162.謎の病気
ナターシャが貴族を探してきた。フットーヒという名の貴族で、3人の子供がいる。しかし、その3人ともが病気に掛かってしまったらしい。その為、『金喰虫』の名の通りに、全財産はとっくに消えてしまい。屋敷も何もかも、借金の肩代わりに取られているらしい。
「ムーンさん、この方がフットーヒと言います。もうすでに、養子縁組に納得されています」
「私が、ムーンといいます。これから、よろしく」
「こちらこそ、この度は、借金の肩代わりをお願いして、申し訳ございません」
「私は、侯爵になれたので、嬉しいです」
「お子さんや奥方の姿が見えませんが?」
「もう、お聞きと思いますが、子供は病気です。医者に見せても治らないのです」
「そうですか。お気の毒です」
「妻は、子供の看病をしているので、この場には、いません。失礼をしています」
「いえいえ、こちらが会いに行きましょう」
「いいのですか?それでは、2階に参りましょう」
私達は、フットーヒに案内されて、子ど達が寝ている部屋に入っていった。
「何だか、変な匂いがしますね」
「そうですか。気が付きませんでした」
ナターシャは、この変な匂いに気が付かないようだ。フットーヒも当然の様に、何も気にしていない。この匂いは、闇魔法の匂いだ。
「少し、お子さんを診てもいいですか?」
「診ると言われましたか?」
「はい、良ければ、どのような病気か、調べてみたいのですが、よろしいか?」
「もちろんですよ。診てやってください。お願いします」
私は、スキル鑑定で、一番小さな子供を調べた。すると、やはり、闇魔法で呪いをかけられていた。
「解呪魔法」
かなり強力だ。1度の解呪魔法ではダメだ。私は、効果がでるまで、解呪魔法を繰り返した。10回ほど、魔法を起動して、やっと、解呪できた。
私は、アイテムボックスから、赤のポーションを1本取り出し、一番小さな子供に飲ませた。
その後、3人ともに、解呪して、元の状態の健康な身体に戻してあげた。
「フットーヒ、治りました。でも、誰かに恨まれているのですか?これは、病気ではありません。魔法により、呪いを掛けられたのです」
「そんな、私どもが恨まれるなんて、そんなことは考えられません」
「そうですか。それでは、別の理由かも知れません。ところで、お子さんを診ていた医者を教えてください。少し、調べてみたいので」
「カネーダさんに紹介された医者で、ニィーシャといいます」
私とフットーヒは、ニィーシャの家に行った。
「こんにちわ。ニィーシャ先生はおられますか?」
「はい、何でしょうか?」
ニィーシャが出て来た。私は、スキル鑑定でニィーシャを調べた。一応、レベルは低いが光魔法が使える。しかし、闇魔法は使えない。
「私は、ムーンと言います。よろしく」
「このムーンさんに、3人の子供を治して頂いたのです。長年見て頂いていたので、報告まで、やってきました」
「何と、あの難病を治しただって。どの様にして、治したのだ」
「それは、お教えできません。私の秘密の手法ですから」
「それは、そうだろう。むやみに教えるものではないだろう。仕方がない」
どうやら、このニィーシャは、そんな悪人でもないのだろう。でも、治せないのにお金だけは、取っていったのだから、やっぱり、悪人か?
「もし、ご存じなら、最初にこの病気になった患者を知りませんか?」
「知っているよ。サルビアという若い医者ですよ。この病気になるまでは、元気に患者を診ていたのだが、これからと言う時に、この病気になったようだ。もう、長くはないかもしれないな」
「そうですか。ありがとうございました。これで、失礼します」
何と、サルビアが最初に掛かったのか。何故、自分で治せなかったのか。不思議だ。
私達は、屋敷に戻って、もう一度、挨拶を交わした。これから、私は、この家の子供になるのだ。
5人とも性格も良く、普通の人だった。だからこそ、付け入れられたのかも知れない。
やはり、カネーダが怪しい。サルビアに恨みを持っていても可笑しくない。でも、闇魔法が使える者は、そうはいないはずだ。どうやったのか。探りを入れないといけない。
「フットーヒさん、先ほど名前が出ていたサルビアはご存じですか?」
「はい、知っていますよ。私の子供を見て貰おうと思っていたのですが、本人が同じ病気だと聞いて、諦めました」
「よければ、私を紹介して貰えませんか?」
「いいですよ。いつ行きますか?」
「できれば、このまま、行きたいのですが、よろしいですか?」
「そうですね。普通はアポを取ってからですが、緊急のようなので、いいでしょう。行きましょう」
私達は、サルビアの家を訪れた。フットーヒは、自分の子供達が治ったことと、ムーンが治したことを伝えた。
「私達の子供も見て頂けますか?」
「もちろんですよ」
私達は、2階のサルビアの部屋に案内された。サルビアは、やつれて、痩せ細っていた。確かに、もう長くはないような姿だ。
「こんにちわ。私は、ムーンといいます。テラさんの弟子です」
「えっ、テラの弟子。それで、テラは、元気なの?」
「いえ、先日、亡くなりました」
「本当? あのテラが死ぬなんて、信じられないわ。私の時みたいに嘘ではないの?」
「さあ、私は、遺体を見ていないので、それに、サルビアさんの件も知らないので、わかりません。ただ、国葬を見て死んだと申し上げています」
「国葬って、どこの国なの?」
「ヤガータ国の宰相と結婚されていました。それで、国葬になったのです」
「そうなの。残念だわ。私は、自分が死ぬ前にテラに会って、お礼を言いたかったの」
「少し、診てもいいですか?」
「そうね。あなたもテラの弟子を名乗っているのだから。いいわよ。診てください」
「それでは、始めますね」
私は、スキル鑑定で調べてみた。すると、やはり、呪いが掛けられていた。そして、光魔法も封じられていた。スキル鑑定も同様に封じ込められていた。
魔法を封じることができるとは、これは、大変なことだ。私自身に掛けられたら、誰に解いて貰えるのか?何か、対策を考えないとだめだ。
「分かりました。少し、時間が掛かりますが、やってみますね」
私は、サルビアに赤のポーションを1本飲ませた。それから、解呪魔法を身体に掛けられたものにだけ集中して起動した。
先ほどの子供達と同様に、一度では、解呪できなかったが、少しずつ効果があることは感じることが出来た。諦めずに、繰り返し解呪魔法をかけ続けた。
漸く、身体の呪縛は、解くことができた。かなり、強力だった。
「どうですか。少しは、マシになりましたか?」
「はい。良くなりました」
私は、赤のポーションを1本と青のポーションを1本の2本をサルビアに渡して、飲むように言った。
「もう少し、続けますが、いいですか?」
「ムーンさんは、大丈夫ですか?相当、魔力を使ったようですが、ポーションを飲まなくていいのですか?」
「はい、まだまだ、大丈夫ですよ。それでは、始めますね」
私は、次に光魔法を封印している呪縛を解くことにした。私のレベルが上がったのか、こちらは、すんなりと解呪出来た。最後にスキル鑑定だ。こちらも、光魔法同様に、簡単に解呪出来た。
「これで、終わりです。無事、治せました」
「ムーンさん、ありがとうございました。このお礼は、どのようにしたら」
「そうですね。それでは、テラ同様に、私も友達にして貰えますか?」
「もちろんですよ。それより、私を弟子にしてください。お願いします」
「まだ、弟子を取れるような者ではないので、それは、遠慮しておきます。それより、その身体の異常は、何時、どのように起こったのですか?」
サルビアに、当時の状況を説明して貰った。しかし、その話は、長かった。