152.テラjr
スピアが、赤子を連れて、ガーベラの所に現れた。
「この子ね。テラが言っていたのは。」
「これ、テラ。ガーベラ、分かる?」
ガーベラは、スピアの言葉の真意が分からなった。でも、テラが生前言っていたように、2人の子供として、届け出を済ませた。そして、ウェーリィ王にテラが死亡したことを伝え、国葬にする許可をもらった。
オーガネッチは、財産を取り上げられ、地下牢に永久に監禁されることになった。オーガネッチが、用意できないような毒なので、オーガネッチの殺人容疑は晴れたが、毒を確認せずに、テラに飲ませたことが過失と認められた。それ故、死刑には、ならなかった。
ガーベラによって、これまでのテラの権利は、すべて、2人の子供、テラjrに相続されることが宣言された。そして、テラ・ワールドは、リンダが代表代理となった。
スピアとレイカは、テラjrの乳母として、テラjrの世話をすることになった。
テラjrは、マナを練り上げる練習に余念がない。意識と身体とのギャップを埋めないと、思い通りの魔法を放つことができない。マナを蓄える力が足らなかった。しかし、スピアに用意してもらった大きな魔石を持っている。これで、普通の魔法使い程度には、魔力を使える。
レイカは、母乳が出ることを不思議がっていたが、テラによく似たテラjrに喜んで、母乳を飲ませている。テラjrも喜んで、レイカの乳首に吸い付いている。
スピアは、何度も、テラjrがテラだと、皆に伝えようとしたが、誰にも、伝わらなかった。リンダを除いては。
リンダは、最初から、分かっていた。この子は、テラだ。しかし、何故、こんなことをしたのか、その本当の理由は分からなかった。他に、方法があるように、思えてならない。
テラが、土人形ということを知っているのは、僅かだ。スピアは、その一人で、事前にテラの計画を知らされていた。でも、だらも、スピアの言葉を真剣に聞こうとしない。あの、レイカでさえ、常にスピアと一緒にいるのに、テラjrがテラだとは、思いもしなかった。テラが、暗示を掛けていたせいもあるが、もう、その暗示は、解かれており、また、レイカの身体に掛けられた闇魔法も解除されていた。
ガーベラは、テラjrがテラの血を引いていると確信していたが、テラ自身だとは、考えてもいなかった。当然、生きた人間の転生など、聞いたことがなかった。
「この子は、テラが死んでから、生まれたのでは?テラの生まれ変わりなの?」
少しの疑念が生じた。しかし、テラは、生前から、この子の事を知っていた。いずれ、生まれてくることを知っていた。ということは、誰かわからないけど、テラの子を妊娠していたということになる。ということは、テラが、死ぬ前に既に生を受けていたということにならないのか?
今回の召喚転生魔法は、時間を超越している。つまり、未来のテラを召喚している。だから、死亡してからの召喚であり、矛盾ではなかった。
ガーベラは、あやふやな気持ちで、テラjrに接していた。どうも、すっきりしない。
テラの国葬も無事終わり、すべての雑務を終えたガーベラは、城に済むことにした。すこしでも、テラjrと一緒に過ごそうと思った。
「テラjr、お母さんですよ?わかるかな?」
「あぶぅ、あぶぅ。」
「まだ、話せないよね。ねえ、テラjr、あなたのお父さんは、テラなの?」
「ぶぅー。」
「あなたが、喋れても、お父さんの事は、分からないよね。」
私は、思念伝達で、ガーベラに話しかけることも出来るが、我慢した。今は、まだ、真実を告げる時期ではないと思った。私は、近くにいるスピアに思念伝達で、連絡を取った。
「テラだよ。スピアにお願いがあるの。」
「いいよ。言って。」
「ダンジョンに連れて行ってくれる?まだ、まだ、魔力が足りないけど、そろそろ、魔法の練習がしたいんだ。」
「いいよ。レイカに言うよ。」
「それは、だめだよ。黙っていてくれる。それから、私が、テラだということは、暫く、内緒にしておいてね。時期を見て、自分から説明するよ。」
「いいよ。では、夜中に出かかよう。」
「おねがいね。」
魔力は、使わないと魔力量が増えない。そこで、急いで、魔力量を増やそうと思っている。出来るだけ早く、以前の状態に戻しておきたい。
そうだ、練習の施設を創ろう。それも、早急に取り掛かることにしよう。
私は、レイカか、スピアにいつも抱かれていた。そして、母乳を貰うので、お腹が空くとレイカが抱くという毎日だった。離乳食には、まだ早いようだ。意識では、普通の物を食べてみたいが、身体は、ついていかない。
夜中になり、レイカが寝たようだ。スピアが、私を抱き上げて、言った。
「レイカ、寝たよ。行こうか。」
「アイテムボックスに、青のポーションを沢山入れておいてね。」
「大丈夫、入れているよ。」
私達は、転移用の魔法陣で、ダンジョンに移動した。
「スピアは、僕を守ってね。」
「スピア、テラ、守る。見張ってる。」
「ありがとう。それじゃ、潜ろうか。」
私達は、ダンジョンの中をゆっくと、歩いて行った。取り敢えず、風魔法で、スライムなどの低位に魔物を倒して行った。たまに、範囲魔法を起動して、魔力を大幅に消費して、青のポーションで、補充していった。
取り敢えず、ダンジョンに潜る前の倍には魔力量が増えた。思っている量には程遠いが、今日は、戻る事にした。生身の身体なので、無理はしない方が良いだろう。
スキル鑑定で、自分の状態を調べてみた。魔力量以外では、レベルが総じて、低くなっている。でも、すべてのスキルは、備わっていた。当然、すべての魔法属性も以前のままだ。
テラjrが活躍するには、まだまだ、時間が掛かりそうだ。