163.恨まれたサルビア
サルビアに聞いた話では、医者として、スタートした最初は、特に問題はなかったようだ。しかし、サルビアの名前が国中に知れ渡るようになると、嫌がらせが始まったそうだ。
特に、カネーダの嫌がらせは酷い物だったそうだ。最初は、サルビアも我慢できていたが、その嫌がらせが家族にまで及んで、とても悩んだそうだ。
ある時、病気を見てくれと、依頼があり、引き受けたそうだ。その時、迎えに来た馬車に乗って辺鄙な所にある古ぼけた屋敷に到着した。
その屋敷には、特にひどい病気の者はおらず、すぐに帰ろうとしたところ、1晩でも泊っていくように言われ、食事をとって寝たそうだ。
その夜から、今の病が発症したようだ。ベッドに入ったところまでは、記憶がはっきりしているが、翌日に起きてから、家に帰るまで、頭がボーとして、記憶が曖昧になったようだ。
おそらく、食事に何か、盛られていたのだろう。その後、寝てしまったことを確認してから、呪いを掛けられたと思われる。しかし、その呪いは、闇魔法のものなので、誰か、闇魔法を使える者が呪いを掛けたか、何らかの神具で、呪いをかけたか、いずれかだろう。
私は、サルビアの記憶を頼りに、その辺鄙な場所の屋敷に行くことにした。おそらく、もう、誰もいないだろうが、何らかの痕跡が残っているのではないかと、淡い期待を持っていた。
「この屋敷か。これで、人が住んでいたとは、思えない」
私は、スキル探索で、屋敷の中を調べてみた。特に、異常はないようだ。また、誰も屋敷の中にはいない。私は、玄関のドアを闇魔法で開けて、中に入っていった。
「暗いな。光球」
屋敷の中を光魔法で照らした。少しは、掃除したようだが、部屋の隅には、蜘蛛の巣が張っている。魔法で、クリーンにしたわけでは無いようだ。何か、痕跡がないか、調べてみた。
私は、スキル鑑定で、部屋全体を調べてみた。特に、異常はなかった。次に、サルビアが案内された病人の部屋を見に行った。この部屋も異常はなかった。
最後に、サルビアが寝ていた部屋に入った。すると、何か、奇妙な感覚があった。すかさず、自分の身体の周りに闇魔法で、結界を創り、魔法からの防御力を高めた。そして、素早く、部屋の外に出た。
あの部屋には、何か、ある。しかし、それは、何か、よく分からなかった。そこで、私は、もう一度中に入ることにした。しかし、今度は、隠密魔法を掛けて、姿を消しておいた。
音を鳴らさないように、静かに、用心して、部屋の入っていった。
やはり、先ほどと同じように、嫌な感じがする。おそらく、闇魔法だろう。
もう一度、スキル鑑定で、部屋の中を調べた。すると、2カ所に、変な光が点滅していた。一つは、天井だ。もう一つは、サルビアが寝ていたベッドの下だ。
天井の闇魔法は、魔法陣によって、構成されていた。部屋の中を覗いているようだ。
私は、もう一つの闇魔法はを調べることにした。ベッドの下に静かに、潜り込んだ。
こちらは、別の魔法だった。私の結界に反応している。防御用の結界を張っていて正解だった。
この魔法陣によって、サルビアが寝ていた間、光魔法が封じられていたのだろう。そのため、闇魔法に対する抵抗力が極端に低下したのだろう。
面白いので、私は、この闇魔法の魔法陣を控えておくことにした。そして、一部を破壊して、機能しないように改変しておいた。
次に、天井の闇魔法の魔法陣だ。これは、私が使っている遠隔投影接続器の魔法陣によく似ている。しかし、全く別のものだ。というのも、無駄が多い。おそらく、古い書籍から抜き出して使っているのだろう。使っている人物は、魔法陣に対する理解が足らないようだ。
天井の魔法陣は、一方方向に映像を見るだけの様だ。そこで、私は、横に新しい魔法陣を描き、天井の元の魔法陣に接続した。これで、双方向になった。
「どこかで、見たことがある。どこだったかなぁ」
私は、思わず、呟いてしまった。すると、相手は、びっくりした顔で、こちらの部屋の中を熱心に覗き込んで来た。
「思い出せない。でも、見たことがあるのは、確実だ。この老人は、どこに居たのだったか?」
今度は、頭の中だけで、考えていた。今度は、失敗していない。
私は、もう一つ魔法陣を天井に描いた。そして、先ほどの魔法陣に接続した。これで、転移魔法用の魔法陣としても機能する。ただ、このまま、置いておくことは出来ないので、もう一つ魔法陣を描き、先ほどの2つの魔法陣に接続した。
この最後の魔法陣は、遅延魔法の魔法陣で、一定時間経過後に発動する。そして、それは、私が描いた3つの魔法陣を綺麗に跡形もなく消し去るものだ。時間は、5分後でいいだろう。
私は、転移魔法で、老人の居る所に移動した。
「ここが、老人の部屋か」と頭の中で、考えた。
老人は、一人で、小さな部屋に籠っていた。なぜ、あの部屋を覗いていたのか?それは、誰かが、あの部屋に入っていくことが分かっていたということだ。
もし、私があの魔法陣を描いたのだったら、いつまでも、覗いているわけがない。すぐにやめている。もう、サルビアは、居ないのだから。
そうすると、私が、あの屋敷に行くことをこの老人は、知っていたということだ。サルビアの傍にスパイがいるということだ。そして、この私が気がつかなかった。
今後は、行動を慎重にしないと不味い。