57.フラン連合国
私とスピアは、ソーロン帝国の北にあるフラン連合国に向かった。最初の街はロンデンだ。
国境で、商業IDの提示を求められたが、特に、問題なく、入国することが出来た。逆に、入国の審査が少し雑な感じがした。この程度のチェックなら、何でも持ち込めそうだった。
連合国のせいか、街の中は、色々なものが雑多に存在した。つまり、異文化の混合という感じだ。融合しているようには、思えなかった。
まずは、商業ギルドでの登録だ。私達は、商業ギルドの中に入っていった。受付がやたら多く、ほとんどの窓口は、閑散としていた。
よく見ると、受付の所に、連合国の名前が順に書いてあった。どうも、連合国毎に受付があるようだ。
横を通り過ぎようとしている店員に聞いた。
「すみません。他国から来たのですが、どの受付に並べばいいですか?」
「どこの国から、来られたのですか?」
「ヘノイ王国から、来ました。」
「そうですか。それでは、こちらに並んでください。」
「すみません。ヘノイ王国から、来たのですが、登録をお願いします。」
「それでは、身分を証明するものを見せてください。」
私は、商業IDを渡した。
「はい、結構です。」
暫く、待っていると、逆に言われて。
「もう、終わりましたよ。」
「えっ、手数料は、要らないのですか?」
「はい、この国では要りません。連合国が出来たときに、手数料を取らないと決められてのです。」
「分かりました。少し、聞いてもいいですか?」
「他の客がいないので、構いません。どうぞ、何でしょうか?」
「ここには、多くの窓口があるのですが、何故ですか?」
「それは、連合国のそれぞれの国の窓口があるからです。」
「えっ、どういうことですか?」
「あら、今言いましたけど、聞き洩らしましたか?」
「いえ、そうではないのですが?」
「何が、分からないのですか?」
「連合国という、国があるのではないのですか?」
「当然、連合国ですよ。代表としての国の名前はありますよ。それが、フラン連合国です。」
「そうですよね。それなのに、何故、それぞれの国の窓口が必要なのですか?」
「可笑しなことを訊きますね。」
「そうですか?可笑しいですか。」
「もう、いいですか?」
「もう一つだけ、教えてください。私は、他の窓口に並ぶ必要がありますか?」
「当然、ありますよ。どの国で、商売をするかで、並ぶ窓口が変わりますよ。」
「そうなんですか?」
「そうですよ。当然です。それぞれの国ですから。」
「どうも、ありがとうございました。」
私達は、他の窓口すべてに並び、手続きを行った。最初の窓口だけだった、手数料がいらなかったのは、他の窓口では、今まで通りの手数料を取られていった。1つの窓口で、金貨40枚を渡して、行ったので、最終的には、金貨280枚にもなった。つまり、7つの国が一つにまとまって、連合国になっていた。でも、実質的には、依然として、7つの国だった。
今、私達が居る場所は、イーデン王国だった。だから、私達は、フラン連合国のイーデン王国の都市ロンデンに居るということになる。
何だか、変な連合国だ。でも、仕方がない。フラン連合国は、すでにできあがっているのだから。
私達は、街を見て回ることにした。この街は、ソーロン帝国との国境近くにあるので、貿易は、ソーロン帝国の軍事都市リーベンとが、主な物になっていた。
見て回りながら、どうも、軍人相手の商品が多いことに気が付いた。でも、今の街には、軍人があまり見えない。店を見ているだけでは、よく分からないので、適当に店に入ることにした。
「すみません。中で、商品を見てもいいですか?」
「見てもいいが、あんたらは、軍じゃないな。」
「えぇ、私達は、商人です。ヘノイ王国のブューラナから、来ました。」
「へぇ、こんな街に何の用だ。」
「先日まで、ソーロン帝国のリーベンの街に居たので、こちらまで、足を延ばしたのです。」
「そうか。あの街からだと、すぐだからな。でも、この街は、見て分かるように、軍人相手の店ばかりだよ。」
「えぇ、気が付きましたが、でも、軍人もいませんね。」
「当たり前だろう。軍人は、仕事がある。休みにならないと来ないよ。だから、今は、開店休業みたいなものだな。」
「そうでしたか。納得しました。」
「軍人相手にどのような商品を売っているのですか?」
「わしの店も軍人相手じゃ。この棚の物などがよく売れるているな。」
「これは、携帯用の保存食ですね。どうして、これが良く売れているのですか?」
「そりゃ、食べたいからだろ。当たり前な事を聞くな。」
「軍人なら、軍から食事は無料で提供されているのではないのですか?」
「少しは、配給があるが、基本、自分の事は自分でって、ことだな。」
「そうですか。軍人も大変ですね。」
「そうだよ。だから、脱走兵も結構いるらしいよ。これは、内緒だよ。」
「へぇ、脱走ですか。軍人なら、給料もあるのでは?」
「それも、微々たるものだよ。だから、脱走するのだけどな。でも、脱走しても、仕事はないよ。まして、軍から逃げながらでは、まともな仕事はできないな。」
「どうして、そんなに、軍人が困窮しているのですかね。」
「そりゃ、決まっているだろう。誰かが、搾取しているのだろう。」
「そんなことしていたら、反乱が起きませんか?」
「おまえ、そんなこと、店の中で言うんじゃない。誰かに聞かれたら、どうするんだ。」
「すみません。つい、うっかり。」
「ちょっと、気をつけてくれよ。」
「はい、すみませんでした。」
私達は、店を出て、別の店でも同じような話を聞いた。もうすぐ、反乱がおこるのではないかと、誰もが思っているようだった。