広がる関係と混迷
翌日から、私はまた、マークスと学園への行き帰りは一緒になった。
誰かから(おそらくはバーランド伯爵だろうが)、何かを注意されたのか、マークスの態度は少しマシになった。
少しは……。
「そろそろ社交シーズンだな」
「はい」
「俺がエスコートするんだから、綺麗に着飾れよ」
「はあ……」
冬に向かってパーティのお誘いが増える。
今までは、私は行ったことがない。
不文律の決まりで、デビュタントは十六歳だ。
白いドレスが基本だけど、我がローザン家は私用のドレスの準備など、してないような気がする。
また、姉のお下がりかも。
姉のデビュタント用のドレスは、素晴らしく豪華だったもの。
でも姉と私は体型が違うし、白い生地は変色しやすいから、仕立て直ししかないと思う。
あとでヨナに聞いてみよう。
「俺の色の宝石を、身に付けてくれるんだろ?」
「え? あ、はい……」
そもそも私は、宝石類など持っていない。
どうしよう……。
母は、用意してくれるのだろうか。
学園の授業が終わり、いつものようにライラとミオンがやって来た。
「ごめんなさい。あまり時間が取れなくて」
私は二人にマークスとの経緯を話した。
「まあ、それは何というか……」
「こう言ってはなんだけど、面倒なお相手よね」
苦笑しながら私は頷く。
「そうそう、お二人にお聞きしたいの。デビュタントの準備ってしているの?」
「ああ、ドレスは父が注文したらしいですわ」
ライラの父上は、商会を手がけている方なので、伝手があるそうだ。
「彼の瞳の色した、ネックレスを貰ったわ」
ミオンの婚約者さんは、少し年上の方だから、社交にも慣れているみたい。
「そうなのですね……」
私の顔の翳りを見て、ライラが提案する。
「ねえシュリー様。祖父母の代は、ドレスは自宅で作ることが多かったそうですの。だから、気に入ったドレスが見つからない場合、自分で作ってもよろしいのでは?」
そうか。
その手があった。
ドレスが姉のお下がりだったら、自分好みに変えてしまえば良いんだ。
「それいいかも。だって、シュリーは手先が器用だもの」
ミオンの言葉に思わず私は聞き返す。
「き、器用? 私が?」
「うん。だって、組み紐、すっごく綺麗に仕上げているじゃない。私、時間をかけても、なかなか上手くいかないよ」
「そ、そうかな」
「「そうよ!」」
二人の励ましが、純粋に嬉しかった。
誉められるって、いいな。
幸せを感じる。
私は二人に挨拶して、馬車乗り場へ向かう。
マークスを待つ間、ドレスのデザインでも考えてみようかな。
と思っていたら驚いた。
馬車乗り場にはマークスが来ていた。
珍しく、笑顔だ。
しかも白い歯を見せながらの。
マークスの側には、見知らぬ女性がいた。
彼の笑顔は、その女性に向けられていた。
「お、お待たせしました……」
恐る恐る声をかけると、マークスは一瞬だけ目を細め、すぐに私にも笑顔を見せる。
「ああ、シュリー嬢。紹介するよ。俺、僕と同じクラスのリオエルだ」
「リオ。僕の友人のシュリー嬢」
リオエルは、クルクル動く大きな瞳を更に大きくして、私の手を握ってブンブン振る。
貴族の令嬢らしからぬ振る舞いだ。
「わあ、よろしくですぅ。最近、編入して来ました」
「は、初めまして……」
マークスは鼻の下を掻きながら言った。
「これから行き帰りの馬車は、三人一緒だから」
まあ、人目があるとことでは、マークスは暴力振るわないだろうから、いいや。
「ちなみにリオ、リオエル嬢は叔父さんの養女なんだよ。だから僕の従妹に当たるね」
叔父さんと聞いて、私の顔は曇る。
マークスとリオエルは私を見ることもなく、二人で笑いあっていた。
まさか三角関係?
シュリーのドレス、どうなるでしょう。