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ソレーヌは門番のルーベンから『あの家族から目を離すな』と言われていた。

だから、オレリアの世話係になり、彼女の一挙一投足を見逃さないように常に側にいた。


そしてルーベンが危惧した通りの事が起こった。


晩餐の前にオレリアの部屋で、ドレスの着替えを手伝っていた侍女達はこの時、ドロテとオレリアのリュシーを陥れる作り話を聞いていたのだ。


『家に有ったお金を全部、リュシーが持っていってしまって苦労し

た』

と言うものだった。

更に、オレリアまでがその嘘に乗ってありもしない話を作り出した。

それによって、部屋にいる侍女達が、それを信じ動揺が走った。


それを見てドロテとオレリアは、この屋敷の全員が自分達の味方についた筈だと楽観視していた。


確かにあの部屋にいる時、ソレーヌ以外の侍女はドロテ達の言葉を一瞬信じてしまった。

そして、泣き真似をしている三人を残して気遣うように部屋を出た。


けれども、この後すぐにソレーヌによって侍女達は違う部屋に集められた。


そして、彼らの嘘を見抜いたソレーヌが侍女達に語り始める。


「あなた達の目は節穴ですか?」

侍女頭としての威厳に満ちた目で、みんなを一睨みする。


「ここに来た時のリュシー様はとても粗末な服で、その上彼女の手は傷だらけでした。でもあの方の瞳は輝いていました。私はその後、知り合いのカリータ商会のランドさんに、リュシー様があの三人に酷い扱いをされていたのかを聞いた事があります。その話を聞いた時、私は胸糞が悪くて・・・下品な言葉で失礼しました。私はその話しを聞いた時あまりな事に気分が悪くなった程です」


ここまで話すと、一人の侍女が手を挙げた。


「なんですか? コラリー」


「話しの途中ですみません。ついこの前の休暇の時、ギルドで働いている私の父から聞いたのですが、リュシー様は以前あの三人に、侍女より酷い待遇でこき使われていて、そしてスケベな老人の男爵に売られたかも知れないって心配していたのです。それで私がリュシーさんは公爵様の奥様になったと話していたら父はとても喜んでいました。でも、本当の事だと思えなくて今まで黙っていました。でも、父の言ってた事は本当だったんですね」


ソレーヌとコラリーの実話と、今までのリュシーの態度と行動によって、屋敷の侍女達はルコック家の人達の嘘を、あっさりと見破った。


「そうです。これから、あなた達はあの三人が奥様を傷つけないように監視をして欲しいのです。それから、身をもってわかったと思いますが、彼らは本当に良くペラペラと嘘をつきます。息をするように嘘をつきます。絶対に騙されないようにお願いしますよ」


「「「「はい!!」」」」


「では、皆さんこれから指示するので、良く聞きなさい。まず、あの人達がなにかを盗もうとしていたらそのまま確認し、証拠をとって置きなさい。それと、料理長に今日はフルコースではなく半分のコースに変更するように言って来てください」


「なぜですか?」

新米侍女がソレーヌに尋ねる。


「奴らに食わす・・・失礼。彼らに高級な肉や料理を出す必要がないからです。料理長のシモンにそう伝えて頂戴」


「了解しました。侍女頭ソレーヌさん」

こうして、屋敷中の使用人全てにドロテ達の悪事の話は行き渡った。


そして、晩餐だ。

侍女達は彼らの行動をつぶさに観察した。


確かに苦労をしたと言っても、横柄な態度はにじみ出て、更にリュシーへの冷たい態度は、侍女達も怒りを覚えた。


シェフの一人が、料理長のシモンに提案する。


「公爵様の御家族には温かいスープを出しましょう。あのエセ家族には冷めたスープでいいでしょう? それにお肉も安い肉に換えませんか?」


「ああ、そうだな。アシル様への態度も悪かったしな」


調理場でもこんなやり取りがあったことをエセ家族は知らずに、料理は粛々と彼らの前に運ばれていく。



その後、リュシーが気分が悪いと席を外し、アシルもリュシーの後を追って席を立った。


すると、ドロテとオレリアがあろう事か、姉の夫であるクロードにすり寄っているではないか・・


部屋の壁に並んでいる侍女達は、その浅ましい姿に、嫌気がさしてきた。

さっき見せた涙はなんだったのだろうか・・・?


クロードがオレリアを褒める度に、侍女達は気が気でない。

クロードの悪い癖が甦ったのではないかと戦々恐々として立ち尽くしている。


そう、クロードは美人に弱い。

それはこの屋敷の使用人ならば周知の事実だ。

特に母似のブロンド碧眼は鬼門なのだ。

ソレーヌはクロードがオレリアに微笑む度、スリッパがあったらクロードの頭を叩きに行っていたかも知れない。


しかし、この時のクロードは少しも悪くなかったのである。

妻の家族をもてなそうと必死だっただけなのだ。


それがドロテやオレリアには、すっかり虜になった男が、自分達に必死になって取り入ろうとしてると勘違いした。


そして、どんどん付け上がる。

それは、翌日から始まった。


オレリアが朝起きるとベッドから出ることなく、すぐに侍女を呼ぶ。

「私、朝が苦手なのよ。ここに朝食を持ってきて頂戴」


「ですが、奥様とアシル様が食堂でお待ちですが・・・」

侍女が食堂へと誘うが動かない。


「リュシーとアシルって・・クロード様はいないの?」


「はい、本日はお城にて用事があり朝早くからお出掛けになりました」

侍女の話しを聞き終わらない内に、オレリアはベッドに潜り込む。


「じゃあ、食堂に行っても仕方ないじゃない。やっぱりここに持ってきて!!」

最後は面倒臭いのか、手だけブランケットから出して、シッシと追い払う。


「はい、わかりました。すぐにお持ちします」


この全く同じ作業を他の部屋、つまりドロテとアベーレの部屋でも行われていた。


それぞれの担当の侍女達が調理場に集まり顔を合わせて、苦笑いする。


「やっぱり、あのエセ家族はすぐに化けの皮が剥がれたわね。本当に昨日の話をちょっとでも真に受け掛けたのが悔しいわ」


「ホントね。それにしても、あの家族いつまでいるつもりなのかしら」


エセ家族がここにいる限り、自分達の仕事もストレスも増えそうだとお互いに頑張ろうと励まし合ってそれぞれの担当の食事を運ぶ。



オレリア達は自分達がそんな風に思われているとは露知らず、まだ姉や娘に裏切られた家族を演じようとするのが腹立たしかった。


「私が持っていたアクセサリーを姉がまだ持っているかも知れないの。後で姉の部屋を探しに行ってもいいかしら?」


出た!!

ソレーヌさんが言ってた通りだわ!!


侍女は昨夜のソレーヌの指示を思い出して、危うく吹き出しそうになる。


(えーっと、『何かを盗もうとしていたらそのまま確認し、証拠をとって置きなさい』だったわよね)

フムフムと手順を確認して、侍女はオレリアに理解を示した様子で頷いた。


「わかりましたわ。でも、流石に奥様のいらっしゃらないところでは、ご案内できないのでご了承下さい」


侍女の言葉にオレリアはわざとらしいため息をつく。

「はー!! 本人が居てたらダメじゃない。それくらいわかってよ。私はあの姉にさんざん酷い目に遭わされたのよ。我が儘な姉に振り回されて本当に大変だっんだから! 私は毎日嫌がらせをされて、他では私が何人もの男性と遊んでるなんて嘘をつかれた事もあるのよ」


ここで、昨日見せた嘘泣きを披露。


「まあ、そうなんですの? 奥様がそんな人だったなんて!! でも、奥様のお部屋に無断で入る事はできませんのー」


ちょっとばかりめんどくさくなった侍女は、棒読みの台詞みたいな口調になってしまう。でも、オレリアは侍女の態度には気が付かず、チッと舌打ちをして諦めた。


「では、部屋に行く許可をお姉さまに取ってきて頂戴! すぐにいって来て!!」


「・・・分かりました」

まさか、本人のいるところで盗みは働けない。つまりは奥様が立ち会いの元と言えば諦めると思っていたのに・・・と侍女は言葉を失う。


仕方なく侍女は、その足でリュシーの部屋に行き、オレリアの要求を申し訳無さそうに伝える破目になった。


侍女から話の遣り取りを聞いたリュシーは額を揉んで頭痛を和らげようとしたが、無駄だった。

「分かりました、オレリアに私の部屋に来て盗んだ物があるか確かめにいらっしゃいと伝えて来てください」


「あの・・よろしいのですか?」

侍女はオレリアがリュシーに危害を加えるのではと危惧した。


「大丈夫よ。だって私はあの子の宝石なんて盗んだりしていないのだから・・・」


リュシーの言葉を受けて、オレリアを連れてくることになったのだが、侍女がオレリアの部屋に戻るとドロテとアベーレがいて、二人も着いてくることになった。


侍女は慌ててソレーヌとジゼルに応援を頼んだ。





自分の部屋のようにノックもせず、リュシーの部屋に入ってきた

三人はいきなり不躾にリュシーの部屋の家捜しを始めた。


「私はあなた達から、ハンカチの一枚だって貰った事はないです」

リュシーはその荒し方に憤り、声を荒げる。


「あらあら、そんなことを言って良いのかしら? 本当に私たちから盗んだ物が出てきた時に困るのはあなたなのよ。リュシー?  わかってる?」


ドロテがオレリアとバカにしたように笑う。


引き出しを開けて見て回っていたオレリアがあるアクセサリーに見入って動きを止めた。


「ああ、あったわ!! これよ!

このアクセサリーは私のよ。こんな所に隠していたのね」


オレリアが不敵に嗤って、ジュエリーボックスから一番高そうなアクセサリーを取り出したのだ。


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