7層 女の子
ちょっと読みにくいかも…
ごめんね
涎を滝のように流した小女が、顔を赤らめて恥ずかしそうにしながらも、なおキラキラと輝く目を向けてきた。欲しいんだろうか。欲しいんだろうな、この肉が。だって、食べようとしていた肉を振ったらそれに視線が吸い付いている。
あまりに焦らしすぎたからか、特大の音が、彼女の空腹を主張した。それもあってか、彼女はより一層顔の赤を強める。
分かる。誰のかがはっきり分かる腹の虫が一番恥ずかしいよな。
「えーっと…食うか?」
とりあえず、今フォークに刺している肉を、少女に差し出した。余程お腹が空いていたのか、肉を眼前に出された瞬間、彼女は雷の如き速さで、肉に食らいついた。魔族に転生して動体視力が向上している俺ですら残像を捉えるほどの速さ。
この小女、もしかしたらとんでもないんじゃないか?
そう思い、少女に視線を移すと、とても幸せそうな顔をして肉を頬張っている。モチュモチュと、肉の旨みを一口ごとにかみしめている。
「…肉はまだあるから、こっちにあるのも食べな。俺は新しく作ってくるから」
「…!」
うん、子供は素直が一番。こんな中で平然と肉を食えているノワに苦笑しつつ、俺はキッチンに向かった。
◇◇◇
もう一枚肉を焼き終え、俺はリビングに戻った。やっぱり、肉は焼いている時間も楽しい。ステーキ醤油バージョンとシンプルな塩胡椒バージョンをもう一度焼いた。
リビングでは、すでに肉を食べ終えたノワが、同じく肉を平らげた少女をガン見していた。ノワの視線に晒されて、少女は完全に萎縮し、縮こまってしまっている。
「こら、やめなさい…」
俺はそう声をかけつつ、ノワを自分の膝の上に乗せて机についた。
…肉はうまい。それは揺るぎないのだが、目の前にいる少女が過度に萎縮して固まっているせいで、肉の旨みが低減しているような気がした。流石に気まずくなったので、俺は彼女に目線を向けて声をかけた。
「ひっ…」
のだが、これまた予想以上の怯え具合で、話をする以前の問題だ。どうにかしてこの子の心をほぐしてやれればいいのだが。
「なぁ…」
「はぅっ!」
先ほどよりも声色を落ち着けて、優しい感じで声をかけてみたが、やはりびくりと体を跳ねさせるばかりで、一向にこちらへの警戒を解こうとしない。やっぱり、俺が魔族だってのがまずいんだろうか。
ありがちな感じで、この子の種族(おそらく人間)と魔族は昔から敵対関係っていうことなのか。俺は今まで外に出たことがないから、今思ったことは単なる憶測に過ぎないが、この子の怯えようを見るに、その線も無きにしも非ずといったところだろう。
「…」
現に、大きい怯えを孕んだ視線でこちらの様子を伺っているし。
こういう時、小さい子から怯えを取っ払ってやるのに何が効果的かが分からない俺である。…とりあえず撫でてみるか?いやでもそれで余計に怯えられても…
前世では、小さい子と関わることのなかった俺は、うまく思考をまとめることができず、そうしている間にも、あれからこれからと、余計な考えが新たに浮かんできて、もはや収集が付きそうになかった。
そして結果的に、俺は彼女の頭を撫でるという行為に走ったのだ。
「きも…ちぃ……」
もはや思考放棄とも言える行動だったからか、少女のその一言を理解するのに、俺は数秒を要した。見ると、彼女は先程とは打って変わって目を細め、確かに気持ちよさそうにしている。まるで日向で眠る猫のようだ。
「…大丈夫そうか?言葉はわかるか?」
そう声をかけると、彼女は少しキョトンとした表情を浮かべ、小首を傾げた。んあざといっ。
まあ、俺が喋ってるの日本語だし、分かるはずもないだろう、そう思って止めていた手を動かそうとした時だった。
「…はい…ありがとうございます…えっと」
鈴のような声で、何かを探るように少女が呟いた。
え…?言葉、通じてる?ここでも日本語が使われ…いやいやいや、流石にない。仮にもここは異世界。前世の島国の言葉が使われているはずなどない…ハズだが……
「俺の言葉、通じてる?」
「?はい…」
どうやらここは日本だったらしい(錯乱)。だって日本語が通じてるんだもの(錯乱)。
って、違う違う。こんなヨーロッパ系の顔立ちの子が日本人な訳がない。そもそも、ここが日本なら、地球なら、ゴブリンなんて緑の小人いやしないのだ。
考えられる可能性としては、俺の体に、こちらの言語が刻まれて、違和感なく喋っているってところか。…うーん、ファンタジー。
「…なんで君は森の中にいたんだ?あ、俺の名前はショウゴだ、よろしく」
質問を投げかけてから、名乗っていないことに気がついたので、俺は自分のファーストネームを名乗る。それに応えて、彼女が口を開いた。
「わ、私、名前、ないんです…」
彼女曰く、村が魔族に襲われたが、自分は村の住人から疎まれていたため村から隔離されていたらしく、それで逃れて森まで来たとのことだった。
俺はその事情の重さに、言葉が出てこず、思考が余計に絡まる。そうして低下した思考能力でなんとか捻り出した言葉が、『俺…魔族なんだけど』とかいう、場を凍り付かせるのに十分なものだった。
幸いかどうかは分からないが、俺は自分の失言にすぐさま気づき、慌てて釈明する。
「あばばっばばばっばばっ…あ、あの、えっと、その…俺が君に傷をつけることはないから!だから、あのー、そのーっ」
「…ぷっ」
言っていることがメチャクチャで、その格好が面白かったらしく、彼女は吹き出した。ひとまずは良かったと、俺は胸を撫で下ろした。
「名前がないの、呼びづらいなぁ」
「じゃあ、ショウゴさんが付けてください!」
そんな会話があったのは、打ち解けてからしばらく経ってからのことだった。彼女は、俺が魔族であると分かっても、その態度を変えることはなく、寧ろ初めの頃よりもフレンドリーになった。
俺はずっと独身だったが、子供がいたらこんな感じなのかなぁと思い耽る。
「オッケー。じゃあ…そうだなぁ」
考えるそぶりをすると、彼女はその目をキラキラさせてこちらを見つめてきた。
彼女の方に目をやる。最初に目につくのは、なんと言ってもその眩い金髪だ。そして同じくらいに存在を主張する深いサファイアの瞳…光を連想させる髪とどこまでも透き通った空を連想させる瞳だ。もう、この時点で、俺の答えは決まった。
「君の名前は、今日から深空だ」
「ミソラ…それが私の名前…」
「嫌だったか…?」
考え込むような仕草に、俺は少し不安に駆られた。
「あっ、ちがう、ちがいます!とても綺麗だなって…」
慌てて彼女がそういう。
どうやら、俺の感じたその不安は感じても仕方のないものだった。
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