58.ソーロン帝国の反乱軍
イーデン王国のロンデンの街で聞いた話では、もうすぐ、反乱が起きそうだと言うことだ。
どうも、高級官僚による不正が問題の様だ。本来、軍人に支払われるべき金貨が、横流れしているようだ。
元帥や大将は、お飾りで、実質は、中将や少将が軍を取り仕切っているようだ。中将は18人で、少将は、中将が指名した者だけがなるようだ。そのため、少将は、中将の言いなりだ。いつでも、中将の一言で、降格されるようだ。
ベルーナ大佐は、「戦争の準備をしている」と言っていた。この言葉は、反乱が起きる事とは別の様に思われる。それも、そのように仕向けられているとも言っていた。
当初、私は、このことを、外圧だと思っていた。しかし、ソーロン帝国に接しているヘノイ王国でも、フラン連合国でも、戦争の話は出てこない。
ヘノイ王国では、ソーロン帝国から、一方的に貿易を縮小されている。
フラン連合国では、ソーロン帝国の軍人によって、街が成り立っている。
これは、どう考えても、外圧による戦争ではなさそうだ。それなら、どういうことだろう。
私は、もう一度、ベルーナ大佐に面会しようと、思った。会っても無駄かもしれないけど。
私達は、転移魔法でリーベンの街にある基地に移動した。
「すみません。ベルーナ大佐にお会いしたいのですが」
「アポは、取っていますか?」
「いいえ、近くにまで、来たのでご挨拶をしたいと思い寄ったのです」
「分かりました。ベルーナ大佐に確認してみます」
係の軍人は、ベルーナ大佐に連絡を取っていた。
「はい、わかりました。
ベルーナ大佐は、お会いするそうです。
確認のために、身分証を見せてください」
私は、商業IDを見せて、通して貰った。いつも通りの部屋にベルーナ大佐は居られるようだ。
「ベルーナ大佐、近くまで来たので、ご挨拶までと思い、寄らせて頂きました」
「久しぶりだな。テラ、元気にしてたか?」
「はい、元気にしていました。ベルーナ大佐もお元気そうで、何よりです」
「そうでもないがな。最近は、少し、疲れ気味だ」
「先日まで、ロンデンの街に居ました。生憎、軍人の休みの日でなかったので、街は、閑散としていました」
「そうか、ロンデンか。前は、私もよく行ったものだ」
「そうですか。少し、地味な街ですね」
「そうか、テラには、そう映るか」
「もう少し、遊び心があってもいいのかと思いました」
「そうだね。置いている商品が固いものばかりだな」
「今日は、ベルーナ大佐になにか、お役に立てればと思い、寄りましたが。どうでしょう?」
「そうだね。依頼したいことも、無い事もないが、商人の仕事ではないからな」
「ベルーナ大佐には、お話していないことがあるのですが、この街に最初に来るときに、乗合馬車を利用したのです」
「そうか。乗合馬車か。よく、それで、無事に来られたな」
「あれ、ベルーナ大佐は、御存じだったんですか」
「噂で、聞いたことがある。乗合馬車には、乗るなと」
「先に、聞いて居れば、乗らなかったのですが、もう、過ぎたことですね」
「それで、何があった?」
「盗賊に襲われました」
「何だ、盗賊か」
「はい、でも、中に盗賊にしては、レベルが高い過ぎる者が居ました。用心棒の様でしたが、強かったです」
「テラは、戦ったのか?」
「いいえ、用心棒は、盗賊が我々を縛り上げた後、居なくなりました」
「そうか、盗賊の用心棒か」
「ただ、気になったことがあります。冒険者風の若者が3人と軍人が2人乗り合わせていたのですが、いずれも、少し、振る舞いがおかしかったです」
「軍人が2人、乗合馬車に居たというのか」
「はい、軍服を着ていたので、私は、軍人だと思ったのですが、違いますか?」
「わからない。ただ、軍人が乗合馬車に乗ることはない。これだけは、断言できる」
「それでは、軍人に成りすましていたということですね」
「おそらく、そうだろう」
「これは、テラに話していいものか、悩むところだが、満更、無関係でもなさそうなので、話すことにする。他言は無用だぞ」
「はい、わかっております」
「実は、最近、脱走兵が5人出た。しかも、中将1人と少将が4人だ」
「そんな、高級軍人が脱走ですか?」
「そうだろう。おかしいだろう。軍の幹部が、脱走するはずがない。これには、何か裏がある」
「だが、私には、調べようがない。実にもどかしい」
「それでは、私が、調べてみます。5人の脱走兵と接触すればいいのですね。
もし、接触できたら、どうします?」
「今は、よい考えがない。情報が少なすぎるから」
「分かりました。取り敢えず、情報を集めてきます。
ベルーナ大佐、もう一つだけ、お聞きしてもいいですか?」
「何だ」
「反乱が起きそうだと、知っているようでしたが、脱走兵とは関係なく、反乱軍が集まっているのではないですか?」
「それは、どういう意味だ」
「つまり、反乱軍は、脱走兵ではなく、民間の農民が起こそうとしているということです」
「なぜ、そう思うのだ」
「つまり、圧制により、あるいは、軍の幹部の腐敗により、反乱が起きそうだということです。
そして、それを隠すための戦争の準備ではないかと、思っています」
「なるほど、面白いことを言う」
「あれ、それだけですか?」
「今は、それだけだ。まず、脱走兵と接触してくれ。お願いする」
「分かりました。早速、行ってきます」
「くれぐれも、無理はするな。身の危険を感じたら、すぐに、逃げるのだぞ」
「はい、お気遣い、ありがとうございます。私達は、大丈夫です」
私達は、ベルーナ大佐と別れて、ヘノイ王国との国境に向かった。