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111.難病

 リンダとの思念伝達を終えた私は、何とか、授業に間に会った。


 「あら、テラ、ギリギリね。いつもの席はないよ。」


 レイカが話しかけて来た。私は、教室の隅に目をやった。すると、この間、見かけたリューが、一人で、座っていた。彼は、この授業も受講していたんだな。


 上級教師のユーキの水魔法の初級講座は、13人が受講していた。シルバにこっそり教えて貰ったんだ。それで、気がつかなかったのだな。この講座が一番多くの生徒が受講している。次が、火魔法の初級講座で、12名だ。風魔法の初級講座は、9名とやや少なくなっている。


 私は、教室の隅のリューの隣に座った。


 「お早う。私は、テラ、よろしくね。」


 「あっ、ぼく、リュー。」


 「どこか痛いの?なんだか、辛そうな顔をしているよ。」


 「うん。気にしないでね。いつものことなんだ。」


 「関節が痛くなるんだ。でも、じっとしてると、少しはましになるよ。」


 「そうか、私、治癒魔法が使えるよ。やってみてもいい?」


 「無駄だよ。治癒魔法が気かないんだ。」


 「でも、やってもいいでしょ。無駄でも、私はいいよ。」


 「それなら、やってみて。ぼくは、かまわないよ。」


 私は、スキル鑑定で、リューを調べてみた。すると、血液の病と表示された。でも、軽い方みたいだ。このままでは、余命1年ほどのようだ。この世界で、治療薬が出来るのは、まだまだ先のことだろう。


 輸血もまだ行われていないようだから。医学の進歩は、まだまだ先だろう。魔法があるので、それに頼り切ってしまった結果、科学の発展が遅れているように思う。大抵の事は、魔法でもいいのだが、医学は、もっと、進歩して欲しい。


 「少し、出血しているみたいだね。それで、痛みがあるのだと思うよ。」


 「そうなんだ。血が止まり難いんだ。」


 「血よ止まれ。治癒魔法(ヒール)、少しは、効いたようだけど、これは、治療とは言えないね。ごめんね。ダメだったよ。」


 「ううん。少し良くなったよ。痛みが少なくなったよ。」


 私は、自分の力の無さを感じて、頭を下げた。すると、リューが頭を撫でてくれた。


 「テラ、ありがとう。無駄じゃなかったよ。だから、元気出してね。」


 「うん。分かった。」


 私は、その後も、授業に集中できなかった。リューのような素直な子が、後1年しか生きられない。何とか、出来ない物か。


 「そうか、土魔法と同じだ。」


 「テラ、大丈夫?急に大声を出して。」


 私は、声を上げて叫んでいたようだ。まあ、立ち上がっていなかっただけ、ましだが。皆の視線がイタイ。


 魔法は、イメージが大切だ。イメージできない物は、発動しない。こんな簡単なことを忘れていたなんて。リューの治療の方向が少し見えて来た。でも、治療までにしなければならないことが多すぎる。


 やはり、チームを作らないとだめだ。私一人の知恵では、限りがある。誰か、居ないか?


 私は、授業が終わると、急いで、ミュー先生の所に行った。ミュー先生は、神殿で、神官として働いていたという。様々な患者を診て来たようだ。何か、参考になることが聞けるかもしれない。


 「コン、コン。テラです。入ってもいいですか?」


 「はい、いいですよ。」


 「少し、相談があってきました。」


 「何かしら。」


 「噂ですが、ミュー先生は、神殿で働いていたことがあるって。」


 「よく知っていますね。随分前の事ですが、神殿で、神官として働いていました。」


 「それで、多くの患者の治療に携わっていたと聞いたんですが。」


 「えぇ、そうですよ。その噂は、本当です。」


 「それで、相談ですが、医学を勉強するのには、どうしたらいいですか?」


 「医学?医者になりたいのですか?」


 「少し、違います。私は、医者になりたいのではないのです。病気を治したいだけです。」


 「それって、医者じゃないの?病気を治すことが、患者を治すことでしょ。」


 「そうですが、少し、違うのです。私は、病気を治したいでけで、患者が治れば尚いいですけど。」


 「まあ、いいわ。いくつか、書物があるから、それを読んでみたら?色々な病気について理解が深まると思うわ。私が持っている本を貸すわ。一度、読んでみて。」


 「はい、ありがとうございます。」


 私は、ミュー先生に本を借りて、自分の部屋に戻った。ざっと目を通したが、私が思っていた物ではなかった。確かに、色々な症例と対処方法が載っていたが、科学とは言い難い。病気が雑多に載っているだけの様に思えた。


 「コン、コン。テラ、部屋にいるの?」


 「いるよ。誰?」


 「私よ。レイカよ。急いで教室を飛び出したけど、大丈夫?」


 「うん、大丈夫だよ。心配いらないよ。」


 「ねえ、入ってもいい?」


 「あぁ、いいよ。入ってきて。」


 私は、何だか、気怠くて、ベッドに横たわったまま、レイカを迎えた。


 「テラ、具合が悪いの?」


 「いや、横になっているだけだよ。どこも悪くないよ。」


 「でも、気分がすぐれないのじゃない。」


 「少し、横になっていれば、治るよ。」


 「そう、疲れが出ているのね。さっき、ミュー先生の所へ行っていたけど。何か言われたの?」


 「あぁ、ミュー先生の所で、相談に乗って貰っていたんだ。」


 「そう、呼び出されていたのじゃないのね。」


 「どうして、私が呼び出されるの?」


 「だって、ミュー先生は、テラの担任でしょ。だから、呼ばれたんじゃないかって、思ったの。」


 「そうだったね。忘れていた。レイカの担任もミュー先生だったね。」


 「そうだけど、私、ミュー先生、嫌いよ。」


 「どうして?嫌いなの。優しい先生だよ。」


 「それは、テラに優しいのだわ。私には、厳しいよ。だから、嫌い。」


 「そんなことないよ。レイカの感違いじゃないの?」


 急にレイカが私に飛びついてきた。そして、私の胸を叩き始めた。


 「バカ、バカ、テラのバカ。」


 「おい、おい、レイカ、痛いよ。」


 「当たり前でしょ。叩いているんだから。テラのバカ。」

 

 私は、レイカを抱きしめて、頭を撫でてあげた。髪の毛が艶やかで、手の感触がとても滑らかだ。私は、レイカの髪の毛をかき上げて、耳がみえるようにした。そして、耳元で、囁いた。

 

 「どうしたの?そんなに怒って。」


 「テラが、私のこと無視するからよ。今日だって、私のこと無視したでしょ。」


 「何、言っているの。無視なんて、してないよ。」


 「だって、私の横を黙った通り抜けたよ。それに、変な男の子と授業中ずっとひそひそ話していたし。誰なの?」


 「彼は、リューと言って、たまたま、いつも私が座る席に座っていただけだよ。」


 「最近は、私の横で授業を受けているのに。なぜ避けるの?」


 「ごめん。そんなつもりはないよ。怒らないでよ。」


 私は、頭を撫でながら、レイカが鎮まるのを待った。今日は、一日このままかも。



 


 


 

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