139.鍛冶屋の育成
私が、部屋で服を脱いで着替えようとしていると、ガーベラから思念伝達で、連絡が入った。
「テラ、今いい?」
「今は、大丈夫だよ。ガーベラ、何かトラブル?」
「そうじゃないの。前に、テラが頼んでいたた鍛冶屋の育成のことよ。」
「あぁ、そうだった。すっかり、忘れていたよ。それで?」
「最初に派遣した10名の育生が終わって、帰って来たよ。」
「そうか、それで、どうだった?」
「普通の武器や装備は作れるよ。でも、ギリギリ、オリハルコンを使った物を創れるといった感じ。」
「そうか、仕方がないね。時間と共に技術も上がると思うよ。」
「そうね。暫くは、様子を見るよ。それから、募集を継続しているので、どんどん派遣するよ。」
「そうして貰えるとありがたい。」
「その10人は、リンダの所で働いて貰ってくれる。」
「いいわよ。それじゃ、リンダと連絡を取って、後は、任せるわね。」
「そうしてくれる。それじゃ、バイバイ。」
私は、ガーベラとの思念伝達を切った。思って状態ではないが、何とか、オリハルコンを使った商品を売り出すことが出来そうだ。今は無理でも、徐々に技術が上達してくれることを期待した。
私は、転移魔法で、リンダの所へ移動した。
「やあ、リンダ。久しぶり。」
「あら、テラ、どうしたの?わざわざ来て。」
「リンダの顔を見に来たんだ。」
「それは、嬉しいわ。なんだか、テラ、大人びたね。少し、大きくなった?」
「いいや、変わらないよ。リンダこそ、色っぽくなったね。」
「そうかなぁ。最近は、忙しくて、服装もなにもかも、気にかけていないのよ。」
リンダは、猫耳族特有のふわふわの耳を持っている。そして、尻尾も可愛い。
以前は、感じなかったが、リンダのプロポーションは、抜群だ。
「ガーベラから、連絡は入っている?」
「鍛冶屋の育成の件ね。聞いているわ。取り敢えず、簡単な日用品を作って貰うわ。慣れて来てから、武器や、装備を作って貰うことにするね。」
「それから、私が依頼した市場調査は、どう?」
「まだ、詳しいことは、分かっていないの。もう暫く、待ってね。」
「リンダの後継者は、育っているの?」
「そうねぇ。バイオレットが、まだ、幼いけど、仕事ができるわ。多分、テラより、一つ下ね。」
「そんなに若いのか。って、私も、若いってことだね。」
「でも、結婚もしているし、それなりの経験をして来たみたいね。」
「そうだね。側室もいるんだよ。」
「へえ、あのテラがね。」
リンダの尻尾が揺れている。思わず、触ってしまいそうだ。
「リンダ、今日は、まだ、仕事があるの?」
「もう少しで終わるよ。どうして?」
「久しぶりに、リンダと飲もうかと思って。」
「あら、テラは、お酒が飲めるの?」
「少しは、飲めるようになったよ。それに、ドワーフに渡している特別な酒もあるよ。」
「へぇ、ドワーフの酒ね。飲んだみたいわ。」
「それじゃ、待っているよ。」
「本店で、待っていてくれる?バイオレットもいるから、待っている間、話でもしていてよ。」
「わかった。」
私は、転移魔法で、本店に移動した。本店も、店じまいをしている所だった。
「こんばんわ。テラといいます。バイオレットは、いますか?」
「はい、私が、バイオレットです。テラさんには、いつもお世話になっております。」
バイオレットは、小柄な少女で、私の肩ぐらいまでしかない。髪の毛をおさげにしているので、より一層、幼く感じてしまう。
「リンダが来るまで、待たせてください。」
「はい、分かりました。何か、飲みますか?」
「それじゃ、紅茶でも、頂きます。」
バイオレットは、奥の部屋に行き、紅茶とビスケットを持って戻って来た。
ソファに座っていた私の前のテーブルの上に置いた。
「どうぞ、おあがりください。」
「ありがとう。」
バイオレットは、本店で、寝泊りしているようだ。店じまいしても、帰ろうとはしていない。
「リンダさん、遅いですね。」
「いつも、こんな時間まで、働いているの?」
「そうですね。いつも、外は真っ暗になっていますね。」
「身体の方は大丈夫?」
「はい、健康だけが取り柄です。」
「リンダから、優秀だって、聞いているよ。」
バイオレットは、少し恥ずかしくがって、頬を赤くした。
「そんなことないですよ。でも、リンダさんに認めて貰えると嬉しいです。」
バイオレットは、リンダが好きなんだなぁ。リンダは、よく慕われているようだ。
漸く、リンダがやって来た。手には、食べ物を袋いっぱいに入れて、重そうに持っていた。
「お待たせ。テラ、バイオレットは、どう?」
「良い子だね。よく、気が利くよ。」
「そうでしょ。いい子だよね。」
リンダも、バイオレットが褒められて、嬉しそうだ。多分、バイオレットがリンダの後継者になるのだろう。こんな幼いころから、優秀なリンダに鍛えられれば、すごい人材に育つだろう。
「テラ、上に行く?」
「分かった。」
私は、リンダについて、2階に上がった。2階で、リンダとバイオレットは、寝泊りしているようだ。私は、リンダの部屋に案内された。
「リンダの部屋は、さっぱりしているね。」
「そうでしょ。本当に、寝るだけの部屋になっているの。」
私達は、部屋の隅にあるソファに座って、リンダの買って来た焼き肉を食べながら、酒を飲み始めた。
「テラが、お酒を飲むのを見るのは、初めて。」
「そうだったかなぁ。前にも一緒に飲んだと思うよ。」
「あの時は、スピアと私が飲んだのよ。テラは、見てただけよ。」
「そうだったかぁ。もう、随分前のような気がするね。」
「そうね。2年ぐらい前かな?」
リンダは、少し顔が赤くなっている。以前より、弱くなっているみたいだ。
「リンダ、身体は、大丈夫?」
「えっ、どうして?」
「特に、理由はないよ。遅くまで、働いているから、少し、心配になっただけだよ。」
「大丈夫よ。私は、元気よ。」
リンダは腕で、力こぶを創る格好をした。私は、思わず身体を乗り出して、リンダの力こぶに触れてみた。たしかに、硬い。
「リンダ、すごいね。本当に力持ちみたい。」
「テラ、みたいとは、どういうこと?リンダは、力持ちだよ。」
先ほど出した酒が無くなったので、新しい瓶をテーブルに出して、空の瓶をしまった。
リンダは、自分で言うように、お洒落な服を持っていないようだ。どれも、動きやすいものばかりだ。
今日来ている服も作業重視という感じだ。結構、肌が露出している。
「リンダは、お酒強いね。」
「そうだね。でも、前より酔いやすくなったみたい。ほら、今も顔が真っ赤になっているよ。」
私は、リンダのほほの触れてみた。確かに熱くなっている。でも、まだ、まだ、飲めそうな感じだ。
バイオレットは、リンダの傍で、空になったコップにお酒を注いでいる。皿には、料理を少しずつ
入れている。リンダの世話係だ。
「リンダは、今の仕事は気に入っている?」
「そうねぇ。仕事の分は、貰っているから、満足よ。以前は、月に金貨50枚で生活していたのよ。」
「そうだったの。金貨50枚でも十分な金額だよ。」
「そうね。田舎から出て来たばかりの私には、十分だったわ。」
「ところで、バイオレットは、家族いるの?」
「バイオレットも、私と同じよ。家族はいるけど、放り出されてるのよ。」
「そうなんだ。だから、よけいにバイオレットの事が可愛いのかな。」
「バイオレットは、可愛いでしょ。」
リンダは、バイオレットを抱きしめて、撫でまわしている。バイオレットも満更ではないようだ。
「本当に、可愛いね。」
「テラも、そう思うよね。」
「いや、リンダの事だよ。可愛いのは。」
「また、テラったら、酔ってる?」
「少しね。酔っているかも。」
「今日は、久しぶりだから、飲み明かすよ。」
「いいよ。付き合うよ。」
それから、私とリンダは、何本も瓶を空けて行った。空いた瓶は、すぐに片づけて、新しい瓶をテーブルに置いた。リンダが、いつでも、飲めるように、酒は切らさなかった。
また、バイオレットが、こまめに、酒を注ぎ、料理を皿に入れていた。
「バイオレット、眠くないかい。」
「はい、大丈夫です。リンダさんが起きている間は、私も起きています。」
「そうか。そろそろ、リンダを寝かそうか?」
「そうですね。」
私は、リンダを抱き上げて、ベッドに連れて行った。
「テラ、まだ、飲むよ。付き合え。」
「わかったよ。まだ、飲むよ。でも、すこし、休憩だよ。」
「少しだけだよ。」
私は、リンダをベッドに寝かせ、布団を掛けてあげた。ふさふさの耳を触ってみた。やはり、気持ちがいい。酔っているせいか、とても暖かい。
リンダに顔を近づけると、静かな寝息が聞こえて来た。良く寝ているようだ。私は、顔を少し下げて、リンダのほほに、キスをして、ベッドから離れた。
「バイオレット、私は、帰るよ。」
「えっ、帰るのですか?」
「どうして?リンダは、もう、飲めないよ。」
「リンダさんは、いつも、テラさんの事ばかり言っています。今日も、テラさんに会えてこんなに機嫌がいいんです。だから、もう少し、一緒に居てあげてください。」
「でも、リンダは、寝ちゃったよ。」
「それでもです。一緒に、居てください。そうでないと、私が後で怒られます。」
「どうして、バイオレットが怒られるの?」
「だって、リンダさんがテラさんに帰っていいて、言ってないもの。」
「そうだね。まだ、言っていないね。」
「だから、居てください。私が帰したと思われます。」
バイオレットは、泣きそうな顔で私に頼み込んだ。私も、酔ってしまったようで、言われたまま、リンダと一緒に居ることにした。
いつの間にか、バイオレットは、自分の部屋に戻っていた。