人間の食卓
翌朝、レインは何ごともなかったかのように部屋にいた。1日休んだだけで動けるまでに回復したと思われたレインは、ラヴィに誘われて、子どもたちと同じように食堂で朝食をとることになった。
だが実際には、ただ動けるようになっただけだ。人間の生き血を我慢しているせいで、傷の回復は遅れている。
食卓に案内してもらったレインは、すでにパンとスプーンやフォークが並んでいるそこを眺めた。子供たちは男の子も女の子もいて、いちばん年上でも十歳を少し過ぎた感じに見える。全員で15人くらいいる。女の子が数人お手伝いをしていて、椅子に座っている子はみんな笑顔で料理が出てくるのを待ってる。食後はきっと満たされるんだろうな・・・。
登場した時から注目を集めていたレインは、そんな子供たちの遠慮ない興味津々の視線に、愛想笑いでこたえた。そのうちに、ラヴィが用意してくれた朝食が目の前に置かれた。スクランブルエッグとソーセージ、野菜のスープ、そしてロールパン。単純で質素なメニューだ。
みんなで声をそろえて食前のあいさつをしたあと、レインも恐る恐る口をつけてみた。吸血鬼とはいえ、生き血以外のものが毒になるということはない。だから、頑張って二口、三口と口へ運んで・・・とうとう手を止めた。
人間の食ベもの・・・よく見るものだけど、妙な気分だな。妙な味だし・・・食べられるけど、やっぱり美味しくないな。
レインはまた、ついため息をついてしまった。
「苦手なものでもあった?」
うかない様子に気づいたラヴィが、向かいの席から声をかけてきた。
レインはうつむいていた顔を上げ、あわてて笑顔をみせた。
「え、ううん。まだ食欲がなくて・・・。」
「・・・大丈夫?」
「うん、おかげで体はだいぶ楽になったから。それに・・・」
味わえないのは残念だけど・・・この時間いいな。あたたかい。
「あの・・・もし良かったら・・・お願いがあるんだけど・・・。」
「私にできることなら。」
「しばらく、このまま、ここに置いてくれないかな。それに、俺のことは外の誰にも言わないで。」
「いいわ。」
彼女は笑顔で、何をきいてくることもなく、あっさりと承知してくれた。
「え・・・あの・・・実は俺・・・町のお金持ちの家の奴隷で・・・こんな体だから厄介者で・・・主人に嫌われてて耐えられなくて・・・逃げてきたんだ。それで殺されかけて・・・。」
「うん。じゃあ、もうきっと大丈夫ね。だって、きっと死んだって思われてるもの。」
何ともあっけらかんとした返答に、レインはいっきに気が抜けた。
なんか・・・バカバカしくなってきた・・・苦し紛れな作り話なんてわざわざしなくても、この子はなんでも受け入れてくれそうだ。
可愛くて、優しくて、素直な・・・ああ、いいな。初めてのタイプだ・・・。
本当に上手くいくかもしれない・・・今度こそ。