8層 とある王国/お父さん
前半王国
後半ダンジョン
です。
ショウゴがミソラを拾った頃、かのダンジョンからずうっと南へと行った先に、堅牢な城壁に囲まれた都市があった。その名を、王都ベルガモンデ。この大陸随一の大国、エルシェーン王国の王が座す都市だ。
都市は巨大な山を背負っていて、その斜面と麓を使い、荘厳な王城が聳えている。過去、この世界を終焉の淵にまで追い詰めた魔王を滅ぼした伝説の勇者が創建したとされ、その歴史は長い。
勇者が建築したことからわかるかもしれないが、このエルシェーン王国の王族は、その勇者の子孫とされていて、それだけでも他国の王族と比べても社会的地位は高い。伝説の勇者の影響が、まだ色濃く残っている証拠でもある。
ただ、現在では、これといって争いもなく、世界の危機にも瀕していないので、王族の増長が増してきているが。
話を戻して、そんな王城の一室(部屋というには大きすぎるが)で、豪奢な法衣を身に纏った男が、目を大きく見開いて、酷く動揺していた。
「ま、魔王が…復活する…!」
額に脂汗を浮かべ、彼はわなわなと震えた。
魔王は滅ぼされた。だが、その恐怖自体が払拭されたわけではない。魔王の統率の下で暴れていた魔族たちは、未だにちょっかいをかけてくるし、語り継がれる御伽話では、魔王は、勇者の仲間だった『聖女』、『剣聖』、『賢者』、『聖騎士』を殺している。
つまり、魔王とは、勇者が最高戦力で組んだパーティーをほぼ壊滅にまで持っていけるほどの存在である。
そんな魔王が復活するお告げを受けたのだ。彼の様子がおかしくなっても、なんら不自然ではなかった。
「ほう、面白いな!魔王か…!私も、ちょうど強い相手が欲しかったんだ!」
突如として、酷く愉快そうな声が、部屋に響いた。どうやら、焦っている老爺の独り言を聞いていたらしい。
法衣の老爺が、声のする方を見て、呟いた。
「ミシェンナ…殿下」
そこにいたのは、長いプラチナブロンドの髪を後ろで束ね、紺と白がベースの軍服を着た、美女だった。腰には、シンプルだが凄まじい業物だと見て取れる剣が提げられている。
彼女の名は、ミシェンナ・ヴェル・エルシェーン。これと敬称から分かる通り、彼女は王族で、第2王女である。
「かの勇者伝説に出てくる魔王であろう?いいではないか!」
「…恐れながら申し上げます、殿下。あなたのお力は十分理解しているつもりですが、伝説の通りだと…」
「伝説の通りだと、なんだ?私が死ぬとでも言いたいのか?」
老爺の言葉がミシェンナの琴線に触れたのか、ドスの効いた声が、老爺を詰める。同時に放たれる殺気は色濃く、常人であれば中てられただけで直ぐに死んでしまうほどだ。
なので流石に、彼女も加減はしているようで、老爺のところに殺気が届く頃にはかなり薄れている。だが、それでも威圧には十分だった。
「この私が、魔王に負けて死ぬと、そう思っているのだな?」
犬歯を剥き出しにし、彼女は獰猛に笑う。まるでウサギを前にした虎の如き出立ちである。
「…滅相もございません」
魔王の恐怖は伝わっているとはいったが、そもそもの出来事は遥か昔のことで、風化は確実に進んでいる。今、老爺の目の前のミシェンナの放つオーラの方が恐れを抱くのも不思議ではなかった。
「ふっ、それでいいのだ。剣聖である私の相手になればいいのだがな」
その後、ミシェンナは、高笑いをして、その部屋を去った。残された老爺は、緊張が切れたからか、その場にへたりこんで気を失ってしまったのだった。
◇◇◇
朝起きた。隣でミソラが寝息を立てていた。俺はとりあえず、ミソラの頭を撫でてから、よっこいせと布団から抜け出した。
「くー」
「お、おはよう、ノワ」
部屋を出てダイニングに入ると、すでに起きていたノワが床に座り俺を待っていた。朝から可愛いのダブルパンチである。
俺は、パパッと朝ごはんを作った。簡単に、スクランブルエッグと味噌汁、白ごはんだ。ノワにはブロックのステーキを出した。本当は卵焼きにしたかったが、下手なのでやめておく。
「んー、やっぱ、朝は味噌汁と白米だ…」
「コン!」
元気よく俺の答えを肯定するかのように吠えたノワに、君は肉でしょうと心の中でツッコミつつ、ふっくらと炊けた白米を口に掻き込み、味噌汁を飲む。
上品じゃないかもしれんが、口の中で味噌汁と白米が出会うのがマジで美味くて、前世からずっとこの食べ方だ。
「んぅ…」
半ばごろまで食べ進めた頃、寝室の扉が開き、ミソラが顔を覗かせた。
「おはよ、ミソラ」
「くぅーん!」
俺は、ミソラに向け、挨拶を投げる。それに続いて、ノワもミソラへと挨拶をした。
「おはよう…お父さん……」
は?え?は?
俺は、ミソラから帰ってきた挨拶を理解するのに、数秒の時間を要した。
お父さん?今この子、俺のことお父さんって呼んだ?え、やだ、めっちゃ感動…
「…あっ、お、おお、おはようございます、ショウゴさんっ!」
自分の言い間違いに気がついた彼女が、慌てて訂正するが、俺の頭は『お父さん』で埋め尽くされて、そんな訂正が入り込む隙間は、ない。
「…お父さんって、呼んでもいいけど…?」
「えっ?」
そんな言葉が、無意識のうちに口をついて出た。心なしか、ノワからの視線が生暖かい。
うぅ…仕方ないじゃんか…
「あ、じ、じゃあ……お父…さん……?」
「こふっ…」
「お父さんっ!?」
俺は、血を吹いて倒れた。
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