君をさがしてた
その時、周りから大きな泣き声が上がった。そうかと思うと、次々と。目を向けてみれば、子供たちがみんなポロポロと涙をこぼしている。まだ吸血鬼のことをよく知らなくても、ラヴィの様子からなんとなく察したのだろう。
もうすぐ死んでしまう・・・ということ。
レインはゆっくりと視線を上げて、空を見た。雲もまばらで澄んでいる。華奢な体躯ではとうてい庇いきれない体を、輝く陽光が照らし始めた。ああ・・・あたたかい・・・え・・・
は・・・?
「あ・・・れ?」
「レイン・・・?」
彼にしがみついていたラヴィは、涙を流しながらパッと顔をあげた。
子供たちは目をぱちくりさせている。
「わりと・・・平気なんだけど・・・。」
ラヴィは背中を起こした。
レインは、朝日をまともに浴びている自分の両手を目の前に持ってきて、五体満足でいられることを知った。
二人は束の間、声もなく、ただ目を見合った。
「そういえば・・・種特異性吸血鬼って・・・。」
「・・・こういうこと?ラヴィの血をたくさん飲んだから?」
「嘘よ。ぜんぜん充分じゃないじゃない。こんなになって・・・。」ラヴィは涙をぬぐい、レインの傷だらけの体を見下ろして、ため息をついた。「私の血・・・もっと飲みたい?」
レインはぎゅっと目を閉じた。目頭が熱くなって、また泣きだしそうになったから。
ああ本当に・・・俺を信じて、笑顔のままでいてくれる。ずっと、そんな人を夢見ていたんだ。
君をさがしてた。
「だからダメだって。それに、前みたいに狂おしいほど欲しくはない。まるで人間になったみたいだ。」
「それって嬉しいの?」
「もちろん。あ、じゃあ、ご飯もおいしいかな。」
「・・・まずかったってこと?」
「だって・・・ごめん。」
ラヴィはふふ・・・と笑い声をもらした。
「お兄ちゃん!」
子供たちもみんな抱きついてきて、レインはバツの悪そうな顔で背中を起こした。さっきのは、どう見たって・・・俺は、ここで終わる・・・って感じだったよな・・・と。
「参ったな・・・。」
潔く覚悟を決めて最期を迎える心の準備が万全にできていたのに、俺・・・ある意味、失敗した人?
カッコわる・・・。
急激に恥ずかしくなって、レインは赤面した。それに・・・。
「あの・・・それで・・・さっきのは・・・ほんとに?」
好き。
「え・・・あ・・・うん。」
「やっぱり吸血鬼でも?」
ラヴィも頬を赤らめてうなずいた。
「私もそうみたいだし・・・問題ないわ。」
いや・・・ラヴィの体は、おそらく人間と同等。吸血鬼には違いないとしても、同じように永遠に寄り添いたいこの思いは、きっと叶わない・・・。
だって、君の生き血は人と同じようにとても美味しかったから……。
レインは首を振ってみせた。
「君は人間だよ。短い一生を、だからこそ精一杯生きて、いろんなふうに輝かせることができる、素敵な人間だよ。果てしない時間がありながら、単純に過ごすことしかほとんどできないでいる、俺たち本来の吸血鬼とは違う。」
寂しそうに口にするそれは、とても悲しく響いた。ラヴィは無意識のうちに彼の頬に触れていたが、何の言葉もかけられなかった。
「ねえ、それより・・・。」と、レイン。「もう一度・・・ちゃんと聞きたい。」
ラヴィはいよいよ真っ赤になった。
「い、いやよ、あらためてなんて・・・恥ずかしい。」
ラヴィは、周りには子供たちもみんないるのよ、という顔。
「だって、とっさに口にしたよね?せっかくの告白。どうせなら、もうちょっと長い方で。ほら、〝あ〟から始まる五文字の ――。」
「そのうちねっ。」
レインとラヴィは目を見て笑い合った。
「これからは、朝も昼もどこでもずっと一緒にいられるのね。」
「寿命も・・・君と同じだけの一生になれたなら、いいな。」
「せっかく長く生きられる体なのに?」
「空虚な無限の時間なんて・・・無意味な永遠の命なんて、いらない。君がいなくなるなら、自死するよ・・・。」
「無理やり全部一緒にするつもり?」
「うん、だから・・・。」
レインはラヴィの左手をとって、手の甲に軽く口を付けた。
「愛してる・・・ずっと、そばにいさせて。」




