11層 街ーレヴァテン
軽く走ること約2時間。俺たちは街の前まで来た。街道が続いていたので、それを伝って街まで来たのだが、街道の先にある城門で、何やら検問らしきことをやっていた。
こういったファンタジーものの定番は、やっぱり、身分証だろう。失念していた。ここまで来てしまった手前、みすみす帰るということはしたくないので、俺たちは検問待ちの列の最後尾に並んだ。
列の消化自体は早いもので、並び始めてから5分とたたないうちに俺たちの番が回ってきた。前の人のを見るに、身分証は必要ないみたいだが、代わりに結構な金を取られる。
「次!」
「あ、はい!」
門兵に促されるまま、俺とミソラは彼の前に行く。
「貴様ら、何用があってレヴァテンに来た?」
「降誕祭がもうすぐですので、山から降りてきました」
「ふむ…そっちの子は?」
「彼女の両親が死んでしまって、縁があった私が預かった感じです」
「なるほどな…特に怪しい点はないな。よし、通行料を支払ってもらう。銀貨3枚、そっちの子は銀貨1枚だ」
軽い質疑が終わり、今度は通行料を支払うフェーズだが、生憎手持ちがない。駄目で元々、物納じゃいけないか聞いてみるか?EP収集の時に狩った魔物の素材で、いくつか持ってきているものがあるし、それを使っていけないかな。
「いままで、自給自足の生活をしていたもので、手持ちがないのです。魔物の素材なんかはあるんですが、物納という手はありませんか?」
「…ふむ、物にもよるが、出来ないことはない」
よっしゃ!物納行けるんなら後はこっちのもんよ!
俺は、しょっていたバックパックから、メタルドラゴニックの皮を5つほど取り出して、門兵に見せる。日の光を反射してキラリと輝くその皮は、まるで高純度の鋼のようだ。
「んなっ…アーマーリザードの皮…だと!?」
違います。メタルドラゴニックです。まあ、訂正するのは面倒くさいし、反応を見ている感じアーマーリザードでも街には入れそうだったので、そのままにした。
「いけますか?」
「あ、ああ…通ってくれてかまわない。少し頼みがあるんだが、宿は“竜牙の宿り”というところに泊まってくれ。これを見せれば、ただで宿泊できる」
そう言って、何やら銅板のような物をぽんと手渡された。見ると、重要人物と文字が刻まれている。どうやら、俺が渡した魔物の皮はかなりの大事になる物だったらしい。
けれど、お金がない状態で泊まれる宿が確保できたのだから、よしとしよう。
俺とミソラは、兵士に言われたとおり、“竜牙の宿り”を目的地に、街に足を踏み入れた。
◇◇◇
街は、国旗らしき物を道の両脇に掲げ、多くの露店が道ばたに出店するという、かなりのお祭り状態だった。ただ、露店は営業していないらしく、人通りは少ない。せかせかと露店の向こう側で従業員が準備しているのが見えた。中には、もう肉を焼き始めている物もあるらしく、いい匂いが道中に漂っている。
「いい香り~」
「だな」
さっきまで検問を受けて萎縮していたミソラも、表情を緩めて鼻をスンスンと鳴らせている。確かに、おいしそうな匂いだ。嗅いだことはないが、なかなかに食欲をそそられる香辛料のような匂いも漂っている。
「式典の後のお祭りだけで十分だけど、見てる感じ、まだ式典も終わってないよねぇ」
準備が中途半端なのを見て、俺はそうつぶやく。
「うん。ちょっとくるのが早かったね、お父さん」
まあ、正確な日時が分からない状態かつ思いつき出来たんだから、上等だろう。
その後、俺たちはいろいろと見て回った。商業区から、住宅街、街の中央にある一際大きなお屋敷に、鍛冶屋などが多く建ち並ぶ工業区。そういったTHE・ファンタジーな街並みは見ているだけでも面白かった。
ミソラも、生まれた村とは全然違う街を見て、興奮していた。目をキラキラと輝かせ、首をぐるんぐるん回転させている。
「あ、お宿見えたよ」
そんなこんなでいろいろ歩き回った末、目的の宿が見えてきた。道側から無かったから、道すがら人に聞きつつだったので、予想よりも遅く着いてしまった。もう日も暮れて、空が紫色に染まり始めている。
「じゃあ、入ろうか」
「行こー!」
俺とミソラは、意気揚々と宿に乗り込む。扉を開けて中に入ると、そこは酒場のようになっていて、アルコール臭が充満している。また、剛毅な笑い声がとどろき、ガチャガチャと食器がふれあう音があちこちから上がっている。客層は、筋骨隆々な男衆と、豪快な雰囲気のマッチョ女衆。
「お父さん、なんか、すごいね…」
ミソラがそれだけ言って固まった。
「はいはーい、お客さんは泊まり?それとも食事?」
さすがに立ち尽くしていると、ベリーショートの女の子が、声をかけてきた。年は多分ミソラよりも4年くらい上か。
「ん、ああ、門兵にこれを渡されて、ここに来るようにって」
俺は彼女に答えて、銅板を見せる。彼女は一瞬驚いた顔になったが、すぐに笑顔に戻って口を開いた。
「お兄さんたち、これ持ってんだ。久しぶりに見たなぁ、これ。よし、分かった!今から部屋に案内したゲルから、ついてきて!」
「あ、ごはんとかって…」
「一番いいのを部屋まで持ってったげる!」
ご飯の心配は、どうやら無用なようだ。
俺とミソラは、彼女の後ろについて、酒場を通り過ぎた。その際、何人かがミソラに悪意の視線を向けていたのを、俺は見逃していない。
面白いと思ってくださった方、続きが気になるという方、また見てやってもいいよという方、ブクマ登録、評価の方、よろしくお願いします!
創作のモチベにつながりますので、是非!