5層 忠魔創造と魔物狩り
あの表示された文字の通り、【忠魔創造】スキルのカタログに、『ゴブリンアサルト』と『ゴブリンアーチャー』の二種類が追加されていた。というよりも、かかっていたロックが解除されたという方が近い。グレーの膜のようなものが外れて、色がついていた。
ちなみに、召喚に使うEPは、一匹あたり25EP。ゴブリンたちを仕留めて獲得したのが50EPなので、それを考えたら召喚するのはやめておく。5匹が2匹になるのはあまりにも元が取れなさすぎる。それを言ったら、今後魔物を召喚するときはずっとそうなのだろうが、さすがに今回はゴブリンだ。話が違う。
EPが減るのは納得できる。要は中古品と同じだろう。だが、それを使ってまでゴブリンを召喚するのは、馬鹿のすることである。
なので俺が今最優先でやるべきことは、ひとつだ。ダンジョンの外の魔物を狩ってEPを貯めつつ、カタログを開放していくことだ。
解放していけば自然とEPは貯まっていくし、そのうちために貯めたそれで強い魔物を召喚できるようになるかもしれない。
因みに言うと、俺はあまりカタログからの召喚はアテにしないつもりでいる。それはなぜかと言うと、ダンジョン経営のシミュレーションゲームを散々やってわかったことに、有象無象では圧倒的な個には勝てないというものがあるからだ。地球であればそんなことはないのだろうが、ここは魔法が存在するファンタジー世界だ。
とは言っても、やはり最初の召喚はカタログからになってしまうだろうが。
まあ、何はともあれ、今は魔物狩りを最優先しなければ。そう思い、俺は外へと向かった。
◇◇◇
俺のダンジョンがある場所は、かなり森の深い場所にあることがわかった。植生は広葉樹が多めで、ほんのりと暖かな気温なので、日本と似通った気候の場所なのだろう。
森が深いと言っても、それなりに陽光が木々の隙間から差し込んできているためか、そこまで薄暗いというわけではない。寧ろ、心が落ち着くような、そんな雰囲気である。
「あ…なんかいる」
軽く伸びをして視線を上に向けると、木の上に黒と白の狐がいた。大きさはちょうどゴールデンレトリバーほどだろうか。やはりファンタジー世界で、その狐の周りには、黒い雷がバチバチと迸っている。
「まあ…まずは様子見で」
俺は、【万物創造】でクロスボウを作り出し構える。銃でも良かったが、なるべく音のしないものを選んだ。危険度が未知数のうちに大きな音を立てるのはまずい。
照準器の中央に狐を捉え、引き金を引く。ヒュンッと音を立てて矢が飛び、狐に刺さる前に雷に弾かれて消滅してしまった。
それに軽く驚いていると、次の瞬間、狐が消えて、俺の隣に現れる。まさに瞬間移動のような感じだ。
視界の端で鋭く雷が蠢くのが見える。刹那、俺はライオットシールドを作り出しそれに身を隠した。
バヂッーー
一瞬にして紫電が辺りを包み込む。そのあまりの衝撃に盾が耐えきれず、魔力へと還元されてしまった。それだけにとどまらず、俺の体を削っていく。
「ぐぁっ…!」
前世を通しても初めて経験する激痛に、呻き声が漏れ出てしまった。
大きく吹き飛び、俺は木に突き刺さった。普通の人間なら明らか死んでいるような攻撃だったが、俺の体は持ち堪えてくれた。というか、痛みの割に結構余裕だった。
「ダメージがないわけじゃないけど…」
俺は今度は、日本刀を作り出す。一番手に馴染んだ得物だ。俺は、刀を上段に構える。
「来いよ」
「ふしゅるるる…」
バヂッーー
体の周りを奔る雷が多くなる。
…
……
………
来る!
俺が刀を振り下ろしたと同時、狐からも幾筋もの雷が放たれた。手数では圧倒的にこちらが負けているが…威力ではどうだろうか。
「があああああああああっ!」
狐が吼える。さらに雷が飛ばされた。
しかし、俺はその全てを切って掻き消す。そしてそのままの勢いで、狐を両断した。
飛び散る鮮血と、狐の断末魔。初めての同格に届こうかというほどの相手との戦闘は、俺の勝ちで幕を閉じた。
「雷以外の攻撃されたら不味かったかも」
俺はそう言いながら、刀についた血を拭く。漫画とかアニメとかの剣を振って血を飛ばすというのは、あれは漫画だからできることであって、現実では無理だ。なので、丁寧に拭き取っておく必要がある。
と、作業していると、ついさっきゴブリンを倒した時の説明書きのようなものが表示された。だが、その表示はあのときとは結構異なっている。
その文面はというと、【ユニークモンスター『ブラックボルト・エンペル』を討伐しました。これにより、『唯一召喚-ブラックボルト・エンペル』が1回使用可能です(召喚に際し、EPは消費しません)】というものだった。
「特殊個体だったのか…カタログに載ってないから、倒したら召喚できるようになるっていうシステムかな?」
俺は、カタログを見つつそう言う。『ブラックボルト・エンペル』はカタログには載っていなかったし、俺の推測はあながち間違ってはないだろう。
「まあ、タダなら召喚しとくか」
俺は、『唯一召喚-ブラックボルト・エンペル』と書かれた画面の下にある『召喚開始』のボタンをタップする。すると、さっきまであった死体が綺麗さっぱり黒い粒子に変わり、それが俺の目の前で、また狐の形を取り始めた。
少しして、それが完全に狐となった。なったのだが、なんだろう、さっきまでと打って変わって、めちゃくちゃ可愛く感じてしまう。何かしら、我が子補正的な何かがかかっているのだろうか。
「…いいや。こいつはもう俺のもんなんだし、目一杯可愛がってやるからな!」
「コン!」
俺が狐を膝に乗せて撫でたその時だった。目の前にまた画面が表示され、そこには、【魔物の召喚が完了しました。これにより、《眷属鑑定》が行使可能になりました】と映し出されていた。
「眷属鑑定…狐のステータスとか覗けたりするんかな?」
そんなことを言いつつ狐に目を向けると、俺のステータス画面のようなものが映し出され、思わずビクッとしてしまった。
そんな俺に驚いたのか、狐もちょっと飛び上がったが、すぐに元の膝上に落ち着いた。うん、可愛い。
因みに、ステータスの方は、攻撃スキルが満載で、防御スキルもそれなりにあった。完全に戦いしか視野に入れていないスキル構成だったよ。
「思わん収穫があったけど、まだ目標自体は達成してないし、もうひと頑張りかな」
俺は、狐…名前ないのも可哀想だし、先に名前をつけておく。
黒い雷を纏った狐…だめだ、思いつかない。狐には悪いが、もう安直に、フランス語の黒からとってノワでいいや。流石にブラックはなんか違うし。
「お前は今日からノワだ」
「コン!」
ノワは、俺の名付けに反応して、可愛らしく吠えた。
「じゃあ、ノワ、今から一仕事行くぞ!」
「ココン!」
俺とノワは、森の中にかけて行った。因みに、鑑定してみると、ノワは女の子だった。
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