1層 転生
夜も更け、繁華街の喧騒が一段落したほど。俺こと松倉翔吾は、駅に向かって足を動かしていた。
時間は日をまたぐ一歩手前、終電まで後数分といったところだ。金曜日ということもあってか、こんな時間帯で比較的落ち着いたというのに、いつもに比べて酔っ払った会社員の姿は多い。
そういう俺も、今の今まで同僚と飲みに行っていたので、あまたいる酔っ払いのうちの一人ではあるのだが。
そこまではいいとしよう。俺が泥酔と呼べるまでに酔っ払うまでは。覚束ない足取りで、家路を急いだのがいけなかった。
赤信号になったので、駅前の横断歩道を渡ろうと、一歩踏み出した時だった。その足が斜めに着地し、俺は盛大に転んだ。もう、漫画やアニメみたいな感じの転び方だ。
顔から着地し、まわっていた酔いも覚めるくらいの激痛が走る。そこで俺は、気がついた。赤信号で車道に出たことに。
プァーーッ!!
右側から、そんなけたたましい音が鳴り響く。俺は、顔を右に向けた。そして、黒塗りの高級車が猛スピードでこちらに突っ込んできているのが見えた。
「あ、まっ…」
そこまで言って、全身に強い衝撃が走り、あたりに鈍い音が響き渡る。喉からは何か生暖かいものが登ってきて、口内を満たしていく。
少しの間、浮遊感を感じた後、背中に衝撃を受け、口に溜まったものが吹き出す。霞む視界で見えたのは、赤と白が混じったどろっとしたもの。
だが、次々にそれは、完全に真っ赤な液体で染まっていく。
「おい、大丈夫か!?」
「ぅあ」
遠くで、そんなことを言う声が聞こえるが、もはや口を動かすことすらできそうになかった。俺にできるのは、短く呻ることだけ。
「おい、岸部!救急車呼べぇ!あと、サツも!」
「はい、扇田さん!』
くっそ。もう意識が保ちそうにない。途中から、声がぼやけて聞こえるし、ひどく寒い。
もう一度、俺は喉から登ってきたものを吹いた。そのせいか、また一層寒く感じる。
ああ、死ぬのか、俺。
本能でそう悟ってからは早く、すぐに意識が霧散した。
◇◇◇
身体中がむずむずする。例えるなら、足をドクターフィッシュにかじられる感覚が全身に広がったような、そんな感じだ。それを堪えきれなくなった俺は、目を開いた。
そして、最初に目に入ったのは、なんかびじゅびじゅしている俺の体と、その上に乗っかる無色透明な、占いで使うような球だった。
新連載です。面白いと思ってくださった方、続きが気になるという方、もしよければ、ブクマ登録、よろしくお願いします!