29.サルビアの遺書
「サルビア、サルビア」
「誰、一人にしておいてよ。」
「私だよ。テラだよ。」
「えっ、テラなの。ゴメン。」
「いいのよ。どうしたの。悲しそうだよ。また、身体の調子が悪いの?」
「テラ、違うの。身体はもうすっかり元気よ。」
「それなら、何を嘆いているの。」
「急に、縁談の話があって、借金しているから、断れないって言うの。」
「そうか、サルビアは、好きな人でもいるの?」
「私、ずっと、ベッドに寝ていたから、好きな人も出来なかったの。
折角、身体が元気になったのに、何だか、病気の方がよかったみたい。」
「そうか、縁談が嫌なんだね。」
「そう、嫌よ。」
「嫌なら、止めればいいよ。借金は、親の責任だよ。」
「でも、親に迷惑を掛けたくないの。」
「そうか。難しいね。」
「いっそのこと、死にたいわ。」
「そう、死にたいか。それじゃ、死ぬか。いや、死ねば、いいよ。手伝うよ。」
「テラ、急に何を言い出すのよ。」
「サルビアは、元気になったことを誰かに言った?」
「いいえ、まだ、誰にも言っていないよ。」
「それならいいよ。死んだことにしよう。」
「そんなこと、できるの?」
「簡単だよ。まずは、このコップに毒を入れてと。」
私は、サルビアを見ながら、土人形を創った。表面を闇魔法でコーティングして、人間の肌のような感触になるように加工した。
次に、解剖されてもいいように、土人形の内部を加工していった。
大腸、小腸、直腸、肝臓、…。覚えている臓器を創っていった。そして、臓器の表面を闇魔法で加工して、色付けをした。そして、土人形だけど、切れるようにした。さらに、切ると血のような液体が出る様に加工しておいた。
「やっとできた。どう、サルビア。」
「どうって、私、そっくり。」
「凄いね、って、言ってよ。」
「うん。凄いね。」
と、スピアが言った。
「あっ、喋ってしまった。」
仕方がないので、私は、スピアの隠密魔法を解除した。
「わぁ、獣人だ。」
「スピアって、言うの。私の従魔だよ。」
「うん。スピア。よろしく。」
「話もできるのね。それに、強そう。」
「スピアは、強いよ。それに、素早いよ。」
「サルビア、怖い?」
「ううん。テラの従魔だから、怖くないよ。」
「それじゃ、遺書を書こうか。」
「はい、ちょっと、待ってね。」
「これで、いいよ。それじゃ、服を着替えようか。」
サルビアに来ている服を脱いで貰い、それを土人形に着せた。それから、アイテムボックスに入れていた私の服をサルビアに渡した。少し小さいが、着れないことはなかった。
「準備が出来たら、行くよ。サルビアは、何か、持っていくものはない?」
「持っていったら、バレてしまうわ。」
「サルビアは、偉い、賢い。それじゃ、行こうか。」
「はい。」
「サルビアも、スピアに抱き付いて、私みたいに。」
「はい、これでいい?」
「いいよ。行くよ。」
「うん。行こう。」
私は、転移魔法で店に移動した。
「はい、着いたよ。上に行こうか。」
私達は、2階に上がった。
「サルビアは、この部屋を自由に使っていいよ。
私達は、寝るだけだから。」
「ありがとう。テラ。」
「気にしないでいいよ。」
「サルビアは、ここで待っていてね。スピア、サルビアの警護をしてくれる。」
「うん。サルビア、守る。」
「それじゃ、行って来るね。」
私は、また、隠密魔法を起動してから、転移魔法で貴族エリアのサルビアの屋敷に移動した。
2階にあがり、サルビアの部屋で、暫く待機した。
「サルビア、どうしたの?」
食事を持って来た、サルビアの母親が大声を出した。
「誰か来て!サルビアが大変なの。」
「どうした。」
サルビアの父親が、部屋に入って来た。少し、遅れてお爺さんが、部屋に入って来た。
「サルビアが、自殺したの。ここに遺書があるわ。」
「本当に死んでいるのか?」
「本当よ、冷たくなって、脈も呼吸もないの。」
「取り敢えず、医者を呼ぼう。」
サルビアの父親は、屋敷を飛び出して、医者を連れて、帰って来た。
例の藪医者だ。
「すみません。見てください。」
「うん。脈も呼吸もないようだね。でも、病気で、急になくなるなら、兆候があるはずだが。」
「これが、遺書です。」
「拝見します。ん、毒を飲んだとありますね。」
「はい、そう、書いています。」
「誰が、毒をあげたのですか?」
「誰も、毒なんて、持っていませんよ。」
「このコップは。ん、中に毒が入っている。しかも、これは特級の毒だ。
こんな毒なら、1滴で死んでしまう。
このコップは触らないでください。非常に危険なものです。」
「やはり、自殺ですか。」
「そのようですね。病気を苦にしたのかもしれませんね。」
「報告は、どのようにしたら。」
「それは、主治医の私がやっておきます。金貨5枚になります。ここで、頂きます。」
「それでは、これで、お願いします。」
サルビアの父親は、なけなしの金貨を出した。
家族は、サルビアの葬式の準備を始めた。忙しさが、寂しさを紛らわす。
3人は、休みなく働いた。
無事、偽装自殺は完了した。私は、転移魔法で店に移動した。
「サルビア、無事終わったよ。」
「ありがとう。テラ。これからも、よろしくお願いいたします。お世話になります。」
「サルビアは、いつも通りでいいよ。遠慮したら、怒るよ。」
「うん。怒るよ。」
「今日は、少し早いけど、寝ましょうか。スピア、おいで。そうだ、サルビアは、何処で寝る?」
「一緒に寝たい。」
「良いよ。一緒に寝よ。」
いつも通り、私は、スピアの腰に抱き付き、寝た。サルビアも、私の反対側からスピアを抱いて寝た。