表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

視線

私はスタイルがいい。

自信をもって言える。

出るところは出て、くびれもある。

顔もそれなりにいいとは思っている。

だけど、体ほどではない。

中でも一番自信があるのは、胸だ。


大きさ

張り

バランス


私以上の胸を持つ人を私は知らない。

少なくとも私の知る世間では。


だからだろう。

私の胸にはいつも視線が集まる。

顔よりも先に胸だ。

顔と胸を交互に見られる。


小学生のころからそうだった。

だから、私は人の視線に敏感になった。


性欲

好奇

嫉妬

嫌悪


様々な感情を持った視線を浴びてきた。


人の目がうっとうしく思う。

だけど、悪いものではない。

人の視線を感じることで私は魅力的な人間なのだと思えるからだ。




ある時から違和感を感じるようになった。

胸への視線が減ったのだ。

なぜ減ったのかはわからなかった。

最初は気にしてなかった。

むしろ、うっとおしさがなくなり心穏やかにいられた。


だけど次第に皆の視線がおかしくなってきた。

私自身から目を逸らし始めた。


家族

友達

クラスの男子

先生たち


最近では誰かと目を合わせて話した記憶がない。

みんな明後日の方向を見ながら私と話をする。


幼いころから多くの視線に慣れてきたからだろうか。

今は視線がないことに苛立ちを覚えてきた。




ある日の放課後

図書委員の仕事が長引き帰りが遅くなった。


夕日が差し込む学校は独特の不気味さを感じる。


教室から出ようとしたところ、人とぶつかりそうになった。


根暗くんだった。


常に下を向いて、誰とも目を合わせず、教室の隅で本を読んでいる。

誰からも注目されたくないということを体現したような男子。

私とは対極にいるような人。


それが根暗くん。

名前は憶えていない。


「あっ、す、すいませ・・・ん」


ボソボソと声を出した彼から視線を感じた。


彼の背は私よりも頭一つ大きい。

いつも下を向いている。

だからだろう。

彼が最初に目にしたのは、私の胸だった。


彼の視線が胸で止まった。

ぴたりと止まった。


彼は人の胸を見るなり逃げだした。

身をひるがえして逃げ出した。


私は反射的に追いかけた。

なんで追いかけたのかはわからなかった。

今まで私は視線を逸らされることはあった。

だが、逃げられることはなかったからだ。

後になってそう思った。


私のほうが足が速かった。

根暗くんを捕まえて問いかけた。

「なんで逃げたの」

「・・・」

「・・・なんで逃げたの」


ビクリッ


彼は震えた声で言った。

「・・・びがあったから」

「なんて?」

「指があったから」


指?

いったい何のこと?


「胸の谷間から指が出てたから」


「・・・はっ?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ