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第六話「終業式…そして」

明日から夏休み。終業式も終わり、担任から夏休み前の最後のHRが行われていた。


担任の藤原先生が、夏休み中の非行が~、正しい生活リズム~といったよくある


注意事項を話している。


最も、明日から夏休みで生徒は少し浮足立っており、心ここにあらずの者も多そうだ。


俺もそうだ。心ここにあらずといったところで、教壇の方を向いてはいるが、


ぼーっと聞いている。


何とも言えない、喪失感を抱えたまま、俺は担任の話を聞いていた。




…あの日から、拓は学校に来ていない。




3日ほど経ってから、家に電話したが、本人には取り次いでもらえなかった。


拓と共通の友人を間に介しても、やはり取り次いでもらうことができなかった。


これまでの過去と微妙に違う過去。あくまで微妙だと思っていたが…。


俺は拓が言った言葉が腑に落ちなかった。




【なあ?応援してくれるんじゃなかったんか?】




【なあ、それが友達のやることなんか!?】




あの時は全く何のことか分からなかったが、【応援】という言葉で


思い出したことはある。




…智美とのことだ。




拓のことで応援と言ったのは、智美のことしか言った覚えはない。


だが、電話で拓を応援すると言って以来、特に智美と絡んでいない。


そして、あの昼休みの呼び出し。あれは一体、誰に呼び出されていたんだ?


幸い、あれ以降、クラスメートや友人たちから距離を取られるということは


なかった。


目撃したやつはそれなりにいたものの、男子同士のよくある話として


片付いたようだ。


だが、俺のクラスでは、1名不登校の生徒が発生してしまった。


そのため、俺はこのHRの後、事情を教えて欲しいと、担任に職員室へ


呼び出されている。


そして、HR終了の合図と共に、俺は席を立ち、教室を出た。




「ごめん。ちょっと、緊急の職員会議が入っちゃって、30分ほど待ってもらえない?」


教室を出ると同時に、藤原先生が申し訳なさそうに声を掛けてきた。


別に用事があるわけでもない、俺は2つ返事で了承し、少し教室で時間を


潰すことにした。


すぐ帰るものも居れば、明日からの夏休みのことで話すものもいる。


人はまばらながら、教室には、まだやや活気が残っていた。


30分ほどか、スマホでもあれば、簡単に潰せる時間であるが、少し手持ち無沙汰を


感じつつ、自席に座りながら、窓から中庭をぼーっと見ていた。


テニスコートでは、テニス部が部活の準備をしていた。吹奏楽部が楽器を


鳴らす音が聞こえる。


終業式まで頑張るななどと思っていると…




「あっ!不良発見!」


揶揄うような声に振り向くと、奏が後ろに立っていた。


「誰が不良やねん。」


「聞いたよ。大暴れ。」


「…ああ。」


「大丈夫?聞かない方がいいか迷ってたんだけど…。」


「悪い。気を使わせて。」


「親友でしょっ!」


「友達未満だと思ってるが?」


「ひどっ。ひどっ!」


少し拗ねたような顔で、奏が批判してくる。


奏なりの優しさで、元気付けに来てくれたんだろう。友達未満と言い放った


相手にまで、気の回る子だ。


「悪い。友達とは思ってるかも?」


「まだ疑問形??」


いいやつというのは、こういう子のことを言うんだろうな。中身も中学生だったら


確実に恋しただろうななどと思ってしまう。


「あのさ、突然だけど、明日って時間ある?」


「明日?いや暇してるよ。」


「じゃあさ、クラスの何人で遊園地行かない?」


「突然すぎるな。」


「ごめーん。ほんとは前もって聞きたかったんだけどね。」


ああ、話しかけにくかったからか。


「…悪い。色々気を使わせて。これは友達だな。うん。」


「ようやく!?ほんとひどっ。」


ああ。あったな。遊園地。恵と勇人のために行くやつだ。思い出した。


「で、なんでまた遊園地に?」


「リョータとクラスにできた溝を埋めるのさ!」


「絶対嘘だろ。」


「ひどっ!ひどっ!」


「誘ってくれるのは嬉しいけど、単に遊びに行くのか、なんか目的があるのか、


それくらいは教えてくれよ。」


「お。話が早いね。実はね、恵ちゃんが勇人君を好きでさ。それでね。」


「みんなで応援しろと。」


「正解!」


「分かった分かった。俺たちは、みんなで遊んでいるようで、実は2人を


くっつけようとするわけだな。」


「大正解!」


少し息抜きになるか。それに、こんな状態の俺にも声を掛けてくれたんだしな、


嬉しくもある。


「うん。喜んでその他大勢になりますよ。」


「ありがとー。さすが持つべきものは親友だね。」


「まだ友達になったばかりと思ったけど?」


「今、何も言わずに私の言いたいことが伝わったよ。これはもう親友。」


「親友のハードル低すぎない?」


「そうかな?」


毎回、奏のせいで失敗するんだがな。しかし、この失敗は回避しようのない


失敗ではあるんだが。


「で、集合の時間とかは?」


「はい。これっ。」


「準備良すぎでしょ。」


奏はメモを差し出してきた。


「じゃあ、明日、よろしくね!」


「ああ。」


このために残っていたのか。本当に律儀な子だ。拓がこれまで好きに


なったのも分かる。


さて、奏も行ったし、時間も丁度ぐらいだろう。そろそろ職員室に向かうか。




「失礼します。藤原先生いらっしゃいますでしょうか。」


職員室の扉をノックし、俺は藤原先生を呼び出す。


「お待たせして、ごめんね。こっちに来てくれる?」


職員会議は既に終わっていたようで、藤原先生が自席の近くに来るよう手招きする。


「はい。じゃあ、そこ座って。」


「かつ丼とかでないんですか?。」


「クッキーならあるよ?」


「いいんですか?」


「待たせちゃったからね。他の先生とか、お母さんには内緒だよ!」


隣の先生がめっちゃ苦笑いしてるんだが…。


「じゃ、遠慮なくいただきます。」


「うん。子どもっぽくてよろしい!」


先生は、手帳を開きつつ、俺にクッキーを手渡した。


事情を聴くと言いつつ、こちらが話しやすいように雑談を交えながら


聞いてくるこの先生はなかなかにやりづらい。


思わず、余計なことを口走りそうになる。


話しかけやすい若い先生でありながら、しっかりしている。生徒や


保護者からの評判もいいわけだ。


「そっか。結局、原因は分からないままなのね。」


「はい…。申し訳ございません。」


「ううん。こちらこそごめんなさい。言いにくいことを聞かせてもらって。」


申し訳なさそうにする、藤原先生にこちらが恐縮してしまう。


「じゃあ、今日はこれでいいわ。終業式で早く帰れるところ、ごめんなさい。」


「いえ、こちらこそすみませんでした。それでは失礼します。」


「はい。それでは、いい夏休みを。」


結果、30分程度で、俺は解放され、帰るために教室に荷物を取りに戻った。


もう既に教室には誰も居なかった。


俺は出しっぱなしだったプリントをカバンに入れようとすると、


見慣れないメモが、机からヒラリと落ちた。


さっきの奏のメモとは違うようだが…。拾ってみると、





【勝手は駄目だよ】



【今回はこれで許してあげる】






…なんだこれは?


勝手?今回は?


何のことだ?


俺は教室を見渡すも、既にみんな帰った教室は静まり帰ったままだ。


教室を出て、廊下を見渡すも誰もいない。


グラウンドの方から、運動部の掛け声と、セミの鳴き声が聞こえるのみだった。


定規で書いたような、不自然な文字で、そのメモは書かれていた。


「これは一体…。」


明らかに注意や警告といったような内容だ。





そうして俺は、結局そのメモを捨てきれず、何とも言えない気分を


抱えながら下校することとなった。

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