２２７．新たな伝染病
ガーベラに他国からの相談が入った。それは、ミヤーコ王国で、フラン連合国の中の北端の国で、広大な土地を持つ。その国の最大の都市シジンで、黒死病が発生した。病気は、瞬く間に、都市シジンを暗黒に陥れた。
ミヤーコ王国では、まだ、下水道工事を行っていなかった。そのため、都市の衛生状態は最悪な物になっていた。多くの民が、リンパが腫れあがり、激しい痛みを訴えたり、突然に高熱になったり、頭痛や悪寒などを訴えている。
そして、すでに、多くの者が死んでいた。ガーベラは、すぐに、ムーンに思念伝達で、連絡を取った。
「ムーン、ミヤーコ王国で、黒死病が発生して、既に都市シジンで死亡者が溢れかえっているの」
「ミヤーコ王国って、あまり、いい印象がないんだけどね」
「そんなこと言わずに、助けてあげて！」
「分かった。取り敢えず、神殿の人たちに、感染した人を隔離しておくように伝えてくれる？」
「いいわ。直ぐに、連絡を入れるね」
ガーベラは、ムーンに依頼できたので、安心して、ミヤーコ王国に連絡を入れた。
私は、ガーベラとの思念伝達を切って、ショーバェに思念伝達で、連絡を入れた。
「ショーバェ、ムーンだけど、ミヤーコ王国で、ペストが発生した。至急、ストレプトマイシンが大量に必要だ。ミヤーコ王国のテラ・ワールドの支店に送ってくれ。それから、ストレプトマイシン用の神具も一緒に送ってくれ」
「ペストですか。つい先日、イーキ王国の対処が終わったばかりなのに！」
「そうだ。ペストだ。この様子では、既にアータキ国も感染していると思われる」
「分かりました。至急、送ります。それから、大量生産を始めておきます」
「ありがとう。よろしく頼む」
ショーバェとの思念伝達を切って、次に、リンダと思念伝達で、連絡を取った。
「リンダ、ムーンだけど、ミヤーコ王国で、黒死病が発生したようなんだ。そこで、隣接している国のテラ・ワールドの支店に流通を一旦停止するように指示をしてくれ」
「分かりました。直ぐに、連絡を入れます。他に、何か、必要ですか？」
「治療できるものを派遣したい。できるでけ、多く集めてくれるかな？」
「はい、わかった。何かあったら、遠慮せずに言ってね」
「わかった。遠慮なしに、また、頼むよ」
私は、リンダとの思念伝達を切って、すぐさま、サルビアに思念伝達で、連絡を入れた。
「サルビア、ムーンだけど、ミヤーコ王国で、ペストが発生した。既に、多くの者が死んでいるようだ。神殿に感染者の隔離を依頼したが、多分、旨く機能しないと思う。応援に行って貰えないか？」
「分かったわ。光魔法治療学院の教師と生徒で、チームを作って、至急行くわ」
「必要なら、テラ・ワールドの支店へ転移魔法で、移動してもいいよ」
「本当！ 助かるわ」
「ただ、口止めだけは、しておいてね」
「わかったわ。信用できる者だけ、それを使わせて貰うわ。その他の者は、通常の移動で、後発隊として派遣するわ」
「ありがとう、よろしく頼む」
私は、気が付いた先には、連絡を入れることが出来て、ほっとして、思念伝達を切った。
私は、先日サルビアから報告を受けていた内容を思い出していた。
それによると、即戦力の人材を育てるために、前期だけでも、仮卒業できるように光魔法治療学院の教育内容を作成した。
本来は、１年掛かる所だが、１年を前期と後期に分けて、前期に基本的な科目を集中させることによって、仮操業させれるものだ。
できれば、後期も残って、学習を進めて欲しいが、どのような世界になっているか、不明なので、このように考えたようだ。
前期では、次のような科目を勉強してもらう。
１．「解剖生理学Ⅰ」として、人体の構造と機能の理解
２．「病理学」として、疾病の成り立ちと回復の促進方法
３．「感染症学」として、感染症の原因となる微生物と予防対策の理解
後期では、次のような科目を勉強してもらう。
１．「解剖生理学Ⅱ」として、解剖生理学Ⅰより深い知識と理解
２．「薬理学」として、薬草の特徴・作用の理解
３．「公衆衛生学」として、組織的な活動の理解
４．「総合実習」として、チームの一員としての役割と責任の自覚（複数患者に対応できる実践能力）
これらを実際に指導し始めている。そして、学習者用のテキスト作成と共に、指導者用のテキストも作成中ということだった。
すでに、前期を終了している生徒が出始めている。多分、それらの生徒を派遣してくれるのだろう。
そうだ、うっかり、忘れていたことがあった。それは、防護服の手配と簡易滅菌施設の開発だ。患者を隔離して、そこに出入りする教師や生徒をペスト菌から守るための者が必要だ。
以前は、ここまで、厳密に考えていなかったが、サルビアや生徒達を危険に晒すことは出来ない。私は、転移魔法で、テラ・ワールドのミヤーコ王国の支店に移動した。
そして、都市シジンのようすを見て回った。思っていた以上に悲惨な状態になっていた。神殿の神官ですらペスト菌に侵されていたのだ。もう、一刻の猶予もない。
私自身で、素早く行動することにした。サルビア達の到着を待っていられない状況だ。
