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鈍色レメゲトン  作者: 畑中真比古
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プロローグ

 1日目、神様は天と地、つまり宇宙と地球を作った。働きはじめでまだ余力があったし、なにより「おいおいこの世界ちょっと暗すぎじゃない?」ということで光も一緒にこさえた。それから2~5日と働き、せっせと大地や海や太陽や月を、6日目には自分に似せた人を創った。なるほど、人は神の手によって生まれたのだ。


 え、本当ですか? 世界的ベストセラーを真に受けるのもいいけど、果たしてどうだろう。


 例えば恋愛。「山田君のことが好き。大大大大だーい好き。どうか私に振り向いて。……なんなら振り向きざまにキッスして」そんな熱に浮かされた想いが集まって縁結びの一柱が誕生した。


 例えば学問。「やべえ。一夜漬けで覚えたところ、全然出てこねえんですけど。こうなりゃ鉛筆サイコロにすべてをかけるしかねえ。頼む、俺にマークシートの答えを教え給え!」計画性なんてなんのその。自分の命運をか細い木の棒に託し、机上で振る渾身のサイコロから運気の一柱が誕生した(あ、学問じゃなかった)。


 とにかくそう、神こそが人によって作られた願望の塊なのだ。純粋な願い、醜い欲望、底冷えする恐れを祈りに変えて、人は神々を生み続けた。


 だけど今、人は自らの祈りを忘れ、神々は消滅の憂き目に瀕している。


 大疫災という地球規模のウイルス感染に飲み込まれた世界では、人がばったばったと倒れていった。経済は世界規模で右肩下がり、税金はみんなの暮らしを支えるには心許なく、というか全然足りずに各国そろって借金合戦だ。


「え、このままじゃやばくね? 世界詰みじゃね?」と慌てふためいて導き出した答えは、「みんな健康で長生きしたらいいんだよ」という至極シンプルなものだった。


 そうして大疫災の去ったあと、怖ろしい速度で医療を発達させ続けて行き着いたどん詰まり。世界の約8割が無茶して体にナノマシンを取り込むことで健康と長寿を獲得した――通称ナノン、と呼ばれる人間に置き換わっていた。


 さらには「そもそも人間の体が弱すぎじゃね? 他の動物のいいとこ取れば長生きできんじゃね?」と他生物のDNAを取り込んだリュカオン(ようは獣人だ)が地球の2割弱を占め、なんの手も加えていない人間は、ヒュームと呼ばれてほんの一握り存在するのみだ。


 生と願望は離れがたく結びついている。簡単には死なない体を手に入れてしまった人間は、いつの間にか生から遠ざかり、合わせていた手を解いて祈ることをやめた。もう、彼らに神は必要ないらしい。

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