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それって愛ですか?  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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糸との格闘

 ヨナの手ほどきで、私は組み紐を始めた。


「刺繍用の糸だと、少々細いですから、まずは紐を作りましょう」


 ヨナはどこからか、古い厚紙と同じ長さの小枝を揃えて来た。

 厚紙は円筒の形にして、その周りに小枝を貼り付ける。


「お嬢様の好きな糸を、二色選んでくださいね」


 円筒に貼り付けた小枝に糸を掛けていく。

 少しずつ、ほんの少しずつ、円筒の内側には、二色の糸が紐のようになって生まれていく。


 なんだか、楽しい。

 指先を動かし、互い違いに糸を掛けていると、あっという間に時間がたつ。


「お嬢様。素敵な紐が出来ていますよ」


 ヨナの誉め言葉で、一層やる気が出る。


「ヨナ。こういうこと、何処で覚えたの?」


「私の育った場所では、皆小さい頃からやってます。組み紐は元々、私の祖国よりも東にある国で、大昔から作られていたようです」


 数日後、私の腕の長さ程の紐が数本出来上がった。

 

「上出来です。でもお嬢様。これからが本番ですよ」


 ヨナは一本の紐を手に取ると、曲げたり、そこに紐を通したりしながら、三つの輪の形を作った。

 凄い。

 魔術かしら?


「何を言っているんですか。コツが分かれば誰にでも出来ますよ」


 それから、私の紐との格闘が始まった。

 私はきっと、ヨナほどの器用さがない。

 何度も見本を見せてもらって、何度も同じ様にやってみた。


 ヘンなところに結び目が出来たり、ようやく輪が出来ても、形が不揃いだったりする。


 昼間は学園に通い、夜は遅くまでヨナの指導を受ける。

 そうして七日間たった。


「で、出来たあ!」


 ようやく、三つの輪が均等になる。


「スゴイスゴイ! 良く出来ましたね、お嬢様!」

「ヨナのおかげよ! ありがとう」


 これで、友人たちにも教えることが出来る。

 自分の手で何かを作っていくのって、こんなに楽しいことなんだ。

 もっと、上手く出来るようになりたいな。


「これは組み紐の基本的な結び方なんですが、これが出来ると、次はもっと華やかなものが作れるようになりますよ」


「そうなの? 私、頑張ってみるね」


 練習用の紐をカバンに入れて、私は翌日足取り軽く学園に向かった。

 晴れた空の下、心も軽い。


 軽い、はずだった。


 校門に立つ、マークスを見るまで……。


「オイ」


 ギロッとこちらを見るマークスに、私は息を止める。

 そして大きく息を吐くと、挨拶をする。


「おはようございます、マークス様」 


 マークスはいきなり、私の腕を取る。


「ちょっと来い!」

「やめて下さい!」


 私は腕を払う。


「なんで……」


 マークスのショックを受けている様な表情に、私も驚いてしまう。

 

「なんで俺と一緒じゃない! 一緒じゃないのに、なんでお前は楽しそうなんだ!」


 意味が分からない。

 いつも不機嫌だった相手と一緒にいて、楽しいわけないだろう。

 一緒じゃないから、楽しいのに。


「お、俺を、愛していないのか!」


「私たちの婚約は、貴族の義務のようなものでしょう?」

「え……」


 呆然とするマークスに、私も呆れてしまう。

 

「シュリー嬢。もう鐘がなるよ、急ごう」


 後ろから来ていたらしいダニエルが、私の肩を叩く。


「え、ええ。ありがとう」


 私は簡単に礼をして、マークスを置き去りにした。

 何か間違ったことを、私は言ってしまったのだろうか。


「いいえ、シュリー様は、至極真っ当なことしか言っていませんわ」

「そうそう。気にしなくて良いと思うわ」


 昼休みに、ライラとミオンには朝の出来事を話した。

 二人の言葉に、私はほっとした。


 良かった。


「そうそう、話は変わって、組み紐の作り方、少し出来るようになりました」


 私が言うと、ライラとミオンの顔が明るくなる。


「スゴイです、シュリー様」

「私も家で挑戦したけど、なかなか上手くいかなかったよ」


 放課後、私は二人に、三つの輪の作り方を教えることにした。

 二人は私より手先が器用なので、何回か練習すると、すぐに出来るようになる。


「「また、教えて下さいね」」


「ええ、私が覚えたら」


 朝の不愉快な出来事を、私はすっかり忘れていた。

 だが、邸に戻ると否応なしに、不機嫌な人たちに囲まれてしまう。


 それは婚約者(一応)のマークスと、母だった。

組み紐の歴史は古いそうですね。

何度見ても、組み紐の結び方を覚えらないのは、私だけではないと思いたい。

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