3.冒険者ギルド
洞窟の奥に上への階段があることを確認して、一度賢者サビオの居る地下牢へ戻った。思念伝達で状況を報告した私は、簡単に地下牢前まで戻れるように、転移の魔法陣の描き方を賢者サビオに教えてもらった。
これで、僅かなMP消費で、ここまで戻ってくることができる。
土魔法もLV10となったので、アイテムボックスを硬化した石製に替えることにした。これにより、アイテムが100個収納できるようになった。
草原で薬草を採取して、MP回復用の青のポーションを80本作り、HP回復用の赤のポーションを10本作った。HP回復用のポーションは、前回の残りと合わせて20本になった。
賢者サビオに別れを告げて、洞窟の奥の階段を上ることにした。
上った先も洞窟だったが、通路は50m程度で、その先には草原が広がっていた。そして、初めて空を見ることが出来た。
本当の意味での外界に出ることが出来た。
今の土人形のままでは、魔物扱いされてしまう。そこで、一旦戻って、ゴブリンが身に着けていた装備を集めて、私の身体にあった全身を覆う鎧を作った。また、円形の小さな盾と小さな剣も作った。盾は左手に持ち、ダガーは腰に付けた。
これで、一見冒険者風になったはず?
草原を暫く歩くと、小さな村に行きついた。
子供が4人で走り回っていた。
私は、右手を挙げて挨拶をした。
「だれ?」
一人の女の子が声を出した。
「誰だ!」
少し大きな男の子が声を出した。
子供たちの声は、頭の中で響いている。発生された声は思念伝達と同じ様に働くようだ。
でも、私が思念伝達を使うのは、少しまずいかな?
そこで、私は小さな頭だけの土人形を精巧に作ることにした。その頭だけの土人形には、耳・口・目を付けた。
もちろん、口の中には舌を、喉には声帯を付けた。
そして、腹話術を使って話すように、頭だけの土人形を使って、子供たちに話しかけた。
「こんにちは。私は旅の冒険者です。でも、駆け出しなので、今どこにいるのかもよく分からないので、教えてくれませんか?」
「冒険者?でも、小さいね」
「ドワーフなの?」
「どこから来たの?」
矢継ぎ早に聞かれた。
「身体は小さいけど、ドワーフじゃないよ。
転移魔法で、この先の洞窟に強制的に移動されたんだ。
そのせいで、今の場所もわからないんだ」
「えぇっ。そんなに小さいのに!それなら、子供なの?」
「そう。大変だね」
「ここは、ノースホットランドのビュワーセ村だよ」
「冒険者なら、冒険者ギルドへ先に行きなよ」
子供たちが口々に答えてくれた。
私は、できるだけの情報を集めるために、冒険者ギルドに行くことにした。一番大きな男の子が案内してくれるようだ。村の中央付近に、その冒険者ギルドはあった。
ビュワーセ村は、名前こそ村だがかなり大きな集落で、宿屋や飲み屋なども一そろいあるようだ。
「ここだよ。付いて来て」
「お姉さん。この人、冒険者なんだ。話を聞いてあげて」
「えぇっ。坊や一人じゃないの?」
「僕の右にいるよ。小さいから見えないのかな?」
私は、身長50cmで、受付台からは見えないようだ。受付の女の人が台から覗き込んできた。
私は、上を見上げながら、受付の女の人と顔を会わせた。といっても、全身兜で覆っているので、ゴーレムの私の顔は見せていないのだが。
「こんにちは。私は、冒険者です」
「この人、他の土地から飛ばされて来て、この辺りの様子が分からないって。
教えてあげて」
「すみません。よろしくお願いします」
「えぇっ。あなた、子供じゃないの?」
「違いますよ。これでも、ちゃんとした、大人です」
「それでは、先に少し質問させてくださいね。
冒険者IDを見せてください」
「すみません。まだ、冒険者登録をしていないのです」
「それでは、まず、冒険者登録をしますが、いいですか?料金は、金貨20枚です。先に収めてください」
「お金がいるのですか?
私、お金を持っていません。何か仕事を貰えませんか?」
「掲示板の仕事は、冒険者登録をしていないと依頼できないので、常時発注しているものになります。
よろしいですか?」
「はい、それで結構です。よろしくお願いします」
受付の女の人から、誰でもできる仕事を教えてもらった。今の私にできるのは、一人で、あまり他の人と接することのない、薬草集めのようだ。ポーションを作る時に集めた薬草と同じなので、すぐに取り掛かることにした。
私は、案内してくれた男の子にお礼を言ってから、冒険者ギルドの裏に回った。辺りに人が居ないのを確かめながら、転移魔法で戻ってくる為の魔法陣を地面に描いた。それから、もう一度周りに人が居ないのを確認してから、地下牢の前に転移した。
賢者サビオに、これまでのことを報告してから、一つ上の草原で、必要な薬草を集めた。ついでに、アイテムボックスをもう一つ作り、その中に薬草を詰め込んだ。薬草は、10本で一束にして入れておいた。これで、一束で1アイテムになる。100束集めて、冒険者ギルドの裏手に転移魔法で移動した。
「ドン。ドン。ドン」
私は、冒険者ギルドの受け付け台を軽く叩いて、受付の女の人に覗いてもらった。
「すみません。薬草を集めてきました」
「早かったね。向こうに踏み台があるから、それを使って貰える?
そのままでは、作業がし難いので」
私は、言われた通りに踏み台を持ってきて、その上に乗った。
「これで、いいですか?」
「はい。それでは、薬草を出してください」
私は、集めてきた薬草をとりあえず、10束出した。
「はい。これです」
「一束、銀貨5枚になります。10束なので、銀貨50枚です」
銀貨100枚で、金貨1枚なので、冒険者登録には全く足りない。
「まだあります」
仕方ないので、残りの90束も買ってもらうことにした。これでやっと、金貨5枚だ。このまま繰り返してもいいのだが、時間がかかるので、手持ちの他の物を売ることにした。
「すみません。ポーションもあるのですが、買って貰えませんか?」
「一定のレベル以上であれば、買い取ることができます。
とりあえず、見せてもらえますか?」
「これです」
私は、青のポーションを1本出した。
「少し、お待ちください。鑑定します」
受付の女の人は、何やら鑑定用のボードを台の下から出してきた。
私が出したポーションを上に載せると、ボードについている10個のランプのうち3個が点灯した。
「初級ポーションとして買い上げることができます。1本銀貨25枚になります」
「わかりました。よろしくお願いします」
私は、アイテムボックスからMP回復用の青のポーションを59本出し、合計60本を買ってもらった。
これで、金貨20枚になった。
これで、冒険者登録をしてもらえる事になった。私は、金貨20枚を出して、登録用紙に名前と職業を書いた。とりあえず、職業は弓戦士とした。
これで、最低ランクの冒険者としてスタートできる。今は、Gランクだが、少しずつ上げていって、有益な情報を得ようと思った。
冒険者ランクを上げるには、冒険者としてのポイントを稼ぐ必要がある。現在のランクの魔物の討伐や依頼であれば、1ランク上げるのに100回達成する必要がある。もし、現在のランクの一つ上のランクの魔物の討伐や依頼であれば、1ランク上げるのに10回達成するだけで済む。
そこで、私は一つ上のランクの魔物討伐をすることにした。
受付の女の人によると、村はずれの東の丘に初級のダンジョンがあるので、そこで魔物を狩ると良いと勧められた。
東の丘に初級のダンジョンへは、小走りに移動しておよそ3時間で到着した。入り口には、
「魔物出現に注意!」
と、張り紙があるが、誰も監視していないようだ。
冒険者ギルドの受付の女の人の話だと、このダンジョンは5階層になっており、Fランクの魔物であるゴブリンが多数いるらしい。
とりあえず、10匹倒せばいいので、群れから離れているゴブリンを探すことにした。
スキルの探索を使うと1つ下の階層に5匹のゴブリンが居ることが分かった。私は、1つ下の階層に行く途中に出会ったスライムを倒しながら、1つ下の階層に到着した。
100mほど先に、目的のゴブリン達がいた。気配を消しながら、静かに近づき、弓矢を連射した。忽ち3匹のゴブリンが倒れた。残りの2匹のゴブリンは、土魔法の石礫で倒すことが出来た。
ゴブリンとの戦いも慣れてきたので、簡単に倒すことが出来そうだ。
冒険者ギルドに提出するため、ゴブリン5匹分の魔石と右耳をアイテムボックスに収納していった。
もう一度スキルの探索を使い、他のゴブリンを探した。更に1つ下の階層に12匹のゴブリン達がいることがわかった。少し数は多いが、光魔法のバリアを使えば、大丈夫なので、すぐに、1つ下の階層に向かった。
一番近くのゴブリンから10m離れた位置からバリアを張り始めた。
まず、手前の2匹を弓矢で倒し、そのまま小走りで、石礫で3匹のゴブリンを倒した。残りのゴブリン達は、私に気づくと、一斉に襲いかかってきた。
古いさびた剣を振り回して、私に攻撃を開始したが、私のバリアに阻まれて、ゴブリン達は弾け飛ばされていった。地面に倒れているゴブリンに弓矢を放ち、3匹のゴブリンを倒した。
後ろから襲いかかってきたゴブリン達の足元に水魔法で泥濘を作り、動きを止めた。続いて、石礫で攻撃をし、更に4匹のゴブリンを倒した。
これで、ゴブリン達を一掃することが出来たが、他のゴブリンに気づかれないように、用心しながら、魔石と右耳をアイテムボックスに収納していった。
当初の目的を果たすことが出来たので、ダンジョンを出た。
ダンジョンの入り口付近の人目に付かない場所に、今後のための転移用魔法陣を描いておいた。
当初の目的を果たすことが出来たので、ダンジョンを出て、転移魔法で冒険者ギルドの裏手に移動した。
「すみません。魔物を討伐したので、確認してもらえますか?」
冒険者ギルドの受付の女の人に、踏み台に乗ってから話しかけた。
「わかりました。少しお待ちください」
受付の女の人は、大きなトレーを持って来た。
「はい、お待たせしました。
この中に確認用のアイテムを入れてください」
私は言われるまま、12匹分の魔石と右耳をトレーに入れた。
「ゴブリン12匹ですね」
トレーには、魔物の種類と数が表示されているようだが、私の方からは、見えない。
「冒険者IDを預かります」
Gランクの冒険者IDを受付の女の人に渡すと、そのIDをトレーに触れた。
IDが少し点滅するとIDのGランクの表示がFランクに変化した。
「報酬はどうしますか?」
と受付の女の人は、私に聞いた。
「?」
何を言っているのか、さっぱり分からない。
「報酬はIDに記録しますか?それとも直接受け取りますか?」
と受付の女の人は、再度私に聞いた。
「IDに記録してください」
「わかりました。ゴブリン1匹が銀貨50枚なので、合計金貨6枚になります」
受付の女の人はトレーに何か操作してから、再度私のIDをトレーに触れた。
また、IDが点滅すると記録が終わったようだった。
受付の女の人から渡されたIDを確認すると、ランクがFになっており、金貨6枚も記録されていた。
受付の女の人にEランクの魔物を教えて貰った。どうも、ワーウルフ、ポイズンスライム、ワーキャットが対象のようだ。
これは、今日潜ったダンジョンの最下層の5階層にいるらしい。
ワーウルフは、鋭い牙で攻撃してくる。今のバリアでは確実の防御できるか、分からない。
ポイズンスライムは、毒液を吹き付けてくるので、毒耐性を付けておくか、毒消しを用意する必要がある。
ワーキャットは、ワーウルフより、攻撃力が大きいが、「天然マタタビ」に靡くという弱点がある。
うまくいくと私の従魔になってもらえるかもしれない。
そこで、毒消しの作成と天然マタタビの収集をすることにした。
「天然マタタビ」の生育場所と、従魔契約について教えて貰うために賢者サビオのいる地下牢へ転移した。
賢者サビオの話では、「天然マタタビ」はそんなに高価なものではないので、商業ギルドで購入するのが良いようだ。
従魔契約は、従魔になる側が許可を出せば契約可能らしい。でも、圧倒的なレベルの差がないと従わないらしい。少なくとも、レベル20以上、上回る必要がある。
ワーキャットのレベルはおよそ30なので、私のレベルが50以上でないと難しいようだ。一度ステータスを確認してみた。まだまだ、難しいようだ。
【ステータス】
種族:土人形
職業:無職
LV:30
HP(最大体力量):1000
MP(最大魔力量):3000
魔法:土魔法(LV12)、火魔法(LV8)、水魔法(LV10)、風魔法(LV8)、
光魔法(LV10)、陰魔法(LV10)
スキル:採取(LV12)、鑑定(LV12)、思念伝達(LV10)、探索(LV10)、格闘(LV10)、
弓(LV20)
称号:小鬼英雄殺し
とりあえず、毒消しを作ることにした。地下牢の1つ上の階層で、薬草が手に入るようなので、早速収集に向かった。薬草はすぐに見つかった。それで、10本の毒消しを作った。
転移魔法で東の丘に初級のダンジョンに移動した。今回は最下層に移動することが目的なので、できるだけゴブリンに遭遇しないように、スキル探索を常時使いながら移動した。4~6匹程度の小グループは、倒しながら、最下層までなんとか、たどり着いた。
ポイズンスライムが今回の目標なので、ワーウルフとワーキャットに遭遇しないルートを取りながら、ポイズンスライムの生息する沼地までやって来た。
少し群れから離れているポイズンスライムが1匹いたので、土魔法で、土壁で囲いを作り、そのポイズンスライムを生け捕りにした。土魔法で、囲いの底も作り、ポイズンスライムを閉じ込めた土の箱を作った。
それをアイテムボックスに収納して、転移魔法で地下牢の前に移動した。
アイテムボックスからポイズンスライムを閉じ込めた土の箱を取り出し、上の面に手が入るような穴を作った。毒消しを横に10本並べてから、左手を穴の中に入れた。
ポイズンスライムに触れるとすぐに火傷をしたような痛みを覚えて、慌てて左手を取り出し、毒消しをかけた。
「スキル 毒耐性LV1を習得しました」
完全に毒が消えたことを確認して、再度、左手を箱の中に入れた。火傷をしたような痛みを覚えては、毒消しをかける、ということを繰り返し、とうとう、毒消しがなくなった。
一つ上の階層の草原に行き、毒消しを作るための薬草を大量に収集した。
薬草から、毒消しを50本作った。先ほどの穴の中に左手を入れる作業を50本の毒消しがなくなるまで繰り返した。
「スキル 毒耐性LV10を習得しました」
ようやく、ポイズンスライムの毒に対する耐性を得ることが出来た。これで、ポイズンスライムは、普通のスライムの様に簡単に倒せる。
【ステータス】
種族:土人形
職業:無職
LV:30
HP(最大体力量):1000
MP(最大魔力量):3000
魔法:土魔法(LV12)、火魔法(LV8)、水魔法(LV10)、風魔法(LV8)、
光魔法(LV10)、陰魔法(LV10)
スキル:採取(LV12)、鑑定(LV12)、思念伝達(LV10)、探索(LV10)、格闘(LV10)、
弓(LV20)
:毒耐性(LV10)
称号:小鬼英雄殺し
再度、転移魔法で東の丘にある初級のダンジョンに移動し、最下層のポイズンスライムの生息する沼地に移動した。今回は忘れずに、転移用の魔法陣を描いておいた。最下層まで特に強い魔物はいないので、問題はないのだけど、いちいち魔物を倒しながら移動するのは面倒なので、転移魔法で一気に移動したい。
ポイズンスライムを9匹倒し、魔石を収集した。最初の1匹を合わせて10匹分になった。
今回は、地下牢へは寄らずに、直接冒険者ギルドの裏手に転移魔法で移動した。
「すみません。魔物を討伐したので、確認してもらえますか?
報酬もIDに記録してください」
「わかりました。
この中に確認用のアイテムを入れてください」
「ポイズンスライム10匹ですね。
冒険者IDを預かります。
ポイズンスライム1匹が金貨1枚なので、合計金貨10枚になります」
受付の女の人から渡されたIDを確認すると、ランクがEになっており、金貨16枚も記録されていた。
今のままでは、なかなかレベルアップしないので、受付の女の人から、中級ダンジョンの場所を教えて貰うことにした。中級ダンジョンは、西の方向に3日行った所にある商業都市ブューラナの近くにあるらしい。
早速、私は商業都市ブューラナに向けて旅立つことにした。