ドレスアップしたら、少しは誉めて欲しい
少々(結構)更新に時間がかかりました。
デビュタント当日。
これが……。
私……?
鏡の中の白いドレスを着た女性の姿に、私はドキドキする。
ドレスを飾る組み紐がシャランと揺れると、ハーフアップの前髪がふんわり舞う。
初めて本格的なお化粧もしてもらった。
凄い!
ホント、別人みたい。
「お嬢様は元が良いから当然です」
ヨナが腰に手を当て胸を張る。
ヨナの助手みたいなミラリオも、激しく首を縦に振っている。
優しいな、二人とも。
こんな地味子の私に、勇気をくれる。
今日は。
今日だけは、私とて伯爵令嬢。
いや、生まれた時からそうなんだけど。
背筋を伸ばして歩いて行こう。
せっかくお父様がエスコートしてくれるのだから。
コンコン。
「わたしだ。開けていいかな」
父の声だ。
ヨナがドアを開ける。
父はパーティ用の正装だ。
髪はオールバックにしてキラキラしているし、銀色のポケットチーフが光っている。
えええ。
なんだか父が、カッコいい……。
「準備は出来たか?」
私を見つめる父の目が大きくなり、「ほおっ」という小声が漏れた。
「如何でしょう、旦那様」
ヨナがズズッと私を父の目の前に送り出す。
「あ、ああ。成長したな、シュリー」
綺麗になったね、という言葉をちょっぴり期待したのだが。
父からその言葉を引き出すのは、私には無理みたい。
私は俯いて苦笑する。
「お、おかげさまで」
言って自分で気が付いた。
デビュタントは一人前の女性になったことを、皆にお披露目する場だ。
なんとなく、自分一人で大きくなったつもりでいたけど……。
特に、姉や妹と比べてしまうと、両親の愛情が少ない気がしていたけど(実際少ないけど)……。
でも、貴族の子女として、特に不自由なく生活出来ているのだから。
それは家長である、父のおかげなのは間違いないよね。
「本日、よろしくお願いいたします」
「おお。任せなさい」
私たちは馬車で、王宮を目指した。
本日デビュタントの子女たちは、お付きを二名まで許されている。
王宮に着くと、私とヨナ、ミラリオは控室に案内された。
入場する時は、エスコート役の男性と一緒に呼ばれるそうだ。
父は勝手知ったる王宮なので、適当に時間を潰すと言っていた。
「ああ、忘れるところだった」
父が内ポケットから小さな箱を取り出す。
「キャサ……お母さんからだ」
「え?」
「ドレスの用意が出来なかったから、と言っていたよ」
渡された小箱を開けると、小粒な真珠のイヤリングが入っていた。
「あら」
「わあ、可愛いですね」
「うん。びっくりした」
期待していなかった分、結構嬉しい。
姉の時はサファイアだった気がするけど、それはいいや。
母からのプレゼントなんて、いつ以来だろう。
軽く髪を整え直してから、私はイヤリングを付けた。
マークスの御母上から贈ってもらったネックレスと、良く似合っている。
控室には同学年の女子たちがたくさんいた。
「「シュリー様!!」」
ミオンとライラがドレスの裾を持ちながら来た。
ミオンは裾の刺繍が鮮やかなドレスで、ライラは何重ものレースが華やかなドレス。
「わああ!! 二人共素敵!!」
「シュリー様こそ、組み紐が色とりどりに揺れていて、エキゾチックですわ」
「それに」
ライラが微笑む。
「今日のシュリー様は、透明感があって、妖精みたいな雰囲気で、とってもお綺麗です」
ミオンも頷く。
「本当! 学園では清潔感のある美しさだけど、今日はドキドキするような感じ。まるで……」
「豊穣の女神像みたい!」
うっきゃあああああ!!
私は叫んだ。
勿論、心の中で。
女神様。
ありがとうございます。
緩い友だち目線ですが、私にとっては最上級の誉め言葉です。
どうか怒らないでくださいね。
控室のドアが開く。
「お集まりに皆様、入場のお時間です」
緊張感が増す私の手首を、ヨナがそっと掴む。
「これも、付けていってください」
ヨナは私の手首に、薄紫色のリボンを巻く。
「これは何?」
「お守りです」
にっこりと笑うヨナ。
「分かった。ありがとう、ヨナ」
私は友だち二人と、控室を出た。
さて、会場では一体、何が!
お付き合い下さいまして、ありがとうございます!!