表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/85

訓練モード母さんの魔力訓練開始

2025/03/11 書き直しました

 父さんの特訓が始まり、しばらく経った。


「エクスは両手剣や片手剣の適性が高い。加えて、格闘の適性もあるな」


 父さんが淡々と総評を述べる。


「ミケは短刀の二刀流と射撃系の武器の適性が高い。格闘の適性は低いが、カウンター技術の適性は高い。だから、今後はあらゆるカウンター技の習得を目指すといい」


 なるほど……そういうものなのか。


 だが、その先の言葉が俺たちにとって地獄の始まりを告げるものだった。


「エクス、ミケ、頑張ろう。あと七百年」


 その言葉だけで、俺たちの心がズシリと重くなる。


「まずは基礎体力と身体能力の向上だ。一定の基準に達したら技術を教える。それまでは武器の使用を禁止する」


「えっ……」


 思わず声が出るが、父さんは容赦なく続ける。


「変な癖をつけないためにも、まずは体作りだ」


「はい!」


 俺とミケは、息を飲みつつも同時に返事をする。


 ――そして、今日も訓練が始まり、そして訓練が終わった。が、今度は居間で母さんの魔法訓練が始まる。


 父さんの訓練?ただの体作りだよ。


 ……いや、普通の体作りじゃない。


 少しでも手を抜くと、鉄拳が飛んでくる。


「なんで俺だけ……」


 ――そんな泣き言を呟く暇もなく、今度は母さんの厳しい声が響く。


「エクス、集中しなさい」


 居間の空気が、一気に張り詰める。


 母さんの鋭い視線が俺を射抜いた。いつもの優しい母さんではない。厳しい訓練モードにスイッチが入った、まさにセンカ姉さんをあそこまで凹ませた姿だ。


「基本は学校で習ったはずだから、そこは飛ばすわ。早速、訓練に入ります」


 学校で習った……?


 確かに、授業で魔力の流れくらいは学んだけど、それと母さんの言う“訓練”が同じレベルとは到底思えない。


「まずは魔力の制御から。目を閉じ、体の中で魔力を循環させなさい」


 俺はゆっくりと目を閉じ、呼吸を整えた。意識を集中させ、体内の魔力の流れを探る。


 ――しかし、次の瞬間。


「ただし――必ず頭の先からつま先まで、体全体を循環させなさい」


 母さんの声が鋭さを増す。


「それも、素早く正確に」


 ……嫌な予感がする。


 魔力の流れをコントロールしながら、頭から足先まで意識を巡らせる。だが、まだ均一には回らない。詰まる箇所がある。いや、魔力の圧が足りないのか――。


「早くしなさい、エクス。その程度の魔力量ではないでしょう?もっと魔力を込めなさい!」


 ビクリと背筋が震える。母さんの声が、いつもの穏やかなものとはまるで違う。


 ――こっわっ!これ、姉さんへこむわけだ……。


 俺はさらに魔力の量を上げた。しかし、それでも母さんは満足しない。


「ミケ」


 次の標的はミューケイだった。


「妖力が混ざってます。魔力のみで制御しなさい!」


「はい!」


 ミューケイの返事は即答だったが、母さんの視線はなお鋭い。


「まだ混ざってる!集中なさい!」


 鋭い指摘に、ミューケイの狐耳がピクリと動き、尻尾が軽く揺れる。


 今まで聞いたことのない厳しい口調に、俺も思わず息を呑んだ。


 ――これは、ただの魔力制御じゃない。ただの訓練じゃない。


 母さんは、俺たちを“徹底的に”鍛え上げるつもりだ。


 俺はもっと素早く循環させるために、魔力を高め、全身へと巡らせようとする。だが、上手くいかない。


「エクス、ただ高めるのではなく、体内に収めなさい!漏れ出すぎです。そんな状態で循環できるわけないでしょ!」


「はい……!」


 焦る。だが、魔力は収まるどころか、意識とは裏腹に漏れ出てしまう。


 母さん……。


 いつもの母さんに戻って!


 優しい母さんの訓練がいいです!


 ――なんて、言えるわけがない。


 歯を食いしばりながら、俺は必死に魔力を体内に閉じ込めようとする。だが、どうしても滲み出てしまう。


 心臓が早鐘を打つ。思うようにいかないもどかしさと、母さんの厳しい視線が重くのしかかる。


 だが、ここで折れるわけにはいかない。


 俺は息を整え、再び魔力の制御に集中した。


 だが、試行錯誤しても魔力は漏れ出し、さらに循環すらできなくなり始める。焦りが募り、思考が乱れ、制御どころではなくなってきた。


「……エクス。そのまま集中してなさい」


 母さんの静かな声が響く。


 その直後、母さんが立つ音がし、俺の肩にそっと手が置かれた。


 ――瞬間、世界が変わった。


 暴れ回っていた俺の魔力が、一気に体内へ収束していく。まるで嵐が止んだように、静かに、整然と流れ始める。


 だが、それだけじゃない。今まで感じたことのない速度で魔力の流れを感知し、正確に体の隅々まで巡っているのがわかる。


「……これが……」


 息を呑む。自分の魔力なのに、まるで別のもののように思えた。今までの制御は、単なる"力の抑え込み"にすぎなかったのだと、今さらながらに理解する。


「こういう感覚よ」


 母さんの声が、冷静に、しかし力強く響いた。


「さらに魔力量を上げなさい。その程度の魔力量ではないと言ったでしょう!」


 今までの俺なら、反発してしまいそうな厳しい言葉。


 だが、今は違う。この感覚が、俺の魔力の"本来の形"なのだと、はっきりと理解できる。


「よく聞きなさい、エクス。あなたの魔力は、お父さんと同じ……いえ、それ以上の可能性があるのかもしれない」


 その言葉に、俺は驚きに息を詰まらせた。


「だからこそ、今の段階からきちんと制御を学びなさい。でなければ、せっかくの力もただの"持ち腐れ"よ」


 母さんの手の温もりが、俺の肩にじんわりと伝わる。


 厳しさの裏にあるもの――それは"本気"の愛情だった。


 母さんが肩から手を放した瞬間、俺の魔力がまたじわじわと漏れ出し始めた。


 まるで、ダムの堰が少しずつ緩み、勢いよく溢れ出していくような感覚。だが、さっきとは違う。


 俺は深く息を吸い込み、魔力の流れを意識する。


 母さんが行った感覚を思い出しながら、慎重に、だが確実に魔力を上げていく。


 ――違う。先ほどと同じようにはできない。


 だが、さっきよりも循環の感覚が掴めてきた。


 漏れ出してはいるが、魔力が身体の中を巡っていくのがわかる。


「まだ甘い。さっきの感覚を思い出し、集中して行いなさい」


 母さんの厳しい声が響く。気を抜けば一瞬で流れが乱れそうになる。


 俺は必死に意識を研ぎ澄ませた。


「次はミケです」


 母さんはそう言うと、隣のミケに向かう。多分、俺の時と同じように肩に手を置いたのだろう。


「んっ!」


 ――え?


 突然、ミケの口から妙に色っぽい声が漏れた。


 その瞬間、俺の魔力制御がガタつく。


 心臓が跳ね上がるのを感じた。


 落ち着け、俺。今は訓練中だ!


 母さんが容赦なく言葉を続ける。


「ミケ。この感覚です。貴方もこの程度の魔力ではないでしょう?」


 母さんの言葉に、ミケの狐耳がピクリと揺れ、尻尾がふわりと揺らめいた。


「あとミケの中では、必ず魔力と妖力が混ざってしまっています。この状態では、魔法の発動が遅くなります」


 ――確かに、ミケの魔法は普通の魔法使いとは違う。


 妖力と魔力、二つの異なる力を同時に持っているがゆえに、無意識に混ざってしまうのだろう。


「必ず分けて制御ができるようにしなさい!」


「はい!」


 ミケの返事は凛としていた。だが、俺の耳は、さっきの妙に甘い声が気になって仕方がない。


 ――集中しろ、俺。今は魔力の制御に全力を注ぐんだ。


 もう一度、息を整え、魔力を収めることに意識を戻す。


 母さんの指導は容赦ない。ここで気を抜けば、また最初からやり直しになるだけだ。


 そして――何度も叱られながら、ようやく初日の魔力訓練を終えた。


「今日はここまで!お疲れさま。明日からも頑張りましょう」


 母さんが、先ほどまでの厳しさとは打って変わった柔らかな声で告げる。


 思わず安堵の息をついた。全身が疲労で重い。


「夕食を作るから待っててね。お父さんは、お茶でも飲んでて」


 ……え?


 父さん……いたのか!?


 思わず目を開けると、そこには優雅に座り、静かにお茶を啜る父さんの姿があった。


 ――全然気づかなかった!


 目をつぶっていたから、存在感が消えていたのか……。


 いや、それ以前に、ここまでの訓練の厳しさで周囲に気を回す余裕なんてまるでなかった。


「ふむ。なかなか良い具合だな」


 父さんが湯飲みを傾けながら、微笑む。


 まるで最初から最後まで、すべて見ていたかのような落ち着きぶり。


 俺が必死に魔力制御と格闘していた横で、普通に茶を飲みながら観察していたのか……。


 ……さすが、父さん。


 母さんの訓練で疲れた体を引きずりつつ、俺は父さんをちらりと見上げた。


「……次からは最初にいることを教えてくれよ」


「ふふ、それでは意味がないだろう?」


 父さんの穏やかな笑みに、俺は脱力した。


 ――初日でこれか。明日からが思いやられる……。


 だが、やるしかない。


 母さんの言葉を思い出しながら、俺は静かに拳を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ