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図書館にて


 さっきまでいた赤い煉瓦れんが屋根の喫茶店から、その図書館はもう見えるところにある。この地域ではいちばん大きな図書館だ。


 ラヴィはまず真っ直ぐに医学書のコーナーへ向かい、皮膚の病について書かれた本をあさってみた。レインがつらい時に、症状がマシになる方法が何かないかと思ってのことだった。ところが医学書のコーナーに置いてあるものは、どれも医師や看護師を目指すような人のためのとても専門的なものばかり。ページ数も多く明らかに場違いであるとすぐに気づいて、受付カウンターにいる司書をたよることに。


 そうして案内してもらったコーナーには、一般人向けの単に病気について書かれた本が種類別に置いてあった。これなら分かりやすい。ラヴィはそこで気づいたが、そもそも病名をはっきり知らない。そこで『皮膚病』や『難病』という言葉があるタイトルの本をパラパラとめくってみれば、過敏症やアレルギー、また血液の病気と説明されていた。が、治療法はいまだ不明で、つらい症状を和らげる方法もとくに記されてはいなかった。とにかく日光を遮断する、それしか仕方がないようだ。


 それに、当てはまらないことが多くてピンとこなかった。それらの本によれば、そういった皮膚病は皮膚に症状が現れて気づくものらしいのに、レインの肌は透き通るように美しく、まるで生まれる前から病気が分かっていたかのよう。奴隷としてしいたげられていたという彼が、生まれてから徹底して日光を避けてきたなんてことはあり得ない。それができたとしても、あれほど綺麗な状態を保つことなんて・・・。


 たいして何も得られなかったラヴィは、ため息をついて古時計を見た。読書や勉強ができる長机ながづくえが並んでる場所に、図書館のその大きな古時計は設置されている。帰りのほろ馬車がやってくる停留所の一つは、ちょうどこの図書館前になっている。出入り口付近の壁に貼られている時刻表を確認すると、まだ時間に余裕があった。


 そこでラヴィはすぐに思いついた。少し考えて、足を向けたのは生物学のコーナー。少し抵抗を感じつつ棚に並んでいる文献の背表紙を順に見ていくと・・・あった。


【 闇に潜む妖艶ようえんなる魔獣 】


 どこかで見覚えがあるようなそれは、吸血鬼について書かれているに違いないタイトル・・・。ラヴィは恐る恐るページをめくった。


【 吸血鬼はほとんど不死身であり、老衰ろうすいしない。人間のそれを遥かに超える強靭きょうじんな体と身体能力、狼やコウモリに姿を変えられる変身能力をももつ。だが水の中では特殊能力を使うことができず、意外と弱点は多い。陽の光を最も嫌い、それは人間が炎を恐れるのと同じで、陽光に照らされると徐々に灰になり息絶える。そのほか外的な損傷によって死ぬこともある。例えば銀の武器とくいは凶器であり、それをもって心臓をうたれたり、首を切り落とされると絶命する。


 生き血から栄養を摂取し、特に人間の生き血は好物である。それは傷を負ってもその場で回復できるほどの価値がある。日中は陽の光が当たることのない場所で眠り、夜になると生き血を求めて狩りに出る。吸血されると痛みは快感へと変わり、吸血鬼の牙から注ぎ込まれる毒は、いわば媚薬。若く美しい姿で人間を誘惑し、そうして快楽にあらがえない獲物を存分に味わい尽くして殺してしまう魔獣である。】


 ラヴィは、レインと出会った夜のことを思い出してみた。あの夜、彼の背中に刺さっていたのは、まさに銀の武器。これはほとんど決定的な事実なんじゃないかと。なかなか具合が良くならないのも、栄養失調だと言われる方が納得がいく。


 銀色の髪と青紫の瞳。見た目はやたら綺麗な顔の青年。追われて銀針で撃たれ傷を負い、森へ逃げこんだ。太陽の光に当たることができず、夜にこっそりいなくなる。


 レインと特徴や状況がいやに一致する。











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