119.魚の養殖
レンゲーから、思念伝達で連絡が入った。これから、出航するらしい。ルートは、ミーヤ国からフークシ国の近海を通って、ソーロン帝国を一定の距離を取りながら南下していくようだ。
そして、謎の大陸の南端に基地と港をつくる予定らしい。その後、ヘノイ王国の西端に一時寄港してから、北上して、ミヤーコ王国の近海から、母港に戻ってくる。日数的には、3カ月は掛かりそうだ。
私は、思念伝達でシロッコスに連絡を取った。
「シロッコス、テラだけど、今いい?」
「はい、大丈夫です。」
「今日は、お願いがあるんだけど、難しいなら、そう言ってね。」
「はい、分かりました。何でしょう。」
「アストーリア大陸で取れる珍しい魚は、美味しいって、評判なんだけど、安定して、収穫できていないんだ。そこで、あの魚を養殖できないかと思っているんだ。」
「養殖ですか?初めてです。」
「そうだよね。初めてだよね。カーリンに相談してやってくれない。」
「分かりました。取り敢えず、チャレンジしてみます。」
「ありがとう。いつでも、手伝うからね。遠慮せずに言ってね。」
「はい、了解しました。」
私は、シロッコスとの思念伝達を切った。
アストーリア大陸では、コンパスの生産だけで、その他はリザードマンの移住だけを進めている。基本無料で行っているので、もう少しは、収益が出ることをやっていきたい。獣の毛皮なども収穫できるが、これも、安定していない。だから、この魚の養殖を成功させたい。
私は、ガーベラに思念伝達で連絡を取った。
「ガーベラ、テラだよ。」
「どうしたの?」
「この間頼んだ件はどうなった?」
「今、募集しているよ。既に10人は集まっているよ。」
「そうか。10人か。それでもいいよ。1回目の講習会を始めるね。」
「どこに連れて行けばいいの?」
「ソーロン帝国のリーベンの街で、鍛冶屋を遣っているサンドールに講師を依頼しているの。だから、そこまで、連れて行ってくれる?」
「いいよ。誰かに指示をして、連れて行かせるよ。」
「できるだけ、多い方がいいので、引き続き募集してくれる?」
「いいよ。今日は、王宮に来るの?」
「暫くは、魔法学院で過ごすよ。」
「分かったわ。王宮に来るときは教えてね。」
「そうするよ。」
私は、思念伝達を切った。
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この世界にも顕微鏡が存在していた。それを使って色んな物を見ていた。特に医学関係では、細菌を見つけている。でも、電気関係は、遅れている。普通の人は、電気すら知らない。せいぜいが、雷ぐらいだ。
だから、このまま待っていても、電子顕微鏡は、現れないだろう。なければ、創ればいい。
まずは、土魔法で、筒状の物をつくり、底を塞ぎ、そこに魔方陣を描いた。これで、懐中電灯が出来上がりだ。光が、平行になるように、筒を加工した。
これで、乱反射せずに一直線に光が飛ぶように出来た。いままでより、遠くまで、照らすことができる。
同じものを複数作った。そして、一つずつ波長が短くなるように、魔法陣を変更していった。
1本目は、黄色になった。複数の色の混在した状態から、単一の波長の光だけになった。
次の1本は、紫色になった。これで、更に波長が短くなった。
次の1本は、色が見えなくなった。光は出ているはずだが、目に見えない。
以前、カーリンに写真乾板を作って渡したことがあった。その時は、ガラス板に闇魔法で、光に感光する膜を張って画像を定着させた。
あの時と原理的には同じだ。光学顕微鏡では、自分の目の網膜が光に反応している。つまり、感光しているようなものだ。だから、その網膜の代わりを創ればいのだ。
今回最後に作ったような短い波長の目に見えない光に反応して、感光する物を創ればいい。
昔、銀板で、写真を撮っていたということを聞いたことがあった。銀で、観光するのかもしれない。
私は、銀をイメージしながら、写真乾板と同じように闇魔法で、薄い膜を作った。出来上がったものをもう一度、短い波長の光に反応するというイメージをもって、感度をあげてみた。
最後の1本の筒を起動して、新しく作った膜に当ててみた。すると、ガラス板の上の銀色の膜が変化した。筒状の映像が現れた。
私は、筒の改良と感光用の膜の改良を繰り返した。これを、以前作った顕微鏡に適用した。
出来上がった新しい顕微鏡で、以前の顕微鏡では、良く見えなかったものを見てみた。見るといっても、ガラス板に現れた像を比較した。確かに、良く見えている。しかし、銀色に濃淡が付いたようなもので、カラーには、ならなかった。取り敢えず、形を見ることは出来る様になった。
まだまだ、改良しなくてはならないが、現時点では、満足できるものになった。これで、細菌より小さなウィルスを見ることができるだろう。
この新しい顕微鏡を私は、魔法顕微鏡と名付けた。
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私は、魔法学院の自分の部屋に戻った。部屋に入って、ベッドに横たわった。やはり、眠気はない。
多分治ったのだろう。少し、安心した。新しい魔法顕微鏡も出来た。これで、更に1歩先に進めそうだ。
暫くすると、ドアが開き、レイカが黙って入って来た。そして、私の横に潜り込んで来た。
「テラ、今日は元気そうね。いつもなら、ベッドに入るなり寝入っていたのに。」
「そうだね。今日は、元気だよ。」
私は、レイカを引き寄せて、レイカの顔を自分の胸に押し当てた。私が、レイカの胸に顔を押し当てると、心臓がバクバクしているのを聞くことが出来た。ということは、この態勢は、だめだね。
慌てて、レイカを引き上げて、ほっぺたにキスをした。大丈夫だったかなぁ。私は、動かない心臓をもっている。血のようなものは出てくるけど、血では、ない。これは、いずれ、気づかれる。
不安になり、ありもしない心臓がバクバクしだした。もう、頭の中がパニックだ。いつの間にか、思考が停止していた。寝てはいないが、寝ている以上に状態が悪い。もう、いいか。少し、投げやりになってしまった。