表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

第八話「文化祭に向けて」

あのメモの柄について、親に借りたパソコンで調べたら、


どうやら女子中高生の間で流行っている


キャラクターものらしい。


一瞬でも唯を疑った俺がアホみたいだ。


振り出しに戻ってしまった。


あのメモの意味は何かは結局調べようがないか…。







夏休みが明けた。


初日から波乱があったが、夏休み中はそれなりに


充実した日々を過ごすことができた。


夏休み中は、数回だが、遊園地に行ったクラスメートで


遊ぶ機会があり、少しだが俺は智美と打ち解けた。


正直、気が進まなかったが、普通に話すのを拒むのも


周りから見ると変に見えるだろう。


それに秋本や冬田とも楽しそうに話していたし、問題ないだろう。


さらに言えば、秋本が智美に好意を持っているようにも見えた。


そのまま、秋本や冬田と引っ付く。俺以外の誰かと付き合ってもらえれば、


俺のNTRリスクは減るはずだ。


9月、まだまだ暑い日々が続く。残暑どころか、まだ酷暑だ。


そして、夏休みが明けると、いよいよ俺の第一の転機が訪れる。


文化祭だ。


この文化祭で、剣太、智美、或いは唯と、より仲が深まることとなる。


文化祭では劇をすることになる。


劇の練習を通して、演劇部の智美と仲良くなるというのが、


智美と付き合ったパターンだ。


同じく、劇の練習を通して仲良くはなるが、放課後に


唯と2人でセリフを合わせたりして、仲が深まって、唯と


付き合ったパターン。


一応、他の子とも練習したりしてみたが、付き合うほどに


仲良くなれたのは、2人だけだった。


剣太は、同じ脇役が当たり、何となく気が合う。そんな感じだった。





「みんな、夏休みは有意義に過ごせた?今日は


これだけ決めたら、終わりにするわ。


文化祭。このHRの時間で何をするのかを決めて


欲しいと思います。それでは、学級委員さんにお願いするわ。」


藤原先生はそう学級委員に指示をし、壁際に移動した。


学級委員の2人が前に出て、司会を始める。


皆が出した意見を黒板に書いていき、結果、多数決で劇に決まった。


演目は、演劇部の志穂と智美が脚本を書くから


任せて欲しいと、オリジナルの演目をやることとなった。


ここはどうも変わらないようだ。


教室展示の場合は1日中拘束されるが、舞台を使う場合は、


30分で終わる。


結果、舞台に出ない係になるのであれば、展示と


比較して楽なのだ。


役と係も今日決めてしまい、決まったら帰っていいらしい。


学級委員の2人が即席のクジを作って、皆の席を回る。


俺も1枚引いた。


今回も少年Bを引いたようだ。


つくづく、クジ運が悪い。


役がすべて決まったようだ。


主役は壮馬と、智美と同じ演劇部の志穂。


準主役は、秋本と智美。


後は脇役で、俺や、剣太、唯の他、男女7人が当たり、


その他は大道具などの係だ。


…今までであれば、拓も脇役に当たっていたが、


拓は夏休みが明けても登校してきていない。


不登校の中学生は全国で10万人くらいだと聞くが、


本格的に不登校となっているようだ。


そうして、今日決めることは全て決まったため、


帰れることとなった。


すると、智美が小声で俺に言ってきた。


「役の決まった人は練習どうするかかも決めて


おきたいから、残ってほしいんだけど、


少しだけ残れるかな?」


そうなることを知っていた俺はそんな素振りは見せずに、軽く頷く。


夏休み以降、少しだけ距離が近くなった智美に警戒はしているものの


これも予定されていた出来事の1つであることだから。


何らかの役が決まったクラスメートたちに対して、


説明をするのは志穂と智美と川村さんだ。


川村さんは俺と同じく脇役だが、この子も演劇部だ。


説明が進むにつれ、主役や準主役から、質問が出て、


それに答える智美たち。


しかし、しっかりしてるなこの子たち。


順調に説明は進んでいる。しかし…、俺は


気にかかっていることがある。


もちろん、拓のことだ。


…拓はいつまで学校に来ない気なのだろうか。


このまま来ないなんてことはないだろうか。




突然、剣太が少し怒声を孕むような声をあげる。


「は?俺、ダンスなんかしたくないんだけど?」


そうだった…。剣太はここで一度キレて帰ってしまう。


決まったことくらいやれよ、屑め。


志穂が収めようとするが、この屑はいつもどおり止まらない。


「ダンスって言っても、そんな難しいものじゃないから。」


「そんなことはどーでもいい。俺はダンスとか嫌いなんだよ。」


教室の空気が険悪になる。屑が。


秋本と智美が諫めるが、剣太の態度は変わらない。


俺も仕方なく、2人に交じって、なだめるがやはり効果はなく、


剣太は、立ち上がり廊下に出たところで、


俺たちが制止するのも聞かず、帰ってしまった。


諦めて、俺たち3人は教室に入ると、教室の空気は


当然のように重かった。


「まあ、あいつはああいうやつだし、でも最終的にはやるやつだから。」


「…そうよね。」


「あいつ面倒なやつだな。」


「自分以外も同じようにクジで決まってるのに。最悪。」


「だね。」


みんながめいめいに心情を吐き出す。


「ごめんね。そんなに嫌がると思ってなくて…。」


「志穂のせいじゃないって。」


「全くだ。裸で踊れとかそんなこと言ってるわけじゃないんだし。」


「だいたい、アイツの好きなアイドルも、めっちゃダンスしてるやん。」


「あー、そういや、団扇持ってきてるね。」


「とりあえず、今日はアイツのところだけ省いて、早めに終わらせようよ。


俺も帰って、昼飯が食べたい。」


俺は智美に向かって、空気を変えるためにも、


説明を続けるよう促した。


智美にも伝わったようで、少し落ち込み気味の志穂に代わって、


智美が説明を行い、15分程度で終了した。


明日以降、台本が配られるので、まずはセリフを


覚えて欲しいというところをお願いされて、解散となった。


俺は何度も覚えたセリフなので、未だに何となく覚えている。


主役は結構セリフが多く、壮馬は結構、苦戦することになるのだが。




校門を出たところで、智美に会った。智美の方が先に出ていたので、


どうやら待ち伏せされたようで、俺の顔を見つけると、


少し笑顔になって近くに寄ってきた。


智美の笑顔は苦手だ。楽しかった時を思い出す。


嬉しさと苦しさが混じる。


「ごめんね。今日。それと…、ありがとう。」


「俺は何もできてないよ。アイツが帰るのを止めれなかったしね。」


「ううん。一緒に止めてくれて、ありがとう。」


「それなら秋本でしょ。あいつが真っ先に止めに


行ってたし。俺はついでだよ。」


「うん。秋本君にもさっきお礼したとこ。」


「上手くいくといいな。劇。」


「うん。ありがとう。」


「それじゃ。」


「うん。また明日。」


そうして家に帰ると…


智美から電話があった。昼飯を食べに行こうとの誘いだった。


俺の家は共働きだったので、昼飯は自分で作るか、


何か買ってくるかだったので、


迷いつつも、俺は了承し、近所のファミレスの前で


落ち合うことになった。



「ごめん。俺の方が家近いのに。待った?」


「ううん。私も今来たとこ。」


今日は、俺の方が早く着くと確信してたのだが、


あっさり智美が先に着いていた。


「ちょっと、モヤモヤしててさ。誰かともう少し話してたかったんだ。」


「女子会とかの方が良かったんじゃ?」


「ううん。皆、お昼は家で食べるって。うちだけ親が共働きだからね。


だから、夕方頃から集まるよ。」


「じゃあ、遠慮なくクラスのアイドルさんとお昼いただきます。」


「アイドルならおごってもらえるのかな?」


「そんなにお小遣いもらってないです。」


「仕方ないなー。頑張って稼ぐ男になってね。」


ふざけつつ、俺たちは店の中に入っていった。


俺たちはランチセットを注文し、出てきた料理を食べながら話す。


今日の剣太の話や、文化祭についての話。


夏休み中に遊びに行った話。


話すネタには困らないような間柄にはなりつつあった。



こうして話していると、表面上は、本当にいい子だ。


なのに、いつも必ず俺を裏切る。


しかし、距離を取ろうとしても、何となく近づいてきてしまう。



「そういえば…。」


俺はふと気になったことがあって聞いてみた。


「智美って、演劇だけじゃなく、掛け持ちで部活してるけど、


なんで掛け持ちしてるん?」


智美は少しキョトンとした表情になり、


「え?リョータが声かけてきたんだよ?」


「!?」


そんなバカな…。そんな記憶はない。


「え?そうだったっけ?」


「うん。酷いなー。ちょっと感じ悪いかもー。」


「ごめん。なんて声かけたっけ?」


「俺と来いって!」


「え?」


俺は、絶句した。


「俺は、本当にそんなことを…?」


「ばーか。ほんとに忘れてるんだー。感じ悪いなー。」


「ごめん。」


「仕方ないなー。そんな大したことじゃないんだけどね。


2年になった時に、他の部活もしてみたいなーなんて話を


してたら、奏にバレー部が緩いって、リョータが言ってたってなって。


で、その場でリョータに聞いたら、緩いし、掛け持ちでも


行けるからどうだ?って言ってくれたんだよ。」


「ごめん。すっかり忘れてた。」


「アイドルに言ったことを忘れるファンなんて居ないと思うけど。」


「本当にごめん。」


「ううん。怒ってないよ。ちょっと見損なっただけ。」


「ううー。ごめん。」


「まったくしょうがないなー。」


智美は、口調とは違って怒ってないようで、


揶揄うような表情を見せた。


しかし…、そんなやり取りの記憶はない。日常の


ありふれた会話の中での返事だからだろうか。


確かに俺は2008年6月18日以降の記憶を20回分持っているが、


それ以前の記憶は1回分しかない。


それが徐々に薄れて忘れてしまったのだろうか。


その後も智美と話は続き、2時間ぐらいで店を出た。




…鈍い俺はこの時は気付いていなかった。


俺は2年の時は、いつも『バスケ部』だった。記憶だけではなく、


戻る以前の過去も変わっていたのだ…。


過去が変わっていることに気が付ければ…。俺は数年後にそれを


思い知ることとなる。






「ちょっと長居しちゃったね。」


「こちらこそ。楽しかったよありがとう。」


「私は不愉快にさせられましたけどねー。」


「ほんっと、ごめん!」


「しばらくは使えるかな?じゃあ、また明日ね。バイバイー。」


「うん。また明日ー。」


こうして、今日2度目の智美と別れて、俺は帰宅した。


ふと、思う。俺にとっての智美への復讐とは何だろうか。


剣太に対しては、俺は殺意すらある。


色々考えたが、アイツは殺す。殺すしかない。絶対に。


俺の中で、少しづつ答えが出つつある。


しかし、智美に対してはどうだろうか。


何度も好きになり、愛した女。


そのたびに俺を裏切ってきたクソ女だ。


今の智美と接していると、俺の憎悪が


薄まるような気がするときがある。


それに、俺は智美に殺されたかも知れない。





どうして…、どうして、いつもお前は俺を裏切るんだ…。どうして…。


机の上に置いてある、握りつぶした写真を開く。


俺は…、


ハサミで、剣太と…、智美の顔を何度も突き刺した。


俺の行き場のない怒りを込めて…。






しかし、俺の気持ちとは関係なく、また少し事態は変化する…。


翌日から、また1人、生徒が登校しなくなった。


今度は秋本が学校に来なくなった…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  謎が謎を呼ぶ。  やっべぇ凄え面白い。 [気になる点]  秋山→秋本ですかね。 [一言]  次回も楽しみに待ってます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ