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第三話『太陽の無い世界』





 闇の世界、クリフォトには朝は来ない。いや、正確には朝日が昇らないというべきか。一切が闇に包まれ、唯一光と呼べるものは、人工的につくられた機械の光。太陽の持つ温かみなど一切なく、それは冷たい、自然が一切見えない寂しさを募らせる光であった。

 人はエリアと呼ばれる管理された箱庭の中で生が約束されていた。しかしそれは天使の与えてくる使命を全うする事のできる者のみで、戦い続け、生き残りつづけられる者にのみ与えられる権利のようなものであった。

 しかし、なかには戦いが不得手な者、未熟な者、年幼い者、年老いた者、病気の者、怪我をして戦えなくなった者がいる。彼らは管理者たる天使にしてみれば処分の対象でしかなかった。


 そう、このクリフォトに生きる者には、弱い事は罪であった。


 だが、彼らは機械仕掛けの天使たちとは異なり、血肉を持った人である。弱者の分を強者が護る事で、かろうじてバランスを保っていたのだった。



「でも、それはおかしいと俺は思う」

「いや、確かにそうだ。わかってはいるさ。だがな、シュウナよ。だからといって弱者をほおっておいていいというワケにはいかんだろ」


 まだ少年のそれからようやく脱し、だが自分の生きる道に迷いを持ち始めた若者、シュウナは、一つだけ年上の幼馴染であるアスターにたしなめられていた。しかしそれではないとシュウナは続けるのだった。


「アスターのいっていることと俺がしたいことは少し違う。というか、かなり違う。それをいったら、俺の両親はただのパン屋だ。食べ物を供給する側であって役割はあるが、戦えない。弱者なんだよ。アスターのいってることだと、俺の両親にも武器を持って戦えというようなもんなんだぜ。そんなこと……できるかよ」


 やれやれ、俺だってそんなことを考えちゃいないよ――と思ってはいたが、それを口には出さず、目を伏せ手を緩く漂わせる仕草でアスターは返事をしたが、若いシュウナはその声と想いが次第に強くなっていった。


「俺は、エリア8を出てバベル・タワーを目指す。そしてバベル・タワーの頂上まで登りつめる。そして、太陽をこの目でみたい。みんなにも太陽を見せてやりたいんだ」


 シッ――


 アスターがシュウナの口を慌ててふさぎ、自分の口元で人差し指を立てて見せる。


 誰かが来る……


 ここに至り、エリア8の居住区、その外壁の外にある資材置き場で不用意に大声になってしまった事を二人は後悔していた。シュウナは腰にさげた短刀を抜き、アスターは拳銃を構える。資材置き場は行き止まり。最悪、A9――監視役の天使が何かの気まぐれを起こして居住区の外まで出てきていたら、様々な意味を含めて逃げ場は無かった。


 アスターは無言で手を動かし、サインをシュウナに送る。弾かれたように、しかし音を一切立てずに、シュウナは短刀を構えて資材の影をぬって音の主に近づく。


(もし、本当に天使が相手だったら、俺達だけでどうにかできるのか?)


 冷たい汗が一筋流れ、頬を伝い、あごの先からしずくとなって落ちた刹那、奴は現れた。


「コォラ! シュウナ、アスター! 資材取りにいつまで時間をかけるつもり?」


 聞き慣れた声に、彼らの緊張の糸は完全に切れた。


「カルディナぁ~」


 情けない声となっていたが、それには構わずどうと資材の上に二人は身を投げ出したのだった。


「まったく――ホント、何をやってるのよ――」


 呆れ声で仁王立ちになった彼女――カルディナはシュウナに手を伸ばし、静かな笑顔を投げかけていた。それをアスターは口元だけに笑みを作って資材をソファーのように、この危険な場所が自宅のリビングであるかのように座って眺めていた。


「で、何を話していたの? 言わないつもりでいるでしょう。男同士で怪しいわねぇ」


 逃がさないとばかりにまくし立てるカルディナに、男二人は一瞬互いに(お前が言え)と視線を交わすが、すぐに折れたのはシュウナであった。


「なんてことないよ。ただ話しをしていただけさ。――そのう、俺がここを出て行くって話し……」


 聞いたか聞かぬかのうち、カルディナはシュウナに背を向ける。自分の曇った表情を見せたくないのか、それとも真実シュウナのことが気になっているという事を知っているがゆえ、このまま迷いなく送り出すべきと思ったのか、真実は彼女の深層ですら迷っているようであった。だが、彼女のシュウナと一緒にいたいという思いが強く、一瞬で行動のベクトルがそちらに傾いた。


「嫌よ――イヤ!」


 はじめは背中越しに、二度目はシュウナの鼻先まで一気に詰め寄りハッキリと言い放っていた。


(やれやれ、俺は見えてないのね)


 兄貴然と振舞うアスターの心にも一抹の引っ掛かりをつくる。カルディナはシュウナしか見えていないことに虚ろにつぶやいていた。


 だが、それは彼自身がいったとおり、アスター抜きで二人の会話だけが進んでいく。


「イヤ、って言うが、俺はこんな闇しかない世界に人がいつまでも居るのはおかしいと、そう思っているんだ。だってそうだろう。いくら天使たちが管理したとしても、老人達の昔語りや俺の夢に出てくるあのまぶしい世界は消せやしない! カルディナだって子供の頃に聞いた、大崩壊前の光の国の話は覚えているだろう。もともと俺達は光の国で生きていたんだぞ。それが本当は自然なことだから、夢に出てくるんじゃないのか? 太陽が」


「だから一人でエリア8を出てバベル・タワーを目指すっていうの? シュウナの言っていることは無茶よ。あたし達、まだハンターですらないのよ。バベル・タワーがあるエリア5は無人地区で赤章ハンター以上じゃなければ立ち入り禁止区域だってお父さんがいってたじゃない。忘れたの? しかも、バベル・タワーに入れるのは八人の金章ハンターだけなのよ。どうやって入るつもりなのよ! お願いだから、そんな無茶なことは考えないで――あたし、シュウナがいなくなったら、どうしていいかわからないよ。」


 言い合いを続けていたが、最後に一枚上手に出たのはカルディナ――彼女であった。


「わかったわ。だったら、あたしもついて行く!」


 この言葉は、いつも自分を蝕む毒のような痴話喧嘩であったはずの言い争いにアスターが介入するのに十分な理由となった。


「ばっ――」


 シュウナが馬鹿野郎と言い切れずに迷いを見せた瞬間、アスターはそれを思いもかけない方向につないでしまった。


「馬鹿はおまえだシュウナ。俺も入れれば三人だ。四人一組が原則だが、まぁ、四番目はいずれ信頼の置ける奴を見つけてからだな。いいじゃないか、太陽。見に行こうぜ」


 もごもごシュウナは何か言いかけたが、更にアスターは続ける。


「となると――シュウナのおつむじゃあ具体的なことは何一つ考えていないんだろうからな――まずはハンターになってしまうべきだ。力を得ておくに越した事はないだろう。それから、ランクを上げて情報端末にアクセスできるようになっておくべきだ。情報はあった方がいい。俺達はまだ知らないことが多すぎる。カルディナ、マイセンさんから聞いた話をもっと教えてくれないか?」


「そうね。あたしももっとお父さんに色々聞いてみるわ」


 アスターに仕切られ、カルディナが自分に与えられた役割の重要さに満足して嬉々とした笑顔を見せる。そこに至ってようやくシュウナは言葉が出せたのだった。


「駄目だ。ハンターにはならないし、そんなゆっくりしたことをしていたくない――あ、いや、していられないんだ。」


 苦悶、ともいえる表情になったシュウナを見て、二人は盛り上がった気持ちが一気に冷却された。何故、という風が二人の心に吹いたのだ。


「シュウナよ、何を焦っているんだ? 急がなければならないことでもあるのか?

 オマエ、最近変だぞ」


 静かに、たしなめられるように言われたシュウナであったが、彼自身もその自分の気持ちが、衝動がなへんのものかわからずにいた。


「俺も、変だと思う。でも、何故かわからないけど、太陽を目指さなければならない気がするんだ。目指してみると、きっと何かがつかめるんじゃないかと思う。だから、行きたいんだ」


 シュウナ自身、わけのわからないことを言っている自覚はあった。それが子供の我が儘としか聞こえていないだろう事も。しかし、そこは共に育った年月の長さでアスターとカルディナの二人は自然とその気持ちを汲もうと心が動いていた。


「わかったよ――でも、今日のところは家に戻ろう。いつまでもこんなところで話しをしているのも物騒に過ぎる。特にカルディナがいるんだからな」


「まぁ、失礼ね。これでもハンター見習いってことではあなた達と一緒なんですからね。自分の身は自分で守れるわ」


(それが心配なんだよ……)


 シュウナとアスターは違わず同じ想いで深いため息をついたのだった。


「わかった。帰ろう、俺達の家に……」



 しかし、彼らは無事に家にたどり着くことはなかった。

 彼らが資材置き場を離れ、居住区の外壁を伝いながら歩き、入り口が見えた頃には居住区の異変が目に飛び込んできたのだった。


 エリア8居住区の炎上という異変が――



(つづく)


とりあえず、ここまでです。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、Real-Sideのエピローグに登場した彼らです。

数年越しに書く気になって紡ぎだした故に、デティールがかなり変わっていますね。


まぁ、そこはそれ。あれはそれ。


この先も書いていきますので、応援ヨロシクです。


モンスターハンターを意識していないとは言いません。


本歌取りでございます。


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