95.ヒマリ先生の土魔法
今日は、上級教師のヒマリ先生の初級土魔法の講座がある。どんな講義なのか、楽しみだ。
土魔法は、地味なイメージがある。そして、土魔法が使える人は少ない。以前、兵士の属性を調べて事が在ったが、土魔法は、20%しか適合していなかった。
もし、この魔法学院の生徒も同じ比率であれば、最大でも6人程度にしかいないことになる。
「レイカ、おはよう。」
「テラ、スピア、おはよう。」
「うん。レイカ、おはよう。」
レイカは、すべての講座を受講しているので、授業を覗けば、必ず、見つけることができる。そして、教室では、必ず、1番前の中央にいる。私は、目立ちたくないので、必ず、教室の一番後ろのの隅にスピアと座っている。
「テラ、こっちにおいでよ。」
「いいよ。ここで。」
「そうか。では、後でね。」
「はい、後でね。」
ヒマリ先生が入って来られた。小柄な人で、私達と変わらない年齢の様に見える。
この講座も演習が中心のようだ。講義形式は、初級では行わないのかもしれない。私は、魔法の理論を聞いてみたかったので、少し、残念だ。
「それでは、簡単な魔法で、土魔法の確認をしていきます。
まず、掌の上に砂を作りなさい。」
最初は、砂を作るように指示された。これが出来ない生徒はいなかった。
「皆さん、できたようね。それでは、次に、その砂を使って、好きな日用品を作るよう」
私は、ヒマリ先生の言ったように、ガラスのコップを作った。
皆、好きな物を作っている。多いのは、皿だ。といっても、教室にいる生徒は4人だけだ。だから、皿を作ったのは、2人で、なんと、50%にもなった。
「さて、今作ったものは、机の上に置いておきなさい。次に、三角フラスコを2個作ってください。もし、三角フラスコが分からなければ、私の机の上の物を参考にしなさい。」
これも、全員が作ることが出来た。
「さて、次に移る前に、私の机の上においてあるコップを一人1個取って、バケツの黒い砂を入れて、各自の席に戻りなさい。」
皆、指示通り、黒い砂をコップにとって、席に戻った。でも、不安そうな顔をしている生徒もいる。これから、何をするのか、予想しにくいからだ。特に、この黒い砂が何なのか、気になる。
「それでは、コップの黒い砂を2つの三角フラスコに分けてください。コップや三角フラスコには、手を触れてはいけません。それでは、始めなさい。」
ヒマリ先生の指示は、よく分からなかった。ただ、単にコップの黒い砂を2つに分けて入れるだけなのか?それなら、砂を移動するだけだ。先ほどの三角フラスコを作る方が、遥かに難しい。
後の課題が前の課題より、優しい訳がない。すると、単に量を2つに分けるのではだめだ。ヒマリ先生は、分けるといっただけで、量と限定していない。
私は、スキル鑑定で、黒い砂を調べてみた。すると、単一の砂と思っていた砂が違っていた。2種類の砂が混ざっていた。すると、ヒマリ先生の指示は、分類するということになる。2種類の砂をそれぞれ、別々の三角フラスコに集めるということになる。
よく見ると、すべての砂が黒い訳ではなかった。1つは、黒いが、もう一つは、白っぽかった。いや、透けて見えている。だから、全体的に黒く見えていたのだ。
2種類の砂の違いがわかったので、分類することが出来る。
片方の三角フラスコには、黒い砂を、もうひとつの三角フラスコには、透けている砂をいれることにした。
この演習は、土魔法の演習というより、観察眼を確認するためのものになっている。同じ魔法を使っても、対象が異なれば、結果も異なるという当たり前のことを常に意識させるための演習のようだ。
「どうですか?出来ましたか?」
ヒマリ先生の指示通り出来たかどうかは、一目瞭然だった。というのも、片方の三角フラスコには、透き通った砂が入っているからだ。
「ふむ、ふむ、出来ている人もいますね。失敗した人は、やり直しなさい。
出来た人は、土の器を2個作り、それぞれ、三角フラスコの砂を入れなさい。」
私は、指示通りに、それぞれの砂を、新しく作った土の器の中に入れた。
「準備が出来た人は、それぞれの土の器の中の砂を溶かしなさい。」
「あれ?砂を溶かすって、これは土魔法だったかなぁ?」
私は、思わず、呟いてしまった。熱を加えるなら、火魔法のはずだ。でも、ガラスの瓶を作るのは、土魔法だ。
「何が違うの?」
また、呟いてしまった。
溶かすということは、状態を変化させることだ。固体から液体に変化させる。
魔法の対象が、砂だから、土魔法なのか。単に熱を加えるのであれば、対象が何であれ、実施できる火魔法になるのか。
いままで、何も意識していなかったが、明らかに異なる。同じ結果を得ることが出来るにも拘わらず、その方法は色々あるということか。
私は、土魔法で、土の器の砂を変化させていった。すると、確かに液状になった。
どちらの砂も同じ魔力量で、液体になった。もし、これを火魔法で行ったら、おそらく、魔力量は大きく異なっていただろう。つまり、溶けだす温度が違うはずだから。
私は、この演習で、魔法について、もい一度考え直す必要があるように感じた。何でもできていたため、繊細さを欠いていた思いだ。