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クロードの風邪も治り、すっかり元気になっていた。

しかし、コテージの暮らしが気に入ったのか本館に戻らずここで暮らしている。


クロードはアシルとの約束を果たすために、二人で一緒になぜかコテージ横にピザ窯を作っているのだ。

二人で遊ぶとはこういう事なのだろうか? とリュシーは疑問に思ったが何せ二人が泥んこになって作っているのだから、微笑ましくもあり、口出しせずに見守っている。


この光景をニコラも喜んでいる一方、仕事が溜まるとクロードを引きずって本館に戻っていくのを繰り返していた。


クロードは本館から帰ってくるなり、アシルと二人で煉瓦を積み上げてピザ窯を作っている。

リュシーは頃合いを見計らい「もう晩ご飯だから、手を洗って来なさい」と声を掛ける事が日課になった。


「うふふ。リュシーもうすぐね、ピザ窯が出来上がるんだよ。そしたら、おとうさまとピザを焼くから、一番初めにリュシーに食べて欲しいんだ」

手は洗ったが、顔に泥を付けたままのアシルが食卓に付きながら顔を上気させて言う。


その泥だらけの顔をクロードが、タオルで拭いている。

「ほら、アシル。こっちを向いてくれないと拭けないよ」


もうどこをどう見ても仲の良い親子だ。


「二人が焼いてくれるピザかー。楽しみだわ」

リュシーは想像しただけで、笑みがこぼれた。


「そのときは是非私にも下さいね」

なぜかニコラが食卓に座ってスープを食べている。


「ニコラはどうしていつもここで食事をしている? お前は本館で食えるだろう?」

クロードの真っ当な言い分に、ニコラはやんわり躱す。


「ここは、そんなケチ臭い事を言わないで下さいよ。ねえ、奥様(▪▪)


ニコラがいつもより力を込めて『奥様』と言ったがこの二人は意味を理解していないのか、スルーされた。


「そうね、みんなで食べた方が美味しいもの。さあ、ジゼルも飲み物を用意したら一緒に頂きましょう」


リュシーの一声で、クロードもニコラも大人しくなる。


それに、今は大勢で食べる方がリュシーには有り難いのだ。

それはクロードが毎日ここに帰ってくるようになってから、どうも居心地の悪さを感じて、浮き足だってしまうからである。




食事が終わって、片付けをしているとクロードが食器をもってキッチンまで持って来てくれた。


そんなに広くないキッチンでは、二人の距離が近くてドギマギしてしまう。

少し距離を取ろうと後ろに下がった時に、リュシーの足がガクッと力が抜けて転びそうになる。


そこをクロードはすかさず、片方の手は食器を持ったままで、もう片方の手でリュシーの腰を持ち、抱き上げた。


「ゴゴゴごめんなさい。私ったらうっかりして・・もう大丈夫です」

大丈夫と言ったのが聞こえなかったのか、クロードは腰に回した手を緩めない。


その体勢のまま、食器を流しのなかに置くと空いた手でリュシーの頬に当てた。

そして、愛おしそうに髪を一掬いしてその髪に口づけた。


男性の耐性が殆どゼロのリュシーの目の前で行われた一連の動きは、あまりにも効果がありすぎて、リュシーは腰を抜かしてしまった。


「ちちち力が抜けていく・・・」

変な海老反り体勢のまま落ちそうになるリュシー。それに驚くクロード。

「えええ? ちょっとリュシー? あれ?」

キッチンの異変に気が付いたニコラとジゼルは、二人の変な空気と進展の無さにがっかりして肩を落とす。


そして、名ばかりの公爵夫妻をキッチンに残しニコラがジゼルに提案を持ちかけた。


「どうだろうか? ジゼルは私がしっかりと守るからしばらく私の執事執務室で寝泊まりしてくれないだろうか? このままでは、なんの進展もないままになりそうだ」


「はい、私もこのままではいけないと思っていました。強制的に二人っきりにすればさすがに何らかの進展がみられると思います」


風邪の看病がきっかけで、二人の距離は縮まり、親子の雰囲気も良い感じになった。

これで一気に動くかと思えたのだが・・・


実際にアシルとクロードの親子関係は本当に良くなった。

しかし、うぶで奥手なリュシーに、クロードがまさかの自分からは誘えないというヘタレぶり。


そして、先日とうとうクロードから、ニコラに直接相談があったのだ。


「ニコラ、女性に好きになってもらうにはどうすれば良いだろう?」

25歳の男でしかも結婚経験者から質問されるとは思いもよらなかった。

「そんなの、しっかり良い雰囲気になったところで、『好きだ』とか言えば良いんじゃないですか?」

俺は未だに独身で現在恋人もいないのに、なぜ俺に聞くのだ!!とニコラは心で吠えた。

だが、久しぶりに素直に聞いてくるクロードが弟のようで嬉しかった。


「その、いい雰囲気にするのが難しいのだが・・」

「そうだな、ちょっと腰を抱いて、彼女の髪の毛に口づけをするって言うのはどうでしょう?流石に気が付くと思いますよ」


「髪の毛に口づけか・・・やってみよう」


この顛末が先程のあれである。

スタート位置にも立てない二人に、ため息が出そうになるのは仕方がないだろう。


ニコラとジゼルは二人で頷き、決まったが早いか、リュシーとクロードに報告をしにキッチンに行く。


「奥さま、今日から私はニコラ様の執務室で寝泊まりさせて頂く事にしました」

ジゼルの突然の申し出に、リュシーが大反対だ。


「ジゼルはまだ15歳だというのに、28歳って何歳差よ!」

怒れるリュシーにジゼルが冷静に訂正をする。


「私、先週で16歳になりました」


「ええ? お誕生日のお祝いをしていなかったわー。ごめんなさいジゼル。今度しましょうね。・・・そうじゃなかったわ。ニコラあなた一体いつからジゼルにそんなことを!!!!」

リュシーは怒りの形相でニコラに詰め寄る。


「ちちち違います!!執務室をジゼルに譲って俺は使用人の専用棟で暫くいようと思っていました!!」

変な事を勘ぐられ、ニコラは仰天する。


「奥様、落ち着いて下さい。私はニコラ様とそんな関係ではございません。クロード様と奥様に二人揃って本館にお住み頂こうと働きかけてる人達がいるので、そのお手伝いをしようと、暫くの間ニコラ様のお部屋をお借りするだけです」


一番若いのに、冷静に理由をのべるジゼルにすっかり毒気を抜かれて、リュシーは納得するしかなくなった。


その横で、見るからに元気のなくなった男がいる。

ニコラだ。

「そんなにハッキリ言わなくても・・・」

しかし、この男の傷心に気付かないリュシーはフムフムと顎に手を置いて考えている。


確かにクロードがここにずっといるのは良くない。でも本館に戻るなら親子だとクロードが認めた今、アシルも正当な後継者として、一緒に本館に戻るべきなのだ。

確かに根回しとアシルの部屋の確保は必要だ。

そう考えたリュシーは、ニコラにジゼルの事をお願いした。


ここでしっかりと親子の絆を育んで、それから本館に戻れるなら、その方がいい。

そう思ったリュシーは自分に出きる事は頑張ろうと気合いを入れる。




親子三人の穏やかな日常が始まった。

本館の業務に出掛けるクロードを、リュシーとアシルが『いってらっしゃい』と送り出す。


クロードは、この時にリュシーのいってらっしゃいのキスがあれば、どんなに素敵だろうと夢想する。そして、今日こそ彼女にこの気持ちを伝えるんだと燃える。



クロードの執務室では、固い顔のニコラがいる。

「まだ、何の進展もないと?」


「今日はいってらっしゃいと微笑んでくれた。まるで新婚家庭だよ」

いや、新婚家庭だろう・・とは言わず、コホンと咳払いした。


「それより、告白をしたのですか?」


クロードがその質問に、自信ありげに答える。


「今日こそは『結婚してください』と言うつもりだ」

どうだとばかりに胸を張る。


「・・・クロード様、お忘れかも知れませんが、お二人は既に結婚をされています」


ガタッッ!!!


立ち上がったクロードは、口をパクパクしている。

ショックで声がでないらしい。


寝ずに考えた台詞が、ニコラによって白紙になったのだ。

精魂を使い果たしたクロードが不憫になり、助け船をだし妥協案を

言う。


「まだ、しっかりと自分からプロポーズをしていないのですから、指輪をお渡しして、ご自分の気持ちをしっかりとお伝えするのはとても重要だと思います」

この奥手な二人は、ちゃんと手順を踏んで進ませた方が良いだろう。


ニコラが『もう用意されたのでしょう?』と自分の左手の薬指を指した。


クロードは少し躊躇ったが、引き出しから指輪を取り出して見せた。

見せられたニコラは息を呑む。

「・・・グレーダイアモンド!!それをご用意するとは・・・何と独占欲の固まりのような指輪だ」


自分の瞳と同じ色の宝石を用意する事はよくあるが・・

グレーダイアモンドとは!

この国では殆ど出回る事のない宝石を手に入れる当主の思い入れに、身震いしたニコラだった。


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