作しながら、何やらとんでもない設計図を描き始めている。いや、待て待て待て! そんな即決でいいものなのか!?
「ドラゴン特有のオーラがあるのでねぇ~」
ジジさんはホログラムを指さしながら説明を続ける。
「電気式では、本領を発揮できないし、勿体ないよねぇ~!」
「いやいやいや、ちょっと待って!!」
「もう造っちゃった方が良いよぉ! 是非そうしなよぉ!!」
俺の意見完全無視かよ!?
「ちょっと待て!! そんなに簡単に決めるな!!」
俺が叫ぶも、ジジさんはノリノリで設計を進める手を止めない。
「いやぁ~、これはもう決定事項だよぉ~!」
その時――
バンッ!!
机を叩く音が響き渡った。
俺が驚いて振り向くと、そこには笑顔のまま拳を机にめり込ませている姉さんの姿があった。
笑顔なのに、怖い。
「ジジ。勝手に決めない」
「はい」
即答。
「ただ造りたいだけでしょ?」
「はい」
「まだやるべきことがあるわよね?」
「はい」
……力関係がはっきりしている。
あれだけハイテンションだったジジさんが、今ではすっかり大人しくなっている。
今まで五月蠅いくらい騒いでいたのに、姉さんの一言で沈黙した。
「またやらかす気なのかしら?」
「いえ、もうしません」
ジジさんはすっかり縮こまっていた。
……何があったんだ?
俺が疑問に思っていると、横で義兄さんが小さく笑いながら教えてくれた。
「以前な、ジジの造りたい欲が爆発してな……」
「……」
「経費を使い込みまくって、しこたま怒られたことがあるんだよ」
納得。
つまり、ジジさんは過去に“やらかした”前科持ちだったのか。
「何を造ったの?」
俺が疑問を口にすると、義兄さんが肩をすくめながら答えた。
「ああ、小型の二連魔力式縮退炉なんだが……」
――は?
俺の脳が一瞬フリーズする。
小型の二連魔力式縮退炉?
……それって、あの城が丸々入っても余裕があるくらいの巨大な魔力式縮退炉を、小型化したってことか!?
しかも、二連式!?
技術革命どころの話じゃないじゃないか!!!
そんなとんでもないものを造ったのか、この人は……!?
俺が驚愕していると、義兄さんは何か思いついたようにジジさんへ視線を向けた。
「ジジ、以前やらかした二連式魔力式縮退炉はまだ残っているのか?」
義兄さんがそう尋ねると、ジジさんは一瞬考え込み――それから、どこかほっとしたような表情を浮かべた。
「あぁ~、勿論あるよぉ~!」
そう答えたジジさんは、ホログラムを操作しながら続ける。
「でもねぇ~、誰も魔力量が足りな――いたっ!! 見つけたぁぁぁ!!!!!」
ジジさんの言葉が途中で止まったかと思うと、突然テンションが爆発した。
次の瞬間、俺を指さす。
……まさか。
これはもしや――
「センカ君!!! 適任者だぁぁぁぁ!!!」
ジジさんは感動したように、俺を見つめた。
「あれを使えるよぉ~!!! これは運命だったんだぁ~!!!」
いやいや、待て待て待て。
「あの事件は無駄ではなかったんだよぉ~!!!」
ジジさんの興奮がピークに達する。
その様子を見て、センカ姉さんは俺に視線を向け、ため息をついた。
「そうか、あれがあったわね……でも……」
姉さんの表情には、どこか迷いが見える。
ジジさんは完全に暴走モードだが、姉さんは慎重になっている。つまり、それだけその縮退炉がヤバい代物だということだろう。
すると、義兄さんが静かに口を開いた。
「心配なのはわかる」
姉さんに向けた言葉だったが、その声には明確な決意が込められていた。
「だが、これ以上ない適任者であることも間違いではない」
そう言って、義兄さんが俺に視線を向ける。
「……は?」
俺は思わず言葉を詰まらせた。
適任者? 俺が?
義兄さんはゆっくりと頷きながら続けた。
「それに、予算をつぎ込むだけつぎ込んで寝かしておくにはもったいなさすぎる」
――そういう問題!?
「無論、安全面に考慮してから試すことになるが、ジジさん製なら問題はないと思う」
待て待て待て。
本当に大丈夫なのか、それ!?
ジジさんの技術力が高いのは理解してるが、あのテンションのまま作ったものを“問題ない”と断言していいのか!?
「エクス君」
義兄さんの声が静かに響く。
「ジジは、この『クラン船ユグドラシル』の設計開発者でもある」
俺は驚いてジジさんを見た。え、そうなの!?
「こんな奴で心配なのはわかるが、安心してほしい」
義兄さんの目が真剣に俺を見つめる。ふざけているわけではなく、本気で俺に決断を委ねているのがわかる。
その時――
「エクス。お前が決めなさい」
父さんがそう言い、俺を見た。
母さんも、ミケも、姉さんも――みんなの視線が俺に集中する。
俺の選択次第で、この話が進むのか、それともここで終わるのか。
俺は一度深く息を吸い、ジジさんに向き直った。
「ジジさん。……試してもいい?」
ジジさんの顔が、一瞬で輝いた。
「喜んでぇ~!!!」
大歓喜の声が研究室に響き渡る。
「今すぐフォールを集結させ準備しようぅ~!!!」
そう言うと、ジジさんは首元の端末をタッチし、目の前にホロスクリーンを展開する。そして、指を素早く動かしながら、すぐさま艦内放送を流した。
「全員聞いてねぇ~!! 今から二連魔力式縮退炉の起動実験をするよぉ~!! すぐに実験場に集合してぇ!!」
……もう、止まらない。
お礼と挨拶
書き直しの中でも読んでいただき、本当にありがとうございます。
進みが遅く、申し訳ございません。
でも必ず最後まで書ききりますので、もしよろしければ長い目で見ていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




