父との修行――圧倒的な実力差
頑張ると誓った以上、甘えは許されない。
許されない――が、父さんの気合が入りすぎていて、正直怖い。
今、俺は家の中にある訓練室で、ミケとともに道着を着て準備運動をしている。……が、さっきから突き刺さる視線が痛い。
父さんの視線が、まるで獲物を狙う竜のように鋭く、じっと俺たちを監視している。
「もっと本気を入れて行え。ストレッチは特に念入りに」
低く響く声に、俺たちはピクリと反応し、さらに念入りに動きを深める。
すると、父さんがゆっくりと近づきながら、静かに言った。
「いいか、準備運動やストレッチは真剣にやれ。でないと、訓練はしない」
その言葉には、圧倒的な説得力と威圧感が込められていた。
準備運動とストレッチを終え、ついに修業が始まる。
父さんが俺たちを見据えながら、低く言った。
「まずは適性を見る。好きな武器を選び、好きに打ち込んで来い」
そう言いながら、壁の一面を指し示す。
そこには――
木刀、短刀、薙刀、槍、ヌンチャク……あらゆる木製の武器がズラリと並んでいた。
どれも戦闘用に作られた精巧な造りで、単なる訓練用の武器とは思えないほどの迫力がある。
そして――
父さんの手には、すでに木刀が二本握られていた。
余裕たっぷりに構え、いつでも来いと言わんばかりの雰囲気を漂わせている。
「何でもいい。好きに使いなさい」
静かに言い放つ父さん。
「こちらからは多少しか攻撃しないので、安心しろ」
……安心できるか!!
心の中で叫びつつも、俺はじっと並んだ武器を見つめる。
どうする――
俺の選択は、木刀。
しっかりとした握り心地を確かめ、呼吸を整える。
隣を見ると、ミケも武器を選び終えていた。
彼女の手には、薙刀が握られている。
銀色の狐耳がピクリと動き、尻尾がふわりと揺れる。
選択の意図は聞かない。
俺たちは、それぞれに決めた武器で戦うだけだ。
父さんが目を細め、静かに頷く。
俺は一歩踏み出し、木刀を構えた。
「父さん、いくよ」
ミケも薙刀を軽く回しながら、一歩前へ進む。
「スカイ様、行かせていただきます」
「遠慮なく」
――次の瞬間、俺たちは父さんへ向かって飛び込んだ。
俺は思いっきり上段で構え、勢いよく飛び込みながら斬りかかる。
同時に、ミケも薙刀のリーチを活かし、父さんの喉元を狙って鋭く振り抜いた。
だが――
「見え透いているぞ。遊びじゃないんだ、真剣にやれ」
父さんの低く響く声とともに、俺の攻撃はあっさりと左手の木刀で捌かれた。
衝撃とともに、俺の体がわずかに弾かれる。
それだけじゃない――
右手に持ったもう一本の木刀が、ミケの薙刀の刃を滑らせるように受け流す。
刃先が逸らされ、ミケの攻撃が完全に無効化される。
――なのに、なぜか父さんの攻撃が俺に向かってくる!?
俺が飛び込んだはずなのに、気づけば父さんの右手の木刀が俺の目前に迫っていた。
「っ……!!」
とっさに体を捻るが、その瞬間、鋭い突きが俺の胸元を貫くように突き出された――
――当たる!
反射的に目を閉じ、衝撃に備える。
しかし――何も来ない。
次の瞬間、バランスを崩し、そのまま着地に失敗した。
「目をつむるな。今ので死んだぞ」
着地の衝撃とともに、父さんの冷静な声が響く。
「大丈夫だ。すべての反撃は一歩手前で止めてあげるから、どんどん向かってこい」
父さんの言葉を聞き、俺は息を整えながら立ち上がる。
「……わかった」
ならば、もう迷う必要はない!
俺はミケの方を振り向き、力強く頷いた。
「ミケ、どんどん行こう。父さんがこう言うなら大丈夫だ。俺たちのためにも、すべての武器を試していこう!」
ミケの銀色の狐耳がピクッと動き、尻尾が軽く揺れる。
そして、彼女もまた決意したように頷いた。
「分かったわ。スカイ様、お願いします!」
父さんは満足そうに微笑み、構えを取り直す。
「よし。では再開だ」
――次の瞬間、俺たちは同時に父さんへ向かって駆け出した。
その後、俺たちは手を変え、武器を変えながら、ひたすら父さんに打ち込んでいった。
だが――
当然のように、一撃も当たらない。
それどころか、俺たちの猛攻を受けながら、父さんはその場から一歩も動かず、ただ受け止め続けていた。
それが、どれほど恐ろしいことか。
まるで俺たちの攻撃など、微風ほどの価値もないと言わんばかりに、涼しい顔で打ち払っていく。
普段、甚平姿で居間に座り、お茶を飲みながら新聞データを眺めている父さんとはまるで別人――
今、目の前にいるのは、まさに「武神」のごとき佇まいだった。
「ミケ、後はどれを試してない?」
息も絶え絶えになりながら、隣のミケを見る。
彼女の銀色の狐耳はピクピクと震え、尻尾は汗で重たく濡れていた。
肩で荒い息をしながら、ふらつく足元をなんとか支えている。
「……もう、短剣とトンファー、それに弓……とかだったかしら……」
その声すらか細く、意識が飛びかけているのが見て取れる。
――まずいな。
これ以上やれば、倒れるのは時間の問題だ。
すると、父さんが冷静な声で言った。
「よし、ミケは弓で最後にしよう」
俺の方に視線を向け、微かに笑う。
「エクスは、好きなのを選んで来い」
俺は壁に並ぶ武器の中から、大剣を手に取る。
――これが最後の一撃。
片手で大剣を構え、もう片手には短剣を隠し持つ。
ミケも、手にした弓を父さんめがけて構え、静かに狙いを定めた。
次の瞬間――ミケの矢が放たれる。
俺はその瞬間を逃さず、隠していた短剣を父さんに向けて投げ放ち、同時に駆け出す。
全力の一撃――今度こそ、当てる!
だが――
「よくやった。今日はこれまでにしようか」
父さんの静かな声が響く。
次の瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。
左手の木刀を軽く放り投げると、その手で飛んできた矢を掴み取る。
そして、俺の短剣へ向かって――
その矢を投げ返した!?
短剣は矢に弾かれ、空中で軌道を変えて地面に落ちる。
「そんなんありかよ!?」
思わず叫ぶ俺。
父さんは、まるで当然のことのように微笑む。
「あるんだ」
そう言いながら、右手の木刀を軽く一振りする。
次の瞬間、俺の大剣が弾き飛ばされた。
気づけば、父さんの左手の拳が俺の喉元に突きつけられ、寸前で止まる。
――まったく、勝負にならなかった。
「よし、ストレッチをして終了だ。終わったら風呂に入ってこい」
涼しい顔でそう言いながら、父さんは木刀を肩に担ぐ。
俺は地面にへたり込み、荒い息を整えながら、ただ呆然と天井を見上げた。




