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16 執事ニコラ視点(2)

執事ニコラ視点のお話です。


女と遊べば遊ぶ程に、クロードは傷ついている。

女達はクロードの美貌の虜になり、自分の男だとアピールすることで箔がついたと勘違いする。


そして、その次には公爵という身分に執着する。

この屋敷に来た女達は、絢爛豪華な屋敷の装飾を一目見ると欲が吹き出した。

そして、クロードが疲れ果てて、別れをキリ出すのだ。

何度失敗しても、よく似た女を好きになるのは、きっと母親のせいだと俺は分析している。


派手な容姿と奔放な女に母親を求めている。

その女に言い寄られると自分を母親が認めてくれたような気になるのかも知れないな。


承認欲求の現れなのだろうか?



クロード自身は認識出来ていないが、彼は本来とても愛情深い男なのだ。


だから、彼の愛情に応えられる懐が深く母のような愛情を持ち、彼の見てくれよりも中身を見てくれる女性を探していた。


それがリュシーだった。

苦労人のリュシーは、貴族社会のプライドも欲もなく、クロードの母にはなかった母性を持っている。


俺はお前よりも心の奥に持っている理想を知っているんだ。

長年の付き合いをバカにするなよ・・・。

お前の本当の好みは、お前よりも知っている。


だが、ッぷふううーー!


あんなに簡単に恋に落ちるなんて、昔から分かり易い奴だったがこんなにもチョロ・・・

昔からの付き合いとは言え、仮にもクロードは公爵様だ。


心の中でも口には気を付けよう。


クロードの奇行はリュシーを見ると始まる。

料理長になったばかりのシモンに、リュシーが料理を教えて貰っている所に遭遇したクロードは、見物だったな。


急に青ざめた顔で回れ右をして、立ち去り、数歩先で廊下のチェストに足の小指をぶつけて踞っていた。


残念な事に、クロードはなぜ自分が焦った行動をしているのか理解は出来ていない。

面白がっていたが、恋愛に関して進歩が見られないクロードに俺は少々苛立ってきていた。


しかし、漸くアシルを自分の子かも知れないと言ってきたのには、驚いた。


誰が何と言っても、認めなかったのに・・


自分と同じ魔法の炎が出せた事で、自分の息子では・・・?と思ったようだ。同じ火属性の人が魔法を使っても血の繋がりの有無で炎の色や形が微妙に違うのだ。


クロードはアシルが自分と同じ色と形の炎を作り出したのを見て、なにかしら思う所があったようだが、もっと確信に変わったのは、あの子が笑った顔を見て気付いたのだろう。


屈託なく微笑むアシルの顔は、本当にクロードに似ている。

あの子の笑顔を引き出せたのも、リュシーのお陰だ。

自分の息子だと確信を持ったクロードとアシルの関係は、きっと良くなっていくだろう。


リュシーのお陰で一つ問題が片付き掛けている。

そして話は戻る。

もう一つの問題の方だが、クロードはリュシーに他の女とイチャついているところを見られて明らかに動揺していた・・・。


あの様子では自分の恋心を知った筈だが、クロードは今まで自分から追いかけなくても、女達が飴に群がる蟻のように囲まれていたせいで、自分から追いかける事が出来ない。


あのパーティーの夜だって、立ち去るリュシーを五歩追いかけただけで、すぐにしゃがみ込んでしまった。


好きな女一人、追うことも出来ないなんて、俺は物陰から『走れ』と叫びそうになったが、クロードの性格上、俺がなにか指示を出すと、意地になって動かなくなるのは分かっている。


だから、言葉を発せず見ていたがうーん・・本当にヘタレだった。

いじけるクロードは哀れで、笑い・・・カワイソウだった。

これはいい傾向だと安易に思ったのだが、上手く行かないものだ。


ああまでクロードにリュシーの関心が無かったのは、想定外だった。


クロードの顔は誰が見てもいい男だし、身分も申し分ない。一緒にいれば大抵の女は数分で落ちる。


・・・と思っていたが、リュシーには息子を放置した、女にだらしない男と言う認識しかないのか?


確かにあの出会いはリュシーに悪い印象しか与えなかった。

とは言え、クロードが見つめれば大抵の女が落ちる・・・んだが・・。


本当にこれは手強い。

あんなにもあっさりリュシーが立ち去ってしまうとは、想像もしていなかった。

少しでも嫉妬心を覗かせてくれれば、クロードにも光が見えた筈だ。


だが、リュシーの立ち去り方に、一切の葛藤はなかった。


ヘタレなクロードには、ウサギ対狐・・いや、ネズミ対獅子並みの強敵だが頑張ってくれ。こんなに面白い・・・コホン。

俺は公爵様の努力が報われる事を祈っている。


俺は、打ちひしがれているクロードの傍に行き、「公爵様、お客様の接待を忘れずにお願いします」

と声を掛けた。


公爵家の主が、こんな所で踞って、客をほったらかしにしていたと変なうわさを立てられてもいけない。


クロードは、元気なく頷くとフラりと立ち上がり、庭から人々が煌びやかに笑っている部屋に戻っていった。


大丈夫だろう。たぶん・・


俺は急ぎ、リュシーのいるコテージに向かった。

可哀想なクロードの為に少し弁明をしてやろうと考えたからだ。


コテージに行くともう、アシルはベッドに入って寝ていた。

リュシーは、ジゼルと紐を使って美しい飾りを作っている。


俺はその飾り紐を手に取り感心した。

「へー、紐一本でこれほどの飾りが出来るなんて、奥さまは器用ですねー」

出来上がった飾りを、目の前で回転させて裏表を、興味津々で見た。


「そうなんです。奥様は他にも沢山お作りになっているんですよ」


ジゼルが飾り結びで作られた、タッセルを持ってきた。


「これは美しいな。本館のカーテンに付けたいな。でも、こんなに沢山作ってどうするのです?」

俺は目の前に並べられた紐飾りの多さに嫌な予感がした。


「ああ、これはここを追い出された時のために作っているんですよ。いざとなったら、これを売って生活費の足しにするんです」


逞しい・・本当に伯爵令嬢なのか? 生きる力が雑草並に強いのは前向きな性格の賜物なのか?


ここでハッと我に返る。

感心している場合ではなかった。

俺は慌てて否定する。

「いやいや、クロードが貴女を追い出すなんてしないですよ」

「いえ、追い出されるのは予測より早いかも知れません。だって、さっき私見たんです」

『何を』と聞かなくても分かっている。


「クロード様と女性が抱き合っていましたもの。しかも、いい感じでしたわ。でも、クロード様をあの女性にすんなり渡すわけにはいきませんわ」


リュシーの言葉に俺は、淡い期待を抱いた。

「もしかして、奥様もクロード様の事を・・・?」


「だって、あの女性がアシルを大切にしてくれる女性なのか、見極めるまで、追い出される訳にはいきませんもの」


期待を裏切られてぐったりしている俺の手を、リュシーはぐっと力を込めて両手で握った。


「ですから、ニコラも協力してください。あの女性がアシルを大事にしてくれる人なのか確かめたいのです。頼みますよ」


握られた手の力に、リュシーがクロードの事を、1ミクロンの興味も持っていない事を悟る。

何か言わないと・・これ以上勘違いされては、さすがにクロードが可哀想だ。


「あの、奥様。クロード様はもう女性の付き合いは控えられています。貴女という伴侶が出来たのですから・・・」

今さら感はあるが、取り合えずクロードの弁護を言って見た。


「ええ!? あれで控えられているのですか? 他にも沢山アシルの母親候補がいらっしゃるという事ですね・・・」


「いや、そういうことではなくて・・」

俺は自分の発言がおかしな方向に行ってしまったと焦り、再び口を開けた時に、リュシーが「分かりました」と頷く。


「ジゼル、私はもっと多くの内職をした方が良いかも知れません」

リュシーは眉間にシワを寄せて、酷く難しい顔をしている。

ジゼルも何か決意したように、紐を手にしている。

「私も頑張って作ります」


「そうね、アシルを(ないがし)ろにするような女性を選ぶなら、アシルと二人でここを出て行くわ」


「奥様、私もどこまでもついて行きます」


リュシーとジゼルが盛り上がる中、修正不能になった事を心の中でクロードに詫びる。


すまない、クロード。俺が悪かった・・後は自力で何とかしてくれ。


黙々と作業を始めたリュシーとジゼルを放置して、俺はコテージを後にした。


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