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反逆者



「あくまで邪魔をする気か?」


 男がコートの内側に手を入れた次の瞬間、いきなり飛んできた数本の銀製ナイフが、レインの腕や足、そして脇腹にグサグサッと突き刺さった。


「手にするのも忌々《いまいま》しい武器だが、慣れればなかなか役に立つ。お前のような反抗的なヤツをらしめるには。」


 ラヴィはショックのあまり気を失いかけて腰を抜かした。


 ところがレインは、着衣を派手に血で染めながらも立ったままだ。


「お兄ちゃん・・・?!」


「そこにいろ。」

 痛みと衝撃で態勢は崩したレインだったが、踏みこらえて、駆け寄ろうとしてくる子供たちに視線を向けた。

「これくらいじゃあ・・・死なないから。」


 レインはまた東の空を見た。湖の向こうの稜線りょうせんはまだ色濃いろこ藍色あいいろを残している。


「ふん・・・やはり、取られたくないのは餌を・・・だからではなさそうだな。笑わせるな。」


 レインは脇腹や腕に突き刺さっているナイフを一つ一つ引き抜いていく。そのあいだ憎悪ぞうお嫌悪けんおに満ちた目つきで相手をにらみつけていた。


 それに対して見下した目をお返ししただけの男は、しゃがみこんだラヴィにまた手を伸ばし、引っ張り起こして、自分の胸の前にぴたりと引き寄せる。 


「さて・・・。」


 次に男は、冷徹な表情のまま背後からラヴィの胸の前に両手を回すと、ネグリジェのボタンを上から三つ外した。ラヴィは恐ろしさと恥ずかしさで固まってしまった。


「お前っ・・・!」

「試してみたいことがある。」


 今にも飛びかからんばかりのレインだったが、踏みとどまった。


 すると男は、そのままの真顔で鋭い爪をたて、なんとも事務的な動作でラヴィの肩にその指先を刺したのである。

 ラヴィは痛みで歯をくいしばった。

 男は流れた鮮血を指ですくい取って、なめた。


 それを目の前で見せつけられているレインは、いよいよ怒りで震えた。手をつけられるのも我慢ならないが、そんな半端な真似をしてもてあそぶとは卑劣ひれつな。血が欲しいなら噛みついて毒を注がなければ苦痛しか与えない。


「ふむ・・・何も感じないな。ありつけるかとも思ったが・・・やはり直接食らいつかなければ無意味か・・・。」


 男は落胆らくたんのため息をついて、レインには意味不明なことをブツブツと喋っている。それから、傷だらけで辛そうに呼吸しているレインを呆れたような顔で見た。 


「しかし、なんとまあ・・・吸血鬼ともあろう体で、もう息ぎれか? あの程度の攻撃も一つも避けられないとは・・・なんだお前、もともと弱ってるじゃないか。ほかにもうまそうな血がこんなにそばにあるのに、まさか、お前・・・一人も?」


 男が子供たちを見た。そのすきにレインは無理に能力をつかい、電光石火の早さでラヴィを取り返したが、とたんに手やひざをついて地面に崩れ落ちた。


「レイン・・・!」

 

 助け起こしてくれたラヴィを再び奪われそうになり、レインはまたとっさに抱き上げ、大ジャンプでかわした。乱れた呼吸と険しい表情で、ラヴィには声を出すのもひどく苦しそうに見えた。


 ラヴィを狙う吸血鬼たちとのあいだに長い距離ができた。それらのリーダーは派手にため息をついて、どうしたものかと考えこんでいる。

 実のところ、そもそも仲間殺しは禁忌を犯すという認識があり、命令以外では禁止されている。


「ちょっとしたおどしにはまったくひるまないか・・・。」


 レインは気力をふりしぼって体を起こした。そしてまた急いでラヴィをすくい上げると、パッとその場から離れて雑木林へ逃げ込んだ。


「重傷の反逆者一匹、わざわざ大勢で捕らえに行くこともあるまい。女はいちおう王族だし、俺が行こう。お前だけついてこい。あとの者はガキどもを見張っていろ。」


 やれやれと言わんばかりにそう命令して、男はそばにいる一人を伴い追いかけた。


 上空はすぐに包囲されてしまうと判断したレインは、森の木々のあいだをすり抜けながら逃げていた。ラヴィを抱きかかえたまま、何度も東の空を気にしながら。


 あいつの能力はかなり高い。なら隠れても無駄だ。


「どうするの・・・?」

「ラヴィ、聞いて。朝になったら町へ行って討伐隊にかくまってもらうんだ。」

「レインは・・・?」

「君を連れて逃げまわる・・・朝が来るまで。」

「でも・・・それじゃあ・・・。」

 レインはただ、ほほ笑んでみせた。そう、俺が死ぬまで・・・。


 地面にほとんど足をつけず風のように走っていたレインの体が突然こわ張り、勢いよくやぶの中へ突っ込んでいった。強い衝撃を受けたにもかかわらず、レインの両腕にしっかりと守られていたラヴィは驚いただけだったが、倒れたまま身動きできずにいるレインは顔にあぶら汗をにじませ、歯をくいしばっている。ラヴィは頭を起こして、恐る恐るレインの背中をのぞきこんだ。肩甲骨のあたりに深く突き刺さっているナイフのが見えた。












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