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クロードはニコラとジゼルに睨まれて、小さくなっていた。


昨夜、クロードは我慢が利かずリュシーを愛しすぎて・・・無理をさせ過ぎた。


ベッドで寝ているリュシーは、体が痛くて起き上がれない。


「私だって初めては辛いって知っていますのに、奥様をこんなに・・・」

キッとジゼルが鬼畜を見るように、蔑んだ目でクロードを睨む。


「ジゼル、旦那様をそう怒らないであげて頂戴」

リュシーは取りなすが、それが一層ジゼルの怒りに火を着けて、睨む瞳の冷たさを増しただけだった。

クロードは妻の傍でしゅんとなっている。


「奥様、あまり優しくするとこの男は付け上がりますよ」

ニコラも容赦の無い言葉で、無遠慮に怒っている。


そんなクロードに救いの天使が現れた。

リュシーの部屋の扉をノックして入ってきたのは、アシルだ。


「今日は、リュシーもおとうさまも朝食に来られなかったのはなぜ?」

「「「・・・」」」


一同会話をピタッと止める。


「そうだ、アシル。私から君に伝えたいことがあったんだ。いいかい?」

クロードはこの天使を抱き上げてこの窮地を乗り越えようとする。

「うん。いいよ。あのお話の事?」


「そうだ、結果を知りたいだろう」

「うん、聞きたい!!」

アシルの返事に、ニコラとジゼルはシズシズと部屋を出ていった。

ジゼルは最後に、一睨みを忘れなかったが・・。



「リュシーはご病気なの?」

「いいや、違うよ。その・・」

クロードが言い澱むとリュシーが顔を赤らめながらも答える。


「昨日、ちょっと無理をしたせいで今日は体中、筋肉痛なの。だから心配しないで大丈夫よ」

リュシーのいつもと変わらない微笑みに、アシルは安心してクロードの話しに戻った。


「よかった。リュシーが病気なのかと驚いちゃった」

「うん、これからは気を付けるよ・・・」

クロードが再び反省を口にするが、意味が分からずアシルは首を傾げる。

クロードは誤魔化すように話を続けた。

「えーっと私が話たいのは・・・昨日私はリュシーに結婚して欲しいと申し込んだ。それでリュシーからOKの返事をもらったよ」


アシルの顔が、にぱーーーっと晴れ渡った顔になる。


「それじゃあ、リュシーは僕のおかあさま?」

「そうよ、これからも宜しくね」

微笑むリュシーに早速アシルがリュシーを呼ぶ。


「・・おか・・あ・さ・・ま?」

「なあに?」

嬉しさに震える息子を見て、クロードが自分の妻子を抱き締めた。

「私の愛しい妻と息子だ!!」






この喜びの日から、数日経ったある日、ニコラがリュシーのお披露目のパーティーを開いた方が良いのではと言い出した。


クロードはこの意見に反対だった。

こんなに可愛い妻を沢山いる男に見せるなんて、考えただけでも虫酸が走る。


「そうは言いますが、これから公爵家の奥様として他に招待をされる事が多くなります。まず味方の多いこの屋敷から『パーティー始め』をさせてあげる方がよいかと存じます。」


「そうだな。この屋敷なら、我が妻の手に触れようとする不埒な野郎を、そのまま牢屋にぶちこむ事が出きるな」


「・・・。ダンスがあるので、手に触れたくらいで牢屋に入れると、さすがにうちの牢屋でも、あっという間に満員になりますね」

女漁りはなくなったが、違う頭痛の種に、ニコラが眉間を指で挟み強く押し頭を振る。


だが、このクロードは嫌いじゃない。子煩悩で度が過ぎる愛妻家。

本当に変わったとニコラが笑みを漏らした。


「その前に奥様にはドレスが全くありません。以前に用意したのは元侍女頭のエマが準備したせいもあって、奥様の赤い髪の毛には似合わないドレスばかりです」


クロードは初めてリュシーに会った時のドレスを思い出した。


真っ赤な髪の毛に、オレンジ色のドレス。

目がおかしくなりそうな組み合わせだった。


「そうだな、仕立て屋と最近王都一流行りのデザイナーを呼んでリュシーに合うドレスを作らせろ。それから3日後、彼女を連れて宝石店に買い物に出掛けるので、ウルバーノに警護の計画をしておくように言っておいてくれ」


「了解しました・・・宝石店には三日後ですので、くれぐれも奥様がその日、動けないような事にならぬように、お気を付けて下さいね!」


「・・・分かっている」


これで、クロードのリュシーへの濃厚な接触の自粛と王都への初めてのデートが決まった。




王都での買い物に、クロード、リュシー、アシルの三人は同じ馬車で出掛けた。

この三人で出掛けるのは初めてなので、アシルはとても緊張していた。


「アシル、そんなに体に力を入れていては、酔ってしまうわ」


「はい、おかあさま。でも緊張してしまって・・・」

アシルの体はずっと針金のように

、同じ形のまま動かない。

「ほら、私の膝に乗って、外の景色を見てごらん。楽になるよ」


クロードがアシルを膝の上にのせると、アシルは沢山の人が行き交うのが見えた。

その途端に、はしゃぎだし体の固さも取れていった。


「旦那様は本当にアシルの事をよく分かっておいでですわね」


(旦那様・・・クロードとも呼ばれたいが旦那様もイイ!!!)

喜びにうち震えるクロードは、ハッと二人の視線が自分に注がれている事に気付く。


「コホン、リュシーが私にアシルの事を教えてくれるからだよ」


和やかな雰囲気のまま、王都一番の老舗宝石店に着いた。


ここで、クロードは自分にとって一番のライバルであるアシルに、勝負を申し込んだ。

「リュシーに似合うアクセサリーを、アシルも一つ選んでくれないか?」


「僕が選んでもいいの?」

アシルは以前にシュクレ市場で願った事を思い出した。

リュシーに宝石をあげたいと・・


「僕、おかあさまに一番似合うのを見つけるよ」

「そうか・・でも、一番は譲れないな」

笑うクロードとアシルは意気揚々と店に入った。


店の主人セルブスは50歳の白髪混じりの髪をオイルで綺麗に撫で付けたナイスミドルなおじさまだ。


リュシーの指に光る指輪を見てそっとクロードにささやく。


「いらっしゃいませ。コルネイユ公爵様。どうやら、上手く事を成し遂げられたようで、おめでとうございます」


「ああ、ありがとう。君のお陰で妻に似合ったものを用意できた。それで、今回は彼女が自分で選んだアクセサリーと、それから」

と言ってから、隣に並ぶアシルに目をやって話を続ける。

「私の息子と私でどちらが彼女に似合うアクセサリーを見付ける事が出きるか競争をすることになってね、是非ともアドバイスを頼むよ」



店主セルブスはクロードの隣の小さな紳士に微笑む。

「では、私の店の商品をご覧頂き、『これだ!』と思う物があれば仰って下さい。まずは直感で探しましょう」

この二人のやり取りを暖かな目で見守っていたクロードは自分も宝石店の店内を探し出した。


リュシーにとって宝石店での買い物など初めての経験で、アシルに的確なアドバイスをしているセルブスの意見を小耳に挟みながら探した。


リュシーはどれも美しく目移りする。しかし、その高額な値段を見て今度は値札ばかり気になる。


デザインより値札しか見ない。

それでリュシーは、ゴールドとパールを使用した小振りなアクセサリーを選んだ。


アシルとクロードが選んだアクセサリーを見た店主セルブスは絶句した後、ニヤついた。


「これはこれは・・親子揃って自分の瞳の色の宝石を選ぶとは・・・流石です・・」


奥歯に何か挟まっている物言いだ。


「お二方のアクセサリーは素敵ですが、奥様の髪の毛にはお二方の選んだ色を合わせたこの商品の方がより映えると思いますがどうでしょう?」

セルブスが持ってきたのは、クロードのグレーを意識したプラチナにアシルの瞳の色のサファイアがデザインされた物だった。


「いいな」

「うん。おとうさまと僕でおかあさまを守っているような気がする」

「本当に素敵ですわ」


クロード、アシルとリュシーの三人が納得のアクセサリーだ。

すぐにこれは決定した。


「セルブス、これ以外に何パターンか君が見繕って屋敷に送ってくれ。やはりプロの目利きが一番だと思い知ったよ」


店主に完敗を期したクロードは、後の作業をセルブスに任せて店を出た。


店をでた三人は、次の店を目指して歩きだした。

「リュシー、君が好きだと言っていた果物を買いに行こう」

クロードが言うと、リュシーの顔がふわりと綻んだ。






この同じ王都で、働きだした女がいた。

リュシーの義妹のオレリアだ。

彼女はお金が尽きた家で、父であるアベーレ・ルコック伯爵に金持ちの老人への結婚話を強要された。

「私が働いてお金を稼いでくればいいのでしょ! だから結婚はしないわ」

そう言って見付けた仕事は、店に野菜を運ぶ仕事だった。

しかし、貴族のお嬢様には重労働だった。そしてその辛さにすぐに逃げ出してしまった。

そして、次に見付けたのは皿洗いだった。

始めは皿を割る度に怒られていたが、今は何とか怒られずに仕事をしている。


お昼ご飯は、賄いがでるがほんの少しだ。だが少しでもお腹に入るのは嬉しかった。

今日も賄いのサンドイッチを持って店の外にでた。

天気の良い日は気晴らしのために、店の外に出て食事をするようにしていた。


今日もいつものように、店から出てベンチのある公園に行こうとしていた。


そんな時、リュシーと言う名前を耳にしたのだ。

ピクリと足を止めてその名前が聞こえた方を探す。


そして、馬車に乗り込む赤い髪の毛が見えた。

だが、人が多過ぎてその顔を見ることは出来なかった。


オレリアは走り出す馬車を追いかけたが、敵う筈もなくどんどん遠ざかり、やがて見えなくなった。


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