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アベーレ・ルコック伯爵、とドロテ、オレリアは閉ざされた大きすぎる門の前に立っていた。


門番のルーベン・ダントンは、門の前で佇む三人を見付け、声を掛けた。


「ここは、コルネイユ公爵の館だが、何かご用ですか?」

大きな体を屈めて、薄汚れた相手にも丁寧に接するルーベンに、アベーレは横柄な態度に出る。


「ここに娘のリュシー・ルコックがいるんだが、父親が来たと言ってくれ」


「確認しますので少々お待ちください」

ルーベンは穏やかに対応し、部下をやらずに自分自身が馬に乗り、屋敷に向かった。


ルーベンを笑顔で見送った三人は、門の外で待たされる事に腹を立てていた。

「公爵夫人の父が来ているのに、こんな所で待たすなんて、私ならすぐにあいつを首にするな」

アベーレが文句を言っているとオレリアも文句を言い出す。


「そうよ、未来の公爵夫人の私を中に入れないなんて、躾がなっていないわ」


「あなた達、下っぱの者はどうでもいいのよ。公爵様には媚を売るのよ。特にオレリアはね」

ドロテは二人を諌め、オレリアに釘を刺した。


「わかっているわよ。それに公爵様の前の奥さまは私の様にブロンド、碧眼だったらしいのよ。あの赤毛なんてすぐに追い出せるわよ」

オレリアは自信ありげに微笑む。


その姿は・・・姿だけは本当に美しい。




この時屋敷に、執事のニコラが急用で領地に出掛けていていなかった。

再び領地で問題が起こったのだ。

そのために、リュシーの実家での暮らしを知る者がいなかった。


だが、ルーベンは長年の勘からあの三人に、ある種の違和感を感じて、普段ならば伝令を屋敷に使うのだが、自分自身でリュシーに確かめに来たのだ。



屋敷ではちょうど、クロードとリュシーが朝の食事をしている最中だった。


侍女が、食事中の二人にルーベンが急な来客があり、それについて目通りを願い出ていると告げた。


朝一番に来客も珍しいし、アポイントもないとは誰だろうと、クロードは面倒臭そうな顔を隠しもしない。


クロードは愛しいリュシーとかわいいアシルとの爽やかな朝食を邪魔されて、不機嫌になる。


「どうした?ルーベン。一体んな朝早くから誰が来たと言うのだ?」


ルーベンはチラリとリュシーを見て、慎重に報告した。

「リュシー様のご家族と名乗る人物がいらしたのですが・・・どうも様子が可笑しいのです」


「何? リュシーの? これはいけない。まだ挨拶もしていないのに・・・よし、リュシー、一緒に門まで迎えに行こう」


クロードは凍り付いたような顔のリュシーに気が付かず、出迎えの準備をする。

「アシルはここで待っててくれ」


アシルを残し、クロードはリュシーを前に乗せて、門へと急いだ。


門の外には二度とみたくないと思っていた三人が揃って、作り笑顔で微笑んでいる。

「おお、リュシー元気にしているようだな」

人の良い父親の振りをして声を掛ける。


声を聞くだけでも、気分が悪くなりそうだった。


「リュシーあの方は貴女の父上なのかい?」


「そうですね・・・一応父親とその家族です」

確か・・私を売った日に縁を切った筈では? 

リュシーはにこにこと笑っている父が、何を考えているのかわからず、気持ちの悪さで吐き気がした。


「そうか、リュシーの家族ならば、是非最大限のもてなしをしなければいけないね」


クロードの嬉しそうな顔に、リュシーは自分の家族の話をすることを躊躇った。


(何と言えば良いのだろう?

父は私を娘とは思っていなかったとか? それとも、いつも綠でもない男に売り付けようとしていたとか?)

それを言うにはあまりにも自分自身が情けなくて言えなかった。


リュシーが身構える間に、難なく公爵邸に入り込めた三人は、図々しくも専属の侍女を付けて欲しいと言い出した。


妻の家族だからと一人につき三人ずつ侍女をつけたクロードに、リュシーは顔を曇らせる。


さらにアベーレ達はお客様専用の宿泊棟ではなく、本館に案内された。


それはクロードはリュシーが少しでも家族と近い方が良いだろうとの気遣いだったが、それがリュシーには大きな負担となった。



それぞれの部屋に通された三人は有頂天だった。


アベーレは早速、『屋敷で一番高いワインを持って来てくれ』と頼み、ドロテは部屋に用意されたドレスを物色し始めた。


オレリアはすぐに風呂の用意をさせ、侍女達に丁寧に体中磨かせた。

オレリアの侍女に、侍女頭であるソレーヌが担当したが、彼女はすぐにこの家族に胡散臭さを感じ取る。


だが、何食わぬ顔で仕える。


「ねえ、私の髪の毛はとても繊細なの。輝かせる為にオイルをいっぱい付けて頂戴」


「はい、お嬢様。とても美しいですわ」

ソレーヌは口許を常に微笑む事とお世辞を忘れない。


その態度に気分を良くしたオレリアはどんどん図々しくなる。


「私を美しく飾ってね。ほら、そこのアクセサリーを持って来なさい。もっと大きい宝石はないの?」


「これが一番大きい宝石です」


差し出した宝石をギロッと一睨みしたオレリアは、ある事を思い付く。

「ねぇ、リュシーの所から宝石を持ってきて頂戴」


侍女達がざわついた。これは失敗だとオレリアは気が付いた。

(私の方が綺麗なのに、あの赤毛に宝石なんて必要ないじゃない!)


でも、ここで侍女を敵に回すのは得策ではないと、しおらしい態度を取った。


「ごめんなさい。いつも宝石はお姉さまと貸し借りして使っていたものだから・・・」


「ああ、そうなのですね。でも、リュシー様の宝石をお使い頂く事は出来ません」

ソレーヌが言うと、オレリアは内心では怒りの炎が渦巻いていたが、ここは大人しく引き下がった。


「わかったわ」

声がひきつったがなんとか誤魔化せた。


侍女達はオレリアの晩餐のためのドレスを着せ、ヘアスタイルをセットするとため息を漏らした。


やはり、オレリアは手を掛けるとその美しさは抜きん出ていた。


鏡に映ったオレリアは、その出来に自信を取り戻した。


(やはり、私は誰よりも美しいのよ。この屋敷に相応しいのは私ね。早くクロード様に私を見せてあげたいわ)



着替えが終わった時に、アベーレとドロテがオレリアの部屋に入って来た。


娘をみた二人は、久しぶりの娘の盛装に喜んだ。

「おお、着飾ったお前はなんて綺麗なんだ(この娘をうっかり安く売るところだった)」

娘の勘定をしている父親の隣で、母もよくにた感情だった。


「流石、私の娘だわ。世界一自慢の娘よ(これなら公爵もこの子を選ぶわね)うふふ、晩餐が楽しみだわ」


ここで、白々しくドロテが涙を流す。

侍女達が慌ててハンカチを差し出し、彼女を気遣う。


「ああ、ごめんなさい。本来ならば、この子もリュシーと同じように綺麗なドレスを着せてあげたかったんだけれど、我が家に有ったお金を・・・全部・・・リュシーが持っていってしまって・・・残された私達は苦労したわ」


部屋にいる侍女達は、『なんて事!!』『えーっ、あの奥さまが?』と動揺が走る。


ドロテの一人劇場はまだ続く。

「いいのよ、私達が苦労してもここで幸せに暮らしているリュシーを見て、私は・・・嬉しいのです」


オレリアは始めポカーンとしていたが、母の意図を汲んで(ああ、そう言う事にするのね?)と母に続いて芝居を始める。


「ええ、私の服を全部売ってしまったお姉さまですが、大好きなお姉さまですもの、今日会えて本当に私は幸せだわ」


よよよと流れてない涙を拭く素振りを見せる。


アベーレも何か言おうかと考えたが、ドロテが「あなたは大根役者なんだから、何も言わないで!!」と小声で注意されシュンとなる。


それが、妙にこの場に合った父親の悲哀が出せていた。


一人の侍女が、震えながら

「奥様がそんな人だったなんて・・・」と言い出したのを皮切りに皆口々にオレリア達に寄り添う意見を言う。


それを、ドロテ達は上手くいったとばかりにほくそ笑んだ。


ソレーヌが、肩を震わせているオレリアの肩をそっと撫でて、「侍女を下がらせましょう。落ち着かれたら、私どもをお呼び下さいませ」


オレリアを案じて、そっと侍女達を部屋から出し、自らも退出した。


部屋に残されたドロテとアベーレ、オレリアは侍女が誰もいなくなったのを見計らってからクスクスと笑い出した。


「もう、お母様ったらいきなりお芝居を始めるからビックリしちゃったわよ」

オレリアは可笑しくて笑いが止まらないようだ。


「でも、これで、すっかりあの侍女達は私達を信用したでしょう?もう、リュシーが何を言っても信じて貰えないわよ」


「ああ、これでここにある高い酒が飲み放題だな」

アベーレが舌舐めずりをした。


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