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第三十四話「光」

「それじゃあ…、俺がやり直していたのは…、奏がやっていた…というのか…?」


「そうかもね。もっとも、私だけがやり直しなんだと、最初は思っていたのだけどね…。」


「そんなことが…。」


少し体が重い。気のせいか…?




「過去に戻ったその日…。私は目を疑ったわ。夢の中なんじゃないかって。でも、数日もすると、これが現実なんだって思うようになった。見るもの触れるもの…、とても夢の中とは思えなかったもの。」


「それは、俺も同じだった…。」


「そして…、あなたは智美と付き合い始めた…。驚いたわ。前は中学の時にそこまでの仲になんてなってなかったのに…。」


「…。」


「そして、私は居ても立っても居られなくなり…、あなたに形だけの告白をしたわ…。」


「嘘告…。」


「そう…。けどね、嘘にしなければと思っていても…、結構きつかったんだよ?気が付けば何度も嘘告をして…。あなたはいつも茶化したけど…。」


「それなら…。」


「ううん。ごめん。今の言い方は私が悪かったわ。私は…、自分に自信がなかった…。あなたに釣り合う自信がなかった。こんな汚れた私があなたと付き合う資格があるのかと…。だから…、嘘にしなければ…、もし、本当にあなたにフラれたらと思うと…、嘘告でしか言えなかった。」


「奏…。」


「それにね…。」


「それに?」


「ううん。何でもないわ。そして…、あなたはまた、自ら命を絶った…。」


「…。」


「そして、私はまたあの山に行き、派手にダイブしたわ…。そしたら、やっぱりあの人が居たの。」


「あの人…。」


「そう。あの人。そしてやっぱり、またやり直しをさせてくれたわ。」


「なあ、奏…。あの人ってのは一体?」


「そうね。何なのかは私も分かってないわ。神様なのか、悪魔なのか、天使なのか、妖怪なのか…。けど、私を過去に戻してくれる。それは本物だった。それに…。」


「それに?」


「何度もやり直して…、失敗する私に同情したわ、あの人。痛々しくて見てられないって。次で最後にしようって。もし、悪魔だったら…、失敗する私をもっと見続けたいでしょうから…、悪い人ではないと思うわ…。」


「…。」


「見た目は子ども、頭脳は大人…なんて、フレーズは素敵だけども、それほどチートではなかったわね…。何度も繰り返すと、かえって変化が怖くなって人間関係を広げることもできなかったし。それに…、いくら記憶があっても…、体も、社会的信用も…子どもでは、大人に敵わない…。」


「…なあ、奏…。お前が何度も戻っていたとして…、今回は一体何なんだ?拓も秋本も…、志穂も…。冬田も…。」


「…。そうね。あなたには知る資格があるものね。」


まだ、涙が流れつつも…、どことなく感情の抜けたような声で奏は言った。


「…。」


なんだ…。目が痛む…。喉も…。


俺は思わず…、片膝をついた。こんな時に体調不調だなんて…。




「まずは…、拓君。彼には…、少し悪いことをしたわ…。智美を好きになるなんて…。もしこれが…、最後のやり直しでなかったのなら応援していたわ…。けど、私の復讐を遂げるためには…、困るの。だから…、あなたも智美が好きで、私に相談している。そう伝えたわ…。」


「な…。」


「そうしたら、拓君は壊れちゃったわ…。ちょっとお酒の力も使っちゃったけど…。」


「酒?」


「そう。相談の時にお酒を混ぜたジュースを飲ませて、少し酔った勢いに任せて話させたの。そしたら、彼…、私を殴っちゃった。そこで我に返ったみたい。自分が女子に暴力を振るう人間だなんて思ってもなかったでしょうね。そして引き籠るうちに壊れていったわ…。」


「そんな…。」


「次は…、秋本君を飛ばして…、志穂と…剣太ね。」


「な…志穂…?まさか…。」


「志穂はあの公園で襲われたわ。」


「!!」


バカな…、奏が…。志穂を…?そんな…。




「でも、あれは…。偶然だった…。冬田君の家からの帰りに…、剣太と出会ったのよ。」


「剣太…?」


「そう…。剣太。試験を控えて…、少し話さないか。そんなことだったみたい…。」


「そして、あの公園に連れ出したら…、剣太は…、潜ませていた仲間と志穂を乱暴したわ。」


「そんなバカな…。いくら剣太だって…。」


「剣太ってね。結構、考えなしに行動するから、悪い仲間も多くいたのよ…。」


「なんで…、なんでそんなことを奏が知ってるんだよ…。」


「調べたもの。」


「は?」


「あなたから智美を奪った。どうやって?私は気になって調べたわ。そうしたら…、智美も結構酷い目にあってたみたいね。最初にあなたを裏切った時は…、酔った剣太に無理やりされて、そこから逆らえなくなってたみたい。」


「…!?」


「毎回、少しづつ違うんだけど、智美は毎回、騙されて…、結果、あなたと別れ剣太を選ぶ…。選ばさせられてたと言った方がいいのかも知れないわ。」


「じゃあ、俺を刺した智美は…?」


「そう。あの智美は…、私じゃない…。本当に智美よ。」


「な…、んで…。」


俺はショックからか、少し動悸が激しくなり、息が苦しくなってきた気がする。


「あの時の智美は…、アルコールを注射されて、かなり意識が混濁していたわ…。剣太の言いなりと言っていいほどに…。」


「そんな…。」


「だから…。今回は私は剣太を殺そうとした。」


「!!」


「今回は志穂にまで手を出して…、いつもあなたを傷つける屑。いつ殺してやろうかと、ずっと思ってた…。自転車のブレーキにグリスを塗って。けど死ななかった。バカなやつほど丈夫なのかしらね。」


衝撃的な話にも関わらず、奏は淡々と話を続ける。


「引っ越して、今は逃げられてしまったけども。本人から嬉々として聞いた時は頭が真っ白になったわ。そう…。調べたというほどでもないの…。いつも抱かせてあげたら、ペラペラ、ペラペラ、いつもいつも、何回も何回も知りたくもないことを簡単に話してくれるのよ、あの屑は…。」


「本人から…。」


「そう。でも二度と現れないでしょう。何故なら…。」


「…。」


「今回は中学生の時に…、私と一緒に…、秋本君を殺した共犯者にしてあげたから。けど、志穂のことと合わせて警察に言うことを仄めかしたら、さすがに顔色が変わってたわ。」


「なっ!!」


「剣太はこの時代でも簡単だったわ。私を抱かせてあげたら…、ほんとに殺してしまうんだもの…。」


「なんで、秋本を…。」


「そうね…。この時代の彼はまだ何もしてないから、まだ罪はなかったのだけどね。」


「罪?」


「ええ。智美を酔わせて…、剣太と一緒に乱暴するのよ…、彼は…。」


「な…。」


「フラれた腹いせなのか知らないけど…、剣太とつるんで、ろくでもないことをしていたわ。何度も…。だから…、この最後のやり直しで何もさせないために…、殺したのよ…。誘い出してね。」


「秋本が…。」


「そして冬田君は…。」


「冬田も…?」


「冬田君は本当に偶然だったわ。たまにあの公園に戻ってきているのは見かけていたのだけど、まさか昨日戻ってくるなんて、思いもよらなかった…。」


「じゃあ…、奏は智美を…殺すつもりだったとでも…。」


「ううん。違うわ…。」


「だったら…。」


「真実を伝えたら…、智美がどうするか見たかったのよ…。最後の機会に…。」


「…。」


「そのために少し大人しくしてもらいたかったのに、まさか間に冬田君が入ってくるなんて…。志穂の彼氏だったのにね…。私は…。」


奏は少し天井を見上げる。


「けど、智美の答えによっては私は…。念のために、嫌だった智美の姿になってまで、ナイフを買いに行ったのだけども。それが結果的にあなたに気付かれることになるとは思わなかったわ…。」


冬田のことは…、奏の計算違いだったのか…。それにしても…剣太に秋本が…。


「そして、父は…、アイツはドライバーなのにいつも水筒にお酒を入れて飲酒運転してるのを知ってたから、テキーラをたっぷり混ぜてあげたわ。そしたら見事に誰も巻き込まず自爆してくれた…。もっと早く殺してやりたかったのだけど…、あんな屑でも保険金が有効になるまでは殺せなかったわ。これっぽっちも感謝はしてないけど、母があの屑と再婚してくれたお陰で私は大学まで行けたのだけどね。」


「…。」


「最後に…、壮馬。」


「壮馬?」


「彼を突き飛ばして…、交通事故に遭わせたもの私。」


「そんなバカな…。壮馬のことは…。」


「ええ。彼はとてもいい友人だった…。暗い私の人生に差し込んだ太陽の光のような人。リョータと唯と…。私の闇に差し込んだ3本の光があった。」


「だったら…。」


「だからこそ…、最後の機会に…、決心が鈍らないように…、私が止まることができないように…、彼を傷つけた…。私はもう…、止まれないのよ…。」


「…。」


「あの雨の中なら誰に押されたのか分からない…。せっかく智美を外に呼び出して、私だけじゃなく智美のアリバイもなくしてだというのに…。壮馬は自分で飛び出したと…。私の方を見ていたはずなのにね?」


「…。」


「本当は…、唯も傷つけるつもりだったのだけども…、結局できなかったわ…。」


「奏…。うっ…。」


俺はその場にうずくまる。


「話はおしまい。そろそろ…限界のようね?」


「な…。」


「さっきの瓶。塩素ガスなの。たっぷりと香水と消臭剤と混ぜて…、分からないようにしたけど。目と喉が痛いでしょう?眩暈もしてきたんじゃない?」


「なんでそこまで…。」


「確実にあなたと終わるためによ…。」


「なぜ…。」


「私ね。夢があったんだ…。」


「…。」


「復讐すること。」


「復讐って一体…?」


「そう。大好きなあなたを智美から奪って、智美や、屑達よりも、ずっとずっといつまでも、あなたと幸せに生き抜くの。



 それが私の…復讐!」


「…。」


「捨てられなかった智美よりも…、幸せになりたかったの…。」


そこまで言って、奏は手で目を拭った。




…俺が何度も頭が擦り切れるほどの怒り…、憎しみを背負っていたように…、奏もまたそうだったというのか…。あの狂おしいまでの怒りと憎しみの炎に焼かれ…、いっそ狂ってしまえばと…、ずっと思ってきたというのか…。いや…奏こそが…!




俺は…、何を言えばいい…、何を伝えれば、奏を止めることができる…。




ぐ…、やばい体の力が抜ける…。



「本当は…、今度こそ智美から奪いたかったのだけど…、今回、あなたはずっと智美を避け気味だったし。それどころか誰とも微妙な距離感を保とうとしていた…。最後だって言うのに…、私の復讐は叶えられそうになかった…。」


「…。」


「リョータが知りたいことはそれで終わりかな?私も…、そろそろ限界。だから…、ごめんね。リョータ…。愛してるわ…。そして…、ごめんなさい。何度も何度も、私の我儘に…付き合わせてしまって…。もう、あなたへの執着も最後だから…。」



奏は、うずくまる俺に迫り、そして…



「大丈夫。私もすぐに…。さよなら…。ようやく…、ようやく終われるの。私の…20回もやり直した…、あなたを20回も取られ続けた、21回目の復讐の物語がっ!」












「…。」


混濁する意識の中、諦めまいとあがき、うずくまる俺に…、いつまでたってもナイフは突き立てられなかった…。


上を見上げると…、


奏のナイフを持つ手が、別の手に握られていた…。





「どうして…。」




「今度こそ…、俺が、俺たちが止める。」



「何故…ここに…。」



「悪い。リョータの後を付けさせてもらった。」



「俺の…?」


「ああ。警察からの帰りに少し様子がおかしい気がしてね。あの映像の智美。あれは智美じゃない。俺だけじゃなくリョータも気付いたのかも知れないと思って。」


「え?」




奏が、間の抜けた声を出した…。





「俺も気付かないと思った?心外だな…、だってそうだろう?あれは智美に似てるけど智美じゃなかったよ…。俺が…

、好きな女が分からないなんて、そんなわけないだろう?」


「…壮馬…。」


奏が呆然とした隙をついて、壮馬は奏からサバイバルナイフを完全に奪い取り、うずくまる俺の前に立ちはだかった。





「なあ。奏…。」


「…。」


「君が、リョータと何を話してたのか、俺は聞いちゃいない。何故、智美の姿をしていたのかも。けど、俺はずっと君を止めなくちゃならないって思ってた…。」


「私を…?何故?」


「俺を突き飛ばしたあの日…。泣いている君の顔を見た…。」


「!?」


「壮馬?」





奏は少し後ずさりする。



そして…


「でも、もう…、遅いのよ!」



奏は、ポケットに手を突っ込み…、小さなスプレーを取り出すと、壮馬に向けて吹きかける。


「くっ!」


壮馬が目を抑えぐらつくと…、





奏は、別のポケットからさらにナイフを取り出した…。


「さよなら…。」


「待てっ…、奏!」



壮馬を振り切った奏が…、俺に迫る。


「!!」








「何が遅いのよ!」


今度は奏は突き飛ばされ…、手にしていたナイフが零れ落ち…、


「ねぇ…、何が…、遅いのよ…。」


仰向けになった、奏の顔に涙が落ちる。


「…唯…。なんであなたまで…。」


「私は、わたしはっ…!」


奏を押さえつけるように、覆いかぶさって泣いている唯が見えた…。


唯の嗚咽が聞こえてくる…。




そして…、俺の意識はそこで途絶えた…。

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