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血が欲しいのに・・・


 真夜中になり、ほかの誰もが寝静まったと確信すると、レインはそうっと動き出した。


 まず考えたのは、先に子供たちから血をもらうこと。そして最後は彼女、ラヴィの血を。それまでは気づかれてはならない。子供たちは何人もいるから、少しずつもらえば起こさないでできそうだし、殺したくないからいつもは遠慮していたけど、そうやって上手くいけば今夜はたくさん飲める。今は早く傷を回復させるために、じゅうぶんな人の血がいる。逃げるために必要な、力をつけるための。


 逃げる・・・か。


 結局、心は特別な伴侶はんりょを欲しながらも、頭では逃げることを考えている。惨めだな・・・と、レインは自嘲じちょうした。


 でもとにかく、今は体を回復させることが先決だ。


 キズがうずくのを我慢して子供たちの部屋へ向かいながら、レインはふと廊下から窓の外を見た。玄関の前に柵をめぐらした庭があるこの孤児院は、森の樹木に囲まれてひっそりと建っている。古びた煉瓦れんが造りの二階建てで、構造は単純だ。ここ二階に並んでいる同じような部屋はどれも寝室だろう。レインがいた部屋にはベッドは2台あったが、一つは使われている様子がなく、もともとは空き部屋だったらしい。


 気配がある部屋を適当に選んだレインは、音をたてずにドアを開けて入室した。そこは十歳にも満たないくらいの女の子ばかりが集まった四人部屋だった。呆気あっけにとられたことには、女の子だとういうのに、どの子も寝相がけっこう悪い。掛け布団を跳ねのけて、ベッドから落ちそうな好き勝手な方向を向いて眠っている。幼さゆえか。


 その一人一人の緩みきった寝顔をのぞきこんで、レインはふっと笑った。

 なんて無邪気な。軽く噛みついたくらいじゃあ起きませんって顔してる。

 

 でも・・・ちょっと小さすぎるな、とレインは心配になった。新鮮な血は魅力的だけど、この年頃には慣れていなくて加減に自信がない。それに、下手をしてもし気づかれたら・・・ラヴィのもとまで行けなくなる。


 やっぱり、彼女だけにしよう。彼女の血はどうしても欲しいから。


 子どもたちは諦めて何もせず退室したレインは、ラヴィの寝室は1階にあると推測して階段を下りた。案の定、食堂と居間に近いところに、それらしい部屋がある。中から気配を感じるので、まず彼女のものに違いないだろう。


 そっと入室して彼女の存在を感じることができると、レインは不思議と安らいだ。窓際まどぎわにあるベッドに仰向あおむけに眠っている。月明かりで青白い女神像のような姿にせられて、引き寄せられるように近づいた。実際、そばまで来てみると、まだあどけない少女と変わらないように見えた。


 まったく気づきそうにない無防備な寝顔・・・可愛いって思ったけど・・・睫毛まつげが長くて・・・綺麗だな。


「さあ、起きて。大丈夫だから話をきいて。苦しめたりしないから。」


 ところが、彼女に顔を寄せた時、突然、これまで多くの相手に拒まれたことが脳裏をよぎって、血の気がひいた。今まで感じたことのない妙な抵抗感に、髪をでようとしていたレインは急に動きを止められた。


 むしろ、自分もまた恐れられるのが怖い・・・そんなおかしな恐怖症におちいっている。そう認めざるをえなくなり、レインはハッとした。


 早く傷を治したいのに・・・手が出せない。


 レインは深呼吸をした。ふと立ち止まって、これまでの自分を見つめ直してみる。そして、失敗ばかりしてきたことを思い返した。一方的に同じことを繰り返していたと気づき、何か違うことをしてみる必要があると思った。たちまちかれた彼女のことを、また簡単にダメにしたくはないから。あわい期待が、レインをいつになく慎重にさせた。 


 そばに両手をついて彼女の寝顔を上から見つめていたレインは、体を引き離してしばらく黙考もっこうした。


 人間だと思われているなら、正体を隠していたら人間の暮らしができる。人間のようにとはいかなくても、体験してみたい。直感だけど、彼女は分かってくれそうだから。


 それから、今の体調を考慮した。体がもつかどうかと。


 昨日、血をもらったばかりで、しばらく耐えられそうだし、傷は放っておいても時間をかければ良くはなる・・・。


 レインは人間のふりをする決意を固めた。



















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