一国の王たる者、それなりのことを言う
デビュタントの令嬢は、爵位順に入場し、国王様と王妃様にご挨拶をする。
呼名を待つ間、私の鼓動は速くなっていく。
だって。
国王陛下にお会いするなんて、初めてだもの。
「いや、お前、陛下に抱っこされたことあるけどな」
はい?
「まあ、お前が歩き始める前のことだから、覚えていないか」
ええと……。
私がまだ赤ん坊だった頃、国王陛下に抱っこされた、ということなのでしょうか。
余計に緊張してきたわ。
でも、なんで国王陛下に抱っこされたりしたんだろ?
貴族の赤ちゃんお披露目会とか、あったのかしら?
「エド、いや陛下が見せに来いって言うから、出仕ついでにお前を連れて行ったよ」
はあ……。
しかも陛下を「エド」って……。
父は意外にも、大物なのかしら?
まさか、ね。
少々震えている私の手を、父はそっと持つ。
ひょっとしたら大物かもしれない父の手は、なんだか温かかった。
そういえば父は、時々王宮に出仕しているけれど。
何の仕事をしているのだろう?
今まで気にしたことがなかったけれど、今度ゆっくり聞いてみよう。
そんなことを考えていると、後ろの方が騒がしくなった。
どこかの令嬢の笑い声がする。
ちょっと、下品な笑い方だ。
関わらないようにしようっと。
「続いては、ローザン伯爵家のシュリー・ローザン嬢」
父に手を引かれ、私は足を踏み出す。
会場は昼間の様な明るさで私を迎えた。
「やあ、フレッド」
国王陛下は片手を挙げて、父に声をかけて下さった。
なんと親しみやすい陛下なのだろう。
「フレッド言うな」
なんと無礼な父なのだろう……。
私は一生懸命、膝折礼の姿勢を保った。
「大きくなったな、シュリー嬢」
「はっはい」
「お母様のキャサリーヌに良く似ているわ。将来楽しみね、フレッド」
「勿体なき御言葉」
あ、王妃様には礼を尽くすんだ……。
しかし王妃様、とんでもないことをすらっと仰る。
似てますか、私。母に。
母が聞いたら怒りまくることだろう。
頬が熱くなった私に、国王陛下は話しかけて下さった。
「さてシュリー嬢。君はこれから、何をしたいのかな?」
「は、はい。いずれこの国のお役にたてるような……立派な……大人に……」
「うん、正しい心がけだし、それは国王としては有り難いね。でもさ、わたしは思うんだ。デビュタントは始まり。まだまだ君は成長途中だ。傷つくことも、理不尽な目に会うことも、あるかもしれない。だからこそ、まずは勉強して、人付き合いを重ねて、揺るぎない心を作っていって欲しい。お国の役に立つのは、それからで良いのだよ」
あ……。
そうか。
揺るぎない心。
私に必要なものだ。
それを確立していくこと。
結構難しい……。
でも。
大人になるって、そういうことなんだ。
国王陛下の言葉は、胸に沁み込んだ。
パチパチと拍手の音がする。
え、まさか父が?
と、父を見ると「ケッ」と言っている。
拍手は壇上から聞こえてくる。
「さすが国王陛下。身を修め家を繫栄させ、然る後に天下国家を論じるべきと、我が国の古の聖人も言っておりますな」
いつの間にか陛下の隣に、見たことのない衣装をまとった男性がいた。
長い髪は赤銅色。瞳は黒曜石みたい。
美しいという表現が似合う人だ。
この国の言葉で喋っているけど、どこか外の国からのお客様だろうか。
「そうだ、皆にも紹介しよう。こちらは東の帝国皇太子のアウラ殿下である」
東の帝国って……。
ヨナの故郷?
「ああ、ようやく来たか」
この時は、まだ父の呟きの意味が分からなかった。
さらに次々と、令嬢たちが入場する。
下品な笑い声の主は、私の婚約者とそのパートナーだった。
感想ありがとうございます!!
返信遅れていて、申し訳ないですm(__)m