16層 まぐれ
それは、本当に偶然だった。夢見心地だったとき、警報が鳴った。侵入者が発生した時に鳴るように設定していたものだ。
警報と言っても、地球のサイレンみたいなものではなく、金属同士がぶつかり合うけたたましい騒音だが。
兎に角、それが鳴り響いた。ミソラも何事かと飛び起き、ノワに至っては厳戒態勢を既に取っていた。
時刻は昼下がり。侵入者はさほど強くなさそうな五人組の若者集団だった。それぞれがそれぞれの得物を手にしており、談笑しているのが管理モニター(万物創造の応用)に映し出される。
「まずいな…」
侵入者自体に問題はない。彼らの強さは底が知れているが、問題は入り口が知られたことであった。
聖女対策で入り口を移したというのに、それが知られるとなると、もう殺すしかなくなる。
敵対はしたくないが、そもそも敵対している勢力だ。殺すことに躊躇いを抱いてはいけない。
無論、躊躇う必要もない。
◇◇◇
ロマの森。そこは初心者冒険者の狩場として周辺地域で有名だ。棲息する魔物も弱い魔物が大半で、近頃途轍もない強さの魔物の目撃証言があったが、それも途絶えている。しかも、広い。
詰まるところ、鍛錬や研修、試験にはもってこいなのである。
そして、魔窟に入った憐れな冒険者は、ちょうど狩りに入った初心者たちである。
「こんなとこにダンジョンがあるなんてなー」
「ほんと。びっくり」
装備はお粗末ながら使い込まれた跡が散見され、ある程度の経験は積んでいるらしかった。
「油断は禁物だよ、アルくん。いくら準備万端でもーー」
「わかってるって。メアリは心配性だな」
「アルトもメアリも黙る。集中」
その時、後方で爆発が起きた。慌てて彼らが振り返ると、天井が崩落し、逃げ道がなくなっているのが見えた。
「やばいだろ、これ…」
「ごはん、そんなに持ってきてない」
「だから油断するなと!」
「何はともあれ、先に進むしかなくなったなー」
数時間後、彼らは満身創痍だった。全員がどこかしらに大きな裂傷を負い、アルトと言うリーダーの少年に至っては、片腕を失い、右目がほとんど潰れたような様だった。
だが、彼らは運がいい。ショウゴが絶殺の殺意を持って作ったトラップをほとんど全て踏み抜いて今の具合なのだから。
「ア゛ル゛ぐん゛っ!」
「心配すんな、メアリ…俺はまだ大丈夫だ…今は聖女様も街にいるし、なんとかなるさ……」
「嫌だよ!大丈夫なわけないじゃない!」
じゃり。
じゃり。
じゃり。
と、そんな音が狭く暗い魔窟の通路に響いた。
「あ、いた!」
似つかわしくない、幼く無邪気な声がした。
「女…の子?」
「危ないよー!」
そう言いながら、パーティーメンバーの少年が声のした方に駆けていく。普通、こんな場所に女の子なんていない。が、極限状態に置かれた彼に、そんな判断は難しかった。
声の主の、姿が見えた。右手には、暗闇であってもギラリと鈍く光る短刀が握られていた。
「っ!離れろ、ユート!」
「え?」
アルトは、咄嗟に叫ぶ。が、遅かった。
「えいっ!」
「え?」
一瞬の閃きののち、ユートの下腹部から鮮血が噴き出た。数瞬後、さらに風切りの音が響き、ユートは声を上げることもできず、絶命した。
「きゃあああああっ!」
メアリが金切り声を上げる。
「ふー…ほんとに、殺しちゃった…」
「な、何してるんだよ、お前…」
「ん?ほんとは気分はすごく悪いんだ。けど、お父さんとノワちゃんと私のためだって考えたら、どんなことでもできる気がする!」
それは会話としては成り立っていなかったが、アルトに目の前の少女が関わるべきでない存在であると言うことを理解した。理解させられてしまった。
自分たちとは決定的に異なる、異質過ぎる存在。見かけの年齢に囚われるがあまり、彼は心のどこかで弱者と断定してしまっていたのだろう。
「な、なんで殺した…?」
「うーん、私のため…かな?」
「脅されているのか?」
「違うよ。私がしたくてやってること」
アルトは、メアリともう二人のパーティーメンバーを逃すため、会話を試みる。そして、片手を背に隠して逃げろとジェスチャーを送った。
「あ、ダメだよ。逃げたら」
「やめろっ!」
彼の目の前の少女が短刀を振りかぶり、加速した。確かな殺意のこもった一撃。それは、防御しようとした彼のショートソードをいとも容易く叩き切って、逃げ始めていたメアリ以外の二人の息の根を止めた。
「はぁ…」
「う…うわああああああっ!」
「いやああああああああああああっ!」
崩れ落ちる二つの肉塊を尻目に、少女はため息を吐き出した。うんざりしたような、そんな表情を浮かべている。
「じゃあね」
それが彼が聞いた最後の言葉だった。
◇◇◇
管理部屋に戻ってきたミソラの顔色は悪かったが、どこか清々しさも孕んでいた。
「大丈夫だったか?怪我とかしてないか?」
まあ、それでも心配はするもので…
「うん、平気。今は不思議なんだけど、気分はいいんだ」
「そっか…でも、無茶はするなよ?」
「うん」
今回の殺戮劇は、ミソラが望んだものだった。もちろん俺はミソラに手を汚させたくなかったし、俺が殺せば問題なかった。
けど、ミソラが『お父さんと一緒にいるなら、絶対にいつかは通る道だから』と言って引かなかった。
俺の選択に後悔はない。後悔はないが、これで本当に良かったのかは未だわかっていない。
「おつかれ、ミソラ」
「うん…お父さん」
俺はミソラをキツく抱きしめた。
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