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今日の晩餐はリュシーにとって、気が重い物になりそうだった。


愛する妻の家族の出現に上機嫌のクロードには、リュシーの笑顔が曇っていることに気が付かない。


テーブルには6人分のシルバーのカトラリーがセットされている。


クロードとアシルとリュシーは先に席に着いて、アベーレ達が来るのを待っていた。


「君の御家族に私は、受け入れて貰えるかな?」

そわそわしているクロードに、固い笑顔を向けるだけでリュシーは精一杯だ。


そんな時に、遅れてアベーレ達が入って来た。


「遅れてすまないな」

アベーレは、既にここの主人のような横柄な態度で、ドカッと席に座った。


ドロテは食器を値踏みしながら、席に着いた。


オレリアは一番後から、クロードの近くまで歩み寄り、溢れんばかりの笑みを向ける。


その笑顔にクロードが優しい笑みを返した。

「これは、素敵ですね。リュシーと並ぶとここに美しい花が咲き誇っているようだ」


「まぁ、花だなんて・・・恥ずかしいですわ。でも、大好きなお姉さまと一緒に花に例えて頂けて光栄です」


恥じらうふりをして、さらにクロードに近付いた。そして、

「遅くなってすみません。こちらの侍女の方々と話していたら、遅くなってしましました。あ、でも侍女達を叱らないで下さいね。私の事を思って色々と話して下さったんですもの・・・」

言い終わると侍女達にも微笑み掛ける。


それを見た侍女達が、手を合わせて喜んでいる。


「もう、ここの侍女と仲良くしてくれているのですね。ありがとう」


クロードの言葉にオレリアは、

「あら、お礼なんて変です。こちらこそこんな素敵な晩餐に呼ばれるなんて、夢のようですもの」

そう言って、クロードの腕に自分の手を絡ませてお礼を言う。


この二人の様子に、アベーレとドロテが満足そうにしている。

その横でリュシーは、胸のモヤモヤが噴き出して苦しくなる。


「ああ、そうだ。この子は私の息子のアシルです」

クロードが三人にアシルを紹介したが、子供に興味のない彼らは「ああ宜しく」と無表情にアシルを一瞥しただけで、それ以上は触れもしなかった。


折角立ち上がって挨拶しようとしていたアシルは、少しがっかりして席に座り直すしかなかった。


それをリュシーが、まるで自分が悪い事をしたようにアシルに申し訳のない顔でアシルの膝に手を置いた。

顔には後悔と懺悔が現れている。


「大丈夫だよ」とアシルが小声で言うとリュシーが安心したように、しかし寂しげに微笑んだ。


その顔をアシルは見逃さない。


アシルの中で、目の前に座る三人の評価は下落を通り越して、リュシーの敵だと早々に認定した。


新料理長であるシモン・ブロワは、今回の晩餐にフルコースではなく、急なこともあり15あるコースを8品目に減らしたお詫びを言いに調理場からわざわざ来てくれた。


だが、アベーレは不服そうに「なんだ!食前酒もないのか?」と言い放つ。


「お父様、急な来訪でもここまでご用意したのです。我が家の料理長を困らせないで下さい」

リュシーはこの思いやりのない家族に、大切な公爵家とその使用人を責められるのは我慢出来なかった。


「お前ごと・イテッ!・・・そうだな私が悪かったよ」

『お前ごときがいい気になりやがって』とアベーレが苛立たしくリュシーに言い掛けたが、どうやらテーブルの下でドロテにつねられたようだ。

お陰で一先ずその場は収まった。


アミュズ(付き出し)から始まり、オードブルがでる。

「以前はこうしてみんなでこのように食事をしたんですが、今はパンを買うのも大変でねえ」

ドロテがしんみりと話す。


(そのテーブルに私は居なかったですけどね・・)

リュシーは皿に集中して、エセ家族の言葉を排除しようと頑張るが、どうしても耳に入ってくる。


スープが運ばれる。


「あら、このスープ少し冷めてない?」

オレリアが口を尖らせて文句を言う。


(私は冷めきった、残りカスのスープしか飲めませんでしたわ)

リュシーは昔、スープに映った自分の惨めな自分を思い出す。


ヴィアンド(肉料理)がテーブルに置かれた。

「このお肉の料理は、柔らかいわね。以前、オレリアの誕生日で食べたお肉も美味しかったわね」

ドロテが舌鼓をうちながら、思い出話を披露する。



(ああ、そうだ・・その時私のお母様が残してくれた宝石が売られたんだ・・)

リュシーはもう無理だった。

これ以上ここにいることはできなかった。


「クロード様。ごめんなさい・・私気分が悪くて・・途中で申し訳ないのですが退席させて頂きます」


真っ青な顔のリュシーが、ガタンと席を立つとふらつきながら、自室に戻る。


「どうしたのだ? 大丈夫かい? 私が部屋まで連れていこう」


クロードはリュシーを心配してそう言ってくれたが、この場に残されるアシルが気掛かりで、断った。


「私は大丈夫です。アシルと一緒に居てあげて下さい」


腕を押し止められたクロードは、仕方なくテーブルに戻った。

「ジゼル、リュシーを頼んだよ。なにかあったらすぐに私に知らせてくれ」


「はい、わかりました。さぁ、奥様こちらにどうぞ」

ジゼルは、クロードに頷くとリュシーを部屋まで連れていった。


「まあまあ、あの子ったらクロード様を一人にして・・困った子だわ」

ドロテがクロードに『ごめんなさいね』と謝る。


そして、ドロテはリュシーの体調を気に掛ける事なく、すぐに何もなかったようにオレリアがどんなに素敵な良い子かをアピール始めた。


オレリアも「お母様、そんなに褒められたら恥ずかしいわ」とまんざらでもない。


「クロード君、オレリアは本当に美しくてね、引く手数多だったんだよ」

アベーレは舞踏会に参加した時に、オレリアの回りに男達が群がった話しを自慢する。


オレリアはここで、ねっとりした熱い視線をクロードに向けた。


「ははは、オレリアさんは本当に美しい女性なので、その時の男達の気持ちがわかりますよ」


クロードがオレリアを褒めると、さらに、ドロテ達は頬を上気させて、娘の売り込みを加熱させた。


その話しの中、アシルがリュシーを心配してそっと部屋を出た。




リュシーの部屋にはジゼルが、料理長に頼んで作ってもらったサンドイッチを運び、お茶を淹れているところだった。


「あの、おかあさま?」

そっと顔を出したアシルに、リュシーはビックリした。


「アシル、どうしたの? もしかして、嫌な事を言われたの?」


駆け寄るリュシーを労るように、アシルは「なにも言われてないよ」と返事をしながら抱きついた。


「ごめんね。アシルに嫌な思いをさせてしまったようね・・」

嫌な思いをしたのはおかあさまじゃないかとアシルは言いたかった。

いつも明るいリュシーのこんなに苦しそうな顔は見たことない。


「僕は前の母と一緒にいると、いつもしんどくなったよ。今おかあさまもそんな辛そうなお顔になっているよ」


三歳の時の記憶でもアシルの心には、前の母の冷たい視線が怖かった事は忘れられないのだ。

全く興味を持ってくれない母が、明日は見てくれるかも知れない。


でも、そんな日は来なかった。


今日のリュシーの家族も永遠にこちらを見る事がない、そんな目を持った人達だと見透かせた。

本能的にアシルはリュシーを守らなくてはと思った。


リュシーは自分を気遣ってくれるアシルの強さに驚く。

そして、アシルに心配をかけない用に振る舞わなければとサンドイッチを頬張った。


「さあ、アシルも食事の途中で来てくれたのよね? 一緒に食べましょう」


急に元気になって食べ始めたリュシーを見て、アシルは安心したのか、明るい顔でサンドイッチを口に運んだ。




その頃、屋敷の一室に侍女達と下男、そしてシェフ達も集まっていた。


一人の侍女が話し出す。

「ねえ、聞きました?」


「ああ、奥様の事ですよね。聞きましたよ。ビックリしましたよね・・」

答えた侍女が眉を寄せて答えると、他の侍女もうんうんと頷いた。


シェフの一人も困惑顔だ。

「その事は僕たちの厨房でも、噂になっていたよ。本当の事だったんだね・・・ショックだよ」


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