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コルネイユ公爵家の領地には、クロードの母マティルデが住んでいた。

女性関係の絶えなかった父、ビクターは、祖父の死後、ますます女性と遊び呆けていたが、流行り病で亡くなった。

母はその後も男を屋敷に連れ込み、派手な生活を止める事はなかった。


母の改心を願っていたクロードだが、酷くなる母の異性関係に堪り兼ね、王都に居ては留まる所を知らない金遣いに、とうとう領地に追いやった。


田舎暮らしは母の心を安寧にしてくれるだろうとクロードは思っていたようだが、母は田舎にまで男を呼び寄せては遊ぶ日々を過ごしている。


クロード達が度々領地に帰る羽目になっているのは、母マティルデが騒動を起こしているからだ。

以前盗難事件があったが、これはマティルデとその愛人と屋敷の一部の者によって起こされたものだ。


その罪を長年勤めてくれていた、メイドとその息子に被せようとした。


以前クロードとニコラが領地に帰り、二人を救ったが事件の裏の真相は放置されたままになっている。


それは、クロードが母の関与が明るみに出ることを恐れていたからである。

見逃されている事にも気がつかずに、マティルデは現在もその生活を改めずに豪遊していた。

その金遣いを止めようと、クロードは領地で使えるお金を止めて、母に交遊費を決めて渡す事にした。

つまり簡単に言えば、お小遣い制にしたのだ。


かなりの抵抗があるだろうとクロードは構えていたが、これに母からの反発はなく、あっさりと受け入れたのか、いまの所大人しくしている。


クロードは、漸く落ち着いた暮らしをしてくれている母に安堵した。






◇□ ◇□ 


リュシーの新しいドレスを作る為にクロードが張り切っている。


それは今度、王家主催のパーティーに呼ばれたクロードが、ユルバン国王から命令に近い形でリュシーを伴って参加するように言われ、渋々参加する羽目になったからだ。


公爵家の妻でありながら、クロードが屋敷に隠すようにしているので、以前からリュシーを連れて来いと言っていたセスト・ユルバン王太子が、業を煮やし陛下を使ったのだ。


「クソッ! 私のリュシーを沢山の男の目に触れさすのは我慢ならないが、陛下のお言葉ならば仕方あるまい」

言葉とは裏腹に、ぐしゃっとパーティーの招待状を握り潰す。


「はー・・クロード様・・普通の夜会は大抵夫婦揃って出席が基本ですよ! それを毎回一人で行って、挨拶したらすぐに帰って来るなんて子供の使いじゃないんですよ!」


ニコラは近頃すっかりパーティー嫌いになったクロードに、説教を垂れた。


だが、クロードは聞いちゃいない。

「うーむ・・折角行くのだから、リュシーに私が考えたドレスを着ていって貰いたい・・仕立て屋を呼んでくれ、ニコラ」


「・・・はいはい、手配しときます」


リュシーの事となるとクロードは何を言っても無駄な事だったと思い出したニコラは、執務室からあっさり出ていった。


ニコラが部屋を出たのを確認してから、すぐにクロードは机の上の仕事の書類を全て引き出しに仕舞い、真っ白な紙を広げた。


そして暫く腕を組み考えていたが、なにやらサラサラと書き始め、何度も直しながら夕食まで執務室から出ずに書き続けていた。


会心のデザインが出来上がると、ニコラにも見せずに、机に仕舞った。

不安になったニコラは、デザインを見せろと詰めよったが、クロードはこれを退け、ニコラに干渉されないように、ニコラの仕事を倍に増やした。


その後、呼ばれた仕立て屋がふらふらしながら屋敷を後にしたのは大勢の使用人に見られていたが、そのドレスの出来映えについて、口を挟むものはいなかった。


それで、『クロードの妻にして、クロードの愛を一身に受けている者』という名がつけられたほどのドレスが出来上がった。




パーティー当日。


王家主催となれば、会場に集まった淑女達のドレスは派手な物だ。

特に令嬢はここぞとばかりに肌を見せた大胆で派手なドレスが多い。


しかし、ここで会場に着いたリュシーの装いは違っていた。


「コルネイユ公爵ご夫妻、御到着」

その掛け声と共に会場入りしたリュシーは一斉に多くの人々の視線をその身に受けた。


あの、多くの浮き名を流したコルネイユ公爵が、今や妻一筋で愛を捧げているというのは本当の話なのか、確かめたい野次馬根性の人たちが視線を向けたのだ。


だが、一目リュシーのドレスを見た人は息を飲んで噂が真実だと確信した。


リュシーは首元からレースでしっかり体を隠したドレスだ。

真っ黒なドレスには大きな大輪の真っ赤な薔薇が一輪鮮やかに描かれている。そして、良く見ればグレーのラメの小さなゼラニウムの花がプリントされたシックながら大胆な絵柄だ。


リュシーはこのドレスがなぜこれほどまでに注目を浴びているのか、理由が分からない。


着ている本人は、会場のざわめきに困惑したまま、クロードと一緒にユルバン国王陛下とセスト王太子殿下がいる所まで挨拶に行く。


国王陛下と王太子殿下が目の前にいると思うだけで、リュシーはドレスを持つ手が震えた。


「初めてお目に掛かります。リュシー・コルネイユと申します。どうぞよろしくー・」


「ぶふーー!!」

リュシーの挨拶の途中で、セスト・ユルバン王太子殿下が吹き出す。


リュシーが驚いて顔をあげると、陛下も苦虫を潰したような妙な顔をしている。


「我が妻が挨拶をしている最中に吹き出すなっ!」

クロードが王太子をクワッと睨む。


リュシーは不敬なのではと青ざめるが、国王陛下もにんまりと笑う。

「笑うなと言うが、コルネイユ公爵の執着・・・と言うかなんと言うか・・ドレスに表現されて・・なんと言ったらよいか分からぬが・・兎に角・・凄いのぉう」

国王陛下は口許を手で隠して、ドレスから目を逸らして、笑いを堪えている。


リュシーは陛下が何をみてクロードの執着を感じたのだろうと自分のドレスをマジマジと見直す。


リュシーが戸惑っているのを察して、セスト王太子殿下がこそっと教えてくれる。

「黒色はクロード自身だ。そして大輪の赤い薔薇はリュシー、君だよ」


「まあ、そんな意味が?」

リュシーは改めてドレスの薔薇の花をみる。


「薔薇の花言葉は『あなたを愛しています』という意味だ。そして薔薇が1本の意味は『あなたしかいない』というのを表している」


リュシーは真っ赤な一輪の大輪の薔薇を凝視する。

(そんな恥ずかしい意味を着て歩いていたの?)


しかし、まだ王太子の説明は続く。

「さらに・・・」


「・・・さらに?」

ごくりとリュシーは喉をならす。


「その灰色の小花のゼラニウムはクロードの瞳の色で、ゼラニウムの花言葉は『愛情』・・」


ここまで来ればこのドレスの意味は本当に重たい・・・。


「『愛情・・・』」

リュシーはこのドレスが違う意味で重たくなっていた。


「さらに・・・・」


王太子の言葉にリュシーは愕然とする。


「ええ? さらにってまだあるのですか?」


「まだ、最後に強烈なのが残っているよ。ゼラニウムは虫除けの花としても使われているんだ。つまり一輪のこのバラに余計な虫は付けないと言うクロードの執着? 固執? 妄執?」


「違う!! 愛だ! 殿下と言えどもリュシーに近づきすぎだ」


クロードが二人の会話に割って入ってきた。


「そのドレスといい、今の行動といい、リュシーをもっと自由にさせてあげるべきだよ」

セスト王太子殿下が、やれやれとため息混じりに首を横に降っている。


そんな意味合いが含まれているドレスだと気が付かずに着ていたリュシーは、意味が分かると急に恥ずかしくなってきた。

どおりで・・・

公爵家からでる時に、侍女の皆さんの目が生暖かい感じで、ぞわぞわしたのを思い出した。


ジゼルったら、ちゃんと教えてくれても良さそうなのに・・どうして教えてくれなかったのかしら?」


『クロードの妻にして、クロードの愛を一身に受けている者』という看板を着てパーティー会場をクロードと一緒に歩いた。


クロードと一緒に挨拶回りをしたが、大抵の方はドレスに苦笑いをしながら、話を始めた。


しかし、クロードの作戦勝ちのようで、男達はリュシーに近付きすぎる事なくある一定の距離を保ったままパーティーは終了した。






クロードが作ったリュシーのドレスが話題になり、それはクロードの領地にいる母、マティルデの耳にも届く。


以前から、息子クロードの結婚を聞き付けて、嫁を連れて来いとうるさく催促していたが、この度の噂で益々興味が湧いたのか、『嫁に会いたい』と更に催促が激しくなった。


お読み頂きありがとうございます。

度重なる誤字脱字・・・

お恥ずかしい限りです。

何度見直しても、やってしまいます。

どうぞこれからも報告を宜しくお願いします~。(丸投げ?)


この流れでお願いをしにくいのですが・・・励みになりますので、↓の☆マークを★に変えて頂けると嬉しいです


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