美味しい血
天気の良い日は室内の日陰にいても、レインは気分が優れない。日を追うごとに、その状態は悪くなっていくように思われた。夜中にこっそり野生動物の血を摂取してはいても、量も少なく質も悪いせいだ。嫌いなものだけを無理して摂り続けているのだから、レインはいよいよ我慢の限界を感じ始めていた。それで今日は体調が良くないからと言い、朝からずっと寝室で横になっている。
人間の食事はどうしたってマズく、レインは血が飲めずに徐々に衰弱していった。そうとは知らずに、ラヴィはレインの療養食を作るつもりでいる。もうすぐお昼だ。子供たちにも手伝ってもらい、自分たちのお昼ご飯から取り分けて食べやすくアレンジしたものがレインの食事になる。
そのラヴィは、料理中、度々、左の手のひらを気にした。小さな切り傷から、ふと血が滲む。
実は今朝のこと。
ラヴィの方は、今朝は茂ってきた家周りの植木の手入れをしていた。その時うっかりして、鋭い小枝で手のひらを少し切ってしまったのである。大したことはなく血も流れるほどではなかったので、たびたび手を濡らすことになる厨房の仕事を終えたらきちんと手当てをしようと、放置していた。
そのため、ふとした拍子にじわりと血が出てくることもあるが、その度に手ぬぐいでふき取って、食材に付けてしまわないよう注意していた。
ところが。
「いたっ!」
すぐ隣で一緒にジャガイモの皮むきをしてくれていたマリナの悲鳴が。驚いて目を向けてみれば、マリナの親指から血が滴っている。包丁で切ってしまったようだ。
「やだ、大丈夫っ?」
ラヴィはとっさに手を伸ばして、垂れそうになっていた血をなめた。
すると、不意に妙な感情が突き上げた。
自分の行動が、自身を抑えられないような、そんな。そして気づかぬうちに、血に濡れて艶やかなその指先に吸い付いていたのである。ジュルッと喉を通ったモノに衝撃を受けた。だがそれは知っていたかのような、意図したかのようでもあった。ラヴィは説明のつかない自分に困惑した。ただ・・・一つ、これだけは認めずにいられないものがある。
甘くて芳醇な味がする・・・。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。」
マリナの声で我にかえったラヴィは、あわてて口を放し気を取り直した。
「けっこう血が出てるわ。痛いでしょう?」
「うん・・・でも、お姉ちゃんみたいに手をふきながらやれば ――。」
「それで間に合う怪我じゃないわ。今すぐ手当てするから、もうそこに座ってなさい。」
「はーい。」
厨房を出て救急箱を取りに向かいながら、ラヴィは動揺をおさえようとした。
血が美味しいと思うなんて・・・私って変態なのかしら・・・。