6層 エンカウントwith人間
はい、人間さん登場回です。次は多分、この子目線の閑話的なものになると思います。
はっきり言って、ノワが強すぎた。あれから大体5時間ほどが経過したが、その間、ノワはずっと雷を操って神速の攻撃を繰り出し、魔物を屠りまくっていた。
俺の眷属ではあるので、殺した分のEPは全て俺に送られてくるのだが、その量が尋常じゃない。ボーナスで貰っていた1000EPがカスに思えるほどである。
EPが5000を超えてから確認するのをやめたが、多分今は万近くまで溜まっていることだろう。
「えらいぞ、ノワ。ご褒美に美味いもん食わしてやるからもう帰ろう」
「コンっ!」
もう流石にEPもカタログの方も十分だろうと思い、俺はノワにそう声をかける。俺の言っている言葉の意味がわかるのか、ノワもノリノリだった。
…今だから言うが、なんでノワに俺は勝てたんだろうかと思ってしまった。
思ったよりも遠くに来ていたようで、帰りはノワの先導で帰ることになった。自分の家の場所くらい覚えておけよと言う話だが、つい数時間前まで引き篭もっていた俺には無理な話である。
ノワに、『出会ったところまで案内してくれないか』と聞いてみたら、トテトテと迷いなく森の中を進んでいった時の安心感は半端なかった。
「今日の晩飯何にしようかなぁ」
「キュッ!」
「肉がいいか、そうか…じゃあ肉にしよう」
こんな感じで晩御飯の相談をするくらいには余裕がある。ちなむと、ノワの言っていることは、本当に、ふわっとしたニュアンスでだが伝わってくる。これも俺の眷属にしたことが影響しているんだろう。
「今日はいっぱい稼げたし、A5ランクの肉厚神戸牛ステーキにでもしようかな」
やっぱり、高級肉と聞いて真っ先に思い浮かぶのはこれだよな。【万物創造】で使うのは魔力でEPではないが、そんなこと気にならないぐらいEPが増えたので、ここはちょっと奮発を。
昔一度だけ食べたその味を思い出し、溢れてきた涎をグッと飲み込んだその時。右前方から、微かに叫び声と何かの獣の鳴き声が聞こえてきた。鳴き声から察するに、おそらく狼のようなものだろう。一方で叫び声の方は、まだ幼い子供のもののように聞こえる。
「助けるぎりなんざないけど…」
「?」
「見捨てたら寝覚め悪いし…それに狼系?のの魔物のカタログは開放してなかったよな。よし、行くか!」
「コン!」
俺とノワは、一直線に声の元へと駆け出した。
身体能力も上がっているのか、息切れすることもなく、体感2kmくらいを一瞬で走り切った。それに余裕でついてくるノワもすごいが。
と、そんなことは置いておいて、俺が声の出どころについた時、血塗れで倒れる幼女と、今まさにその細い首筋に噛み付かんとする熊くらいの大きさの狼がいた。幼女はもう完全に意識がなくなっていて、ともすると、呼吸すらしていないんじゃないかと思うほどだった。
「ノワ、やっちまえ」
「コン!」
今までと同じように、ノワが黒い雷を操って狼を瞬殺する。狼は跡形もなく消し飛び、後には煤と血に塗れた幼女が残った。
その後少しして、『アザズウルフ』が解放されたというアナウンスが表示された。
「まあ、こんなとこに血塗れの子を放置すんのはまずいよなぁ」
「コン」
「連れて帰るか」
「キャン!」
俺はその子をノワの背に乗せて改めて帰路についた。
◇◇◇
ダンジョンに戻った頃には、すっかり日も暮れて、そこらじゅうから虫の鳴くのが聞こえてきた。鈴虫に似たものから、コオロギそっくりのものまで、多種多様だ。
「お疲れさん。美味い肉でステーキ作るからちょっと待っててな」
いつもの部屋に入り、キッチンともう一部屋を、今日ノワが貯めてくれたEPで増築する。そして、万物創造で布団やら包帯やらを作り出し、簡単な手当てをして、幼女を作り出した部屋に寝かせた。
未だ意識は戻らないものの、顔色などは拾った時よりも明らかに良くなっている。俺は人心地ついてから、キッチンに立った。
フライパンをコンロに置き火にかける。油を引いてから、俺は神戸牛を創りだして塩胡椒で味をつけた後、焼いていく。
ジューという肉の焼けるいい音が室内に響き、そのいい匂いが鼻腔をくすぐる。流石に店のものとは比ぶるべくもないが、それでも最高級の素材は、一流の味にまで持って行ってくれるからすごい。
「くぅーん…」
匂いに釣られてか、ノワがキッチンに来て、物欲しそうに鳴いた。
「もうちょっとでできるから、期待してろよ?」
「コン!」
俺はステーキは断然レア派なので、ある程度表面に火が通った後は、すぐに皿に移し替えて、予め創っておいたステーキ醤油をかける。もちろん、塩コショウだけで味わう分も確保済みだ。
「よっしゃ、食べるか」
「コンッ!」
俺とノワは、ノリノリでリビングに向かう。ダイニングを作っても良かったが、めんどくさかったので兼用だ。
テーブルにステーキを乗せ、ナイフとフォークを取り出す。そして、肉を切ろうとしたのと同時、先ほど作り出した扉がガチャリと音を立てて開き、そこから、顔を真っ赤に染めて涎を垂らす幼女の姿が出てきたのだった。
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