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第一話『ハンターの世界 』



 ハンター。それはこのクリフォトの地で主要な役割を担っている存在だ。職業のいち形態としてあるものではなく、人が人として生きるために選択しなければならない義務であった。

 世にいう大崩壊後、人のほとんどは地下世界であるクリフォトの地に堕とされた。大崩壊の際に悪魔についた者、堕天使についた者、自らの生き方を決められなかった者の全てを天使達は神の名の下に地下へと封じたのだった。

 そして天使達の管理が始まった。

 クリフォトの中央に位置し、半球状の頂点に達し、地上へとつながる唯一の存在、バベル・タワー。そこから天使達は常に人の動向を管理し、支配していた。

 その一つの形態がハンターの存在であった。

 ハンターは主に、武術に優れその力を頼りとする剣士、知識と技術を拠り何処とする術士の二つのタイプに分けられ、それぞれの技能に応じた指令を与えられ、こなしていくことで世界の秩序を保つ役割を与えられていた。

 ハンターには、基本的には誰でもなれた。バベル・タワーの一階か九つの地区それぞれにあるセンターでイニシエーションと呼ばれる刻印さえ受ければ、誰にでもなれた。ただ、その先に生き残れるかはまた別な問題となっていた。

 九つのセンターには最高ランクであるオールの称号を持つハンターが支配権の一部を与えられ、コミュニティを成していた。バベルの天使に審議を受けねばならないが、ある程度自由にこの地下世界のなかで生きていく事ができた。その一つの例にハンターの育成があった。

 ハンターは誰でもなれるが、生き残れるかは別である。その生存率を上げるため、各センターの金章ハンターが協議し、最低ランカーである橙章テニーハンターになるまで訓練所で上位のランカーの指導の下、実践を重ねる方法が編み出されたのだった。


「くそ~」


 悪態をつき、不承不承の体でセンター8から出てきたのは、先のワーム・リザードを狩ったハンター達の一人、シュウナであった。

 いや、正確にはハンター見習い。剣士十字章――センターが刻印の後に与える見習い卒業の証――すら得ていないビギナー・ランクのハンターであった。


「オイオイ、何をむくれているんだ? まさか、もう少しで上手くいったのにマイセンさんの所為で邪魔された、とか思ってないよな?」


 後ろからシュウナの肩を叩いてきたのはアスター。シュウナと同じくハンター見習いの術士であった。シュウナより一つだけ年長の彼は、何かとシュウナに兄貴面をして見せ、ことさらに慎重な、冷静な判断をする口やかましい存在であった。


「ホント、お父さんじゃないけど、怒りたくもなるわ。大怪我するところだったのよ!」


 続けてきたのは先の話題にあがった女性――というより未だ少女を脱していない、ハンターとして生きるよりは恋愛やお洒落にその心を躍らせる十代の少女――カルディナ・マイセンであった。彼女の父の言ではないが奇特にも幼馴染のシュウナを好いていた。彼女のシュウナを見る目はどことなくうっとりと、そして甘いものを感じさせ、周囲にそれをはばからない若さに満ち満ちた愛情を撒き散らし、今こそ人生最大の春といわんばかりに幸福を謳歌していた。この時代にあってその一本気な愛情は珍しい物ではないが、彼女のそれはやや妄想や信仰じみた逸したものがあった。


「あぁ、もう、わかったよ。悪かったよ」


 さしものシュウナもカルディナには弱いらしく、素直に謝ってしまっていた。それを面白そうにからかうのはアスターの役目であったが、ここ最近は妙にぎこちなく、二人から一歩離れていることが多くなっていた。そこの真の想いに気付けないのはシュウナの経験の浅さと恋に視力を奪われた少女の若さであった。


「やれやれ、なんにしても試練クエストは来週に持ち越しだ。この一週間、マイセンさんにみっちりしごいてもらうんだな!」

「五月蠅いぞ、アスター。それだけはあまり考えたくないんだから……」


 シュウナは身震いしてみせる。ロイ・マイセンの厳しい訓練の日々を思い出して実際そら寒くなる思いであるのは、これからの一週間は確実にしごきの対象がシュウナ自身であることを悟っているからに他ならない。

 ロイ・マイセンは稀有な傑物で、剣士と術士の両方の十字章を得ており、双十字ダブルハンターであった。つまり剣士としても術士としても一流であったため、ハンターの教官としての任務が多く与えられており、また事実多くのハンターを送り出していた。そのため、彼はその卒業生らを含めた若いハンター達から尊敬をもってこう呼ばれていた。


 マスター・ロイと……


 だが、それも彼ら三人にとっては身近な怖い雷親父でしかなく、また尊敬する父親でしかなかったのだった。


「次こそは、必ず!」


 マイセンの落ち着き払った顔を思い出し、シュウナは声に出して決意を固めるのであった。



(つづく)





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