99.シジン魔法学院での失敗
教室内での失敗で、私は、頭を下げて、教室を出た。すると、教室の中から、歓声が上がっていた。
「何だか、うるさいね。」
「うん。五月蠅い。」
「あれ、スピアだけなの、一緒に出て来たのは。」
「うん。スピア、テラ、好き。」
「ありがとう。やっぱり、スピアは、最高の相棒だね。」
「うん。スピア、相棒。」
「どうしよう、誰も出てこないね。」
「うん。出てこない。」
私は、教室の様子を覗き見した。どうも、ミュー先生が教室の前に立って、挨拶をしているようだ。レイカ、ルカ、オウカも横に並んでいる。
「テラ、呼んでるよ。」
「そうか、紹介してるんだね。」
私も、スピアと一緒に教室の前に行って、ミュー先生の横に並んだ。
「ミュー先生、これは、何ですか?」
「私達の事を知りたいらしいの。そこで、今、自己紹介をしている所よ。オウカが終わったら、テラが挨拶しなさいね。」
「はい、分かりました。」
オウカの自己紹介が終わったようだ。
「ヤガータ国の魔法学院から来ました。テラと言います。先ほどは、熱い思いをさせて、すみませんでした。」
「さっきの魔法は、君だったのか。」
教室の前で、説明をしていたホーン先生が聞いてきた。
「すみませんでした。熱い思いをさせてしまいました。」
「いや、それもびっくりしたが、その後の魔法が素早かったね。あんなに連続で異なる属性の魔法を起動できるなんて、すごいね。それで、生徒なのかい。教師の間違いじゃなくて。」
「いえ、あれぐらい、そこのレイカ、ルカ、オウカの誰でも出来ますよ。」
「何、君以外にも、複数の属性に適合している者がいるのか。」
「えっ、これって、まずかったね。」
私は、思わず呟いてしまった。これって、内緒にしたかったのに。自分から、ばらしている。バカだ。バカ、バカ。
「いえ、私の勘違いです。間違いです。私も、一人で、やったのではありません。このスピアと一緒にやったのです。」
今更、ダメかな。まあ、それでも言わないよりは、ましか。
「あぁ、そうでしたか。2人で魔法をね。そうでしょう。生徒ですものね。納得しました。」
おぉ、納得してるよ。良かった。でも、一緒に見学に来た仲間は、睨んでいる。やっぱり、失敗か。
「それでは、私どもは、今日、国に帰るので、ここで、失礼します。」
ミュー先生がうまく、切り上げた。私達は、足早にシジン魔法学院を去った。
馬車の中で、色々と虐められてしまった。特に、いつも内緒だと言っていた複数の魔法属性に適合していることについては、総攻撃された。これからは、秘密にする必要がないって、断言されてしまった。それでも、此処だけの秘密にして欲しいと、最後のお願いだけはしておいた。
ミュー先生にも、内緒にして欲しいと、お願いしておいた。腕を絡ませて、甘えて見せたが、効果はいまひとつかなぁ。
私は、魔法学院に帰って来るやシルバの学院長室に呼ばれた。
「テラです。失礼します。」
「はい、入って。」
部屋に入ると、ミュー先生も同席していた。
「テラ、ご苦労様です。」
「はい、失敗しました。」
「ミュー先生に、訊きました。まあ、いいですよ。目的は達成できましたから。」
「それなら、いいです。」
「テラ、ミュー先生には、話してもいいかしら。」
「何を話すのですか?」
「あなたのこの魔法学院での立場の事よ。」
「ミュー先生に言う前に、私にこっそり教えて貰えませんか?」
「仕方がないわね。」
シルバは、手招きをして、私に傍に来るように指示した。
「私の仕事を手伝って貰っているということだけよ。テラの仕事の事は言わないわ。伯爵のこともね。内緒にしてあ・げ・る。」
「分かりました。」
私は、元の位置に戻った。
「ミュー先生も、お気づきだと思いますが、テラには、私の助手として、魔法学院の仕事を手伝ってもらっています。ですから、特別に教師しか知らないような情報も教えています。」
「はい、分かりました。」
「それじゃ、これからも、よろしくね。テラ。」
「はい、これで、失礼します。」
魔法学院の生徒も大変になって来た。のんびりと学生気分を味わおうと思っていた自分がバカだった。一番の失敗は、シルバにお願いしたことだ。とんだ、弱みを握られてしまった。
シルバが、悪徳代官に見えて来た。って、ちょっと、古いか。
もう少し、複数魔法の属性に適合している生徒の割合を知りたかった。もう一度、潜り込もうかな。
あの魔法学院であれば、いつでも入れる。あぁ、ついでに魔方陣を描いておくべきだった。
でも、バレるとリスクが大きいから、魔法学院の外がいいな。次は、あのホテルに転移魔法用の魔法陣を描くことにしよう。
ホテルは、シルバの配慮か、どうか、聞いておけばよかったかな?逆に藪蛇かな?
そろそろ、港湾を含めた警備体制の計画がまとまったころだろう。適切な基地の選定に動員する兵士の規模、それから、船で攻められた時の防御など、やらなければならないことが山積みだ。
それと、兵士の家族の移住と巫女の獲得も計画しないといけないね。