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東雲の告白


 結界が消えて無くなり、おりを作っていた植物が元に戻ると、レインはバッタリと後ろへ倒れた。さんざん傷つけられた苦痛はかなりマシになったものの、ひどく疲れていた。もう一歩も動けないほど。


 すぐそばにいるラヴィが心配そうに顔をのぞきこんできた。


「君も・・・吸血鬼?」

「でも私・・・そんなに高く飛べないわ。」

「たぶん・・・飛べないんじゃなくて・・・飛ばなかったんだよ。能力の使い方を知らないから。」

「でも、そういえば・・・。」


 ラヴィはふと思い出した。料理を手伝ってくれたマリナが包丁で指を切ってしまった時のこと。


「・・・血は甘くて美味しかった。」

「え・・・誰の・・・?」

「マリナと一緒に料理をしてたら、マリナが指を切っちゃって、それで、とっさにくわえたんだけど・・・。」

「そう・・・なんだ。」


 レインも思い出して、合点がてんがいった。その日はきっと、ラヴィもまた手のひらを切っていた、あの日。いつのまにか傷口のれが引いていて、さわっても痛くないとラヴィは言っていた。それは、人間マリナの血を飲んだことで、吸血鬼の回復力や再生能力が活性化されたためだろう。


「我慢してたのね・・・人の血。」

「ここに来るまでに・・・たくさん襲ったよ。でも信じて・・・殺したことは無い。」


 レインは疲れきった、すっかり無気力なため息をついて、のろのろとラヴィの顔を見上げた。


「嘘ついて・・・黙ってて・・・ごめん。仲良くなれたら言うつもりだったんだけど・・・怖くて・・・言えなかったんだ。俺の正体を知ったら、笑ってくれてたのに・・・みんな急に変わってしまうから。ラヴィも・・・気づいたんだね。」


 ラヴィは涙をこぼして、首をふりたててみせた。

「ごめんなさい。私もつい・・・でも、今さらだけど、レインのことは怖くない。」


 レインは、湖に背を向けているラヴィの肩越かたごしを見た。東雲しののめの光がすぐそこまで迫っているのが分かる。


「もう・・・間に合わないな・・・。」

「レイン・・・大丈夫、みんなで運ぶから、頑張って。また私の血を飲めば動けるでしょう?」

「ダメだよ、これ以上はもらえない。それに、もう、朝だ。ほら、日が昇り始めてる・・・。」

「ダメッ・・・。」

 

 ラヴィは陽光からレインを守ろうと夢中で彼に覆いかぶさった。


「逝かないで・・・。」

 

 レインはそっとほほ笑んでラヴィの背中に手をまわし、頭を優しくで続けた。


「ラヴィ・・・聞いて。」

「レイン、立って、私が支えるから。」

「無理だよ・・・足が動かないんだ。ぜんぜん。もう時間がない・・・。」


 ラヴィは息をしゃくりあげて、泣き出してしまった。


「人間の暮らしにあこがれていたんだ。全部同じようにってわけにはいかなかったけど、ラヴィのおかげでそれがかなって、満足してるんだ・・・ありがとう。だから・・・お願い。」 


 本音を言えば、少し未練みれんはある。でも・・・ラヴィを、みんなを守ることができたから・・・これでいい。


「笑って。」


 涙がきでた。ラヴィは彼の首に回している両手を、強く、ぎゅっと引き締めた。

 

「好き・・・。」


 耳もとで聞こえたその囁きは、涙声で震えていた。思わず、ときめいた。こんな時だというのに、素直に嬉しかった・・・でも・・・切なくて、悲しくて・・・涙がこみあげてきた。もうすぐ自分は灰になる。でも、悪くない・・・と思った。最後にやっと得られた気がしたから。本当は、もっとちゃんと知りたかったけど・・・。


 そう、もっと・・・一緒にいたかった。


 陰にしかいられなくても、陽の光の中に行けなくても構わないから、なにより拒絶される痛みから解放されたかった。


 愛してくれる女性ひととの吸血しょくじの時間、形は違えど人と同じように幸せを感じたかった。信じて、喜んで捧げてくれる女性ひとに出会えたら、必ず大事にするって誓うから。一方的に掴まえておくんじゃなく、好きで抱き合って、笑顔で甘い言葉を交わしながらたわむれる・・・心も体も満たされる、そんな安らかな日々がいつか来るって・・・ずっとあこがれていた。


 君となら・・・かなえられそうだったのに・・・。












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