狩り
真夜中になり、気がすすまないながらも無理に体を起こしたレイン。死にはしないが、気が変にならないよう栄養はとらなければならないと、ようやく観念した。吸血鬼の能力を発揮し、耳をすまして集中すれば、屋敷じゅうの物音だけでなく気配まで知ることができる。もっとも、本調子ではないため精度は劣るが。
レインは窓辺に立って目をつむった。意識を向ければ、間もなく答えがかえってきた。子供たちはもちろん、ラヴィももう寝床についたようだ。
レインは窓から羽ばたいて、闇に紛れた。今夜は月に薄雲がかかり、しめっぽい夜風が吹いている。雨になりそうだが、精神が明日もつか不安でいるレインは、とにかく血が欲しかった。今日、ラヴィに噛みつきそうになったことを思い出すたび、自己嫌悪にかられた。もっと特別な仲になれるように時間がいる。それまでは知られてはならないというのに。ラヴィのこともまだよく知っているわけではないし、分かってもらえる自信もまだぜんぜん有りはしない。何もかも足りない。
獲物を求めて上空から森を見下していると、木々をかすめて移動しているオオカミの群れを見つけた。十頭はいる。レインは来た方向を振り返った。それらが向かう先には孤児院もある。レインはくるりと舞い戻り、それらの前に立ちはだかった。
突然、空から現れて進路を阻まれたオオカミの群れは、驚いたように立ち止まった。群れを率いている頭領はすぐにわかった。レインはひときわ体格のいいその相手をじっと見据えた。
ラヴィから聞いたことがある。夜、たまにオオカミの遠吠えが聞こえたり、窓から姿を見かけることがあると。だが、ランタンを持っていれば火だと勘違いして遭遇しても近づいてくることはないと言っていた。村人からの情報だと。それは確かなのか・・・と心配になったレインだったが、そこでふと気づいた。
取り囲もうとしている・・・?
列を成していたオオカミの群れは、それぞれがレインを見ながら徐々に動いて右や左に移動している。
オオカミは集団で行動する生き物だが、実際に狩りを行うのは上位の数頭で、食料にするために人を襲うことも普通はない。ただ、縄張り意識が強い。今、視線をそらさず張り合おうとしているところを見ると、やはり無視するつもりは無いらしい。それに、正体に気づかれたか、警戒しているようだ。コウモリやオオカミは時には吸血鬼に利用される存在。
そうだ、こちらとしても見逃してやるつもりはない。
そんなオオカミたち、ことに頭領の様子を見ながら、どうしてやろうかと考えていたレインだったが、今、目の前にいるそれらの態度がなにか妙だと感じた。逆らえないと本能で理解するものだが、堂々と立ち、上目遣いで、いやに強気にも見える。理由はすぐにピンときた。気づかれたのだ。
こっちが弱っていることに。
「吸血鬼に操られる生物が・・。分からせる必要もあるな。」
ちょうどいい。懲らしめて、孤児院に近づけないよう駆逐してやろうと、レインは考えた。
今夜、狩る獲物が見つかった。